第41話 奥の手
広場を窺える場所まで戻ってくると、弓矢を構えてあたりをキョロキョロしているゴブリンが2匹。
今までの偵察でもたまに見たゴブリンアーチャーだな……
『残り2匹でしょうか?』
『いえ、多分、洞窟の奥にもいるんじゃないかしら』
「ギャギャ」
ん? 洞窟のほうから声がかかったのか、そちらへと向いて何か頷いている風のゴブリンアーチャー。
あの中にまだいるってなると、まためんどくさいんだけど、そろそろカタをつけに行かないとってのもあるし。
「ルピ、頼む」
「ワフ」
小声で話すと、ルピが東側へと忍び足でスルスルと移動する。
『ルピちゃんと挟み撃ちにする感じですか?』
『そうね。その前に陽動をかける気がするわね』
十分に距離が取れたところでこちらを向いて、合図を待ってくれてる感じかな。
よし、やるか……
「バウッ! バウバウッ!」
突然現れて吠えるルピに向けて弓を構えるゴブリンアーチャーたち。
ルピ、ちゃんと避けてくれよと願いつつ、それが放たれる瞬間を待つ。
ヒュッ! ヒュッ!
一気に駆け出して距離を詰める。二の矢を装填される前に、接近戦になれば負けることはないはず。
放たれた矢は大した速度でもなく、ルピがきっちりとそれらを回避したのを見つつ、ゴブリンアーチャーたちの目の前まで詰め寄る。
「ギャアッ!」
胸にダガーの一突きを食らった方が崩れ落ち、もう片方は洞窟へ逃げ込もうと背を向けて走り出したが……
「バウッ!」
走ってきたルピがその右足首に噛み付いて引きずり倒す。
「ナイス!」
『やった!』
『今よ!』
駆け寄って、必死にもがくゴブリンアーチャーに止めを刺す。
【短剣スキルのレベルが上がりました!】
【短剣アーツ<急所攻撃>を取得しました!】
【短剣&投擲アーツ<ナイフ投げ>を取得しました!】
え? 短剣スキルのアーツはいいけど、投擲スキルとの複合でアーツを獲得するとかあるんだ……
「ワフッ!」
「やべっ!」
ルピが吠え、現実(?)に引き戻された瞬間、洞窟のほうから火球が飛んでくるのが見えた。
「ルピっ!」
ルピを庇うように抱え込んだ瞬間、右肩の裏に着弾した火球が爆ぜ、ピリピリとした刺激が走る。
『ショウ君!』
『大丈夫よ。ゴブマジの火球で即死はないわ』
HPの減りは2割ほど。大したダメージでもないのか、これ。ともかく、洞窟から見えない場所までルピを抱えて走る。
「クゥ〜ン」
俺が庇ったことを気にしているのか、ルピが心配そうに吠える。
「大丈夫だって」
これくらいは想定内だし、ちゃんと準備もしてきてある。
インベから仙人笹のヒールポーションを取り出して、被弾した肩口にかけると、火傷の刺激は完全に消えてHPも徐々に回復し始めた。
『ちゃんとヒールポーションを準備してたみたいだけど、回復の仕方が違うわね?』
『あれは仙人笹から作ったポーションですね。HPが徐々に回復するそうです』
それよりも初心者の革鎧がヤバい……
「来るっぽいな。こっちが洞窟の中に入るよりはいいかもだけど……」
気配感知に引っかかったそれが洞窟の入口に近づいてくる。
ゴブリンマジシャンが1匹いるのは確実だけど、もう1匹いる。
いったん林の中へ逃げるって手もあるなと思っていたら、ルピがするりと腕から離れて洞窟の入口を睨む。
「おいおい……」
『え……』
『嘘でしょ……』
現れたのは俺よりも頭一つでかいゴブリン。そしてその後ろには魔導書っぽいものを持ってローブを羽織ってる奴。
【ゴブリンリーダー】
【ゴブリンマジシャン】
セスのライブでゴブリン集落の掃討クエを見せてもらった時に、ゴブリンマジシャンがいたのは知ってたけど、ゴブリンリーダーって何だよ……
「ギャッギャッギャ〜」
くっそ、あのゴブリンマジシャン、絶対に笑ってやがるな。
あいつの邪魔さえ入らなければ、奥の手を使ってなんとかワンチャンあるんだけど。
「グガッ!」
手に持った棍棒を振り上げて襲いかかってくるゴブリンリーダーを下がって避ける。
が、その瞬間、後ろにいたゴブリンマジシャンから石礫の魔法が放たれた。
『危ない!』
「ちょっ!」
更に一歩左へとステップを踏んで、なんとかそれを避ける。「ルピは?」と思った瞬間、きっちりとそれを避けてゴブリンマジシャンの方へと走り出していた。
『ルピちゃん!?』
『後衛狙いね!』
「グゴゥ!」
その姿に釣られて追いかけようとするゴブリンたち。
奥の手を使うなら今しかない!
ベルトに挟んであった錆びたナイフを<ナイフ投げ>で<急所攻撃>する。
ターゲットは……
「ギャアァァァ!」
首の後に刺さったそれに苦悶の声を上げるゴブリンリーダー。
こちらに振り向いて……、そのままの体が固まって……、棒のように倒れた。
『すごい!』
『え? 今、何が起きたの?』
開けた視界から見えたのは、ゴブリンマジシャンの顔面に爪を立てて張り付いているルピ。
「ルピ!」
その声の意図がわかるのか、飛び退いてくれる。
もう一本、錆びたナイフを<ナイフ投げ>で<急所攻撃>すると、それはゴブリンマジシャンの胸へと突き刺さる。
「ギャッ! ァァァ……」
それを抜こうとした手は途中で止まり、そのまま前のめりに倒れた。
「やった……」
「ワフッ!」
「ああ、ごめんごめん。ちゃんと止め刺さないとな」
倒れているゴブリンリーダーを見ると【ゴブリンリーダー:麻痺(解除まで約4分)】と出ている。
サローンリザードの麻痺毒、意外と強烈っぽいな。急所攻撃で当たりどころが良かったからかな。
『麻痺が効いたんですね』
『え? 麻痺? どうやって!?』
ま、それはともかく、背中からもう一度<急所攻撃>で止めを刺す。
【キャラクターレベルが上がりました!】
あー、うん。あとでいいや。
ゴブリンマジシャンの方は【ゴブリンマジシャン:麻痺(解除まで約29分)】ってなってる。やっぱり強さに応じて効きづらくなるって感じか。
アーツ使うまでもなく、さくっと止めを刺す。
【ゴブリンの集落を掃討しました】
【セーフゾーンが追加されました】
「えっ?」
『やりました!!』
『やったわね!』
慌ててあたりを見回すが、特にセーフゾーンっぽいものが見当たらない。海岸と同じなら薄らと光ってる場所なはずなんだけど。
<ショウ君ー! ショウ君ー! 二人が話しかけても大丈夫ですかー?>
あ、やべっ! ライブ中だったの完全に頭から抜けてた……
「あー、もう大丈夫だと思うんで」
カメラに向かって軽く手をふると、
『ショウ君、すごかったです!』
と興奮気味のミオン。そして、
『本当にすごかったわ! 最後、ライブ中なの忘れそうになってたもの!』
とベル部長からも声がかかる。
「いろいろ準備しといて良かったって感じすね。ギリギリなんとかなりました」
『えっと、コメントで質問がたくさん来てますが大丈夫です?』
「うん、答えられる範囲なら」
<ショウ君の後始末もあるので、10分ぐらいにしましょうね>
とヤタ先生がフォローを入れてくれる。確かにゴブリンの死体に囲まれたまま話すのはちょっとな。
比較的荒れてない場所に座り、ルピをあぐらの中に座らせる。ま、そんなに質問って無いだろうし、さくっと終わるかな?
『まずはベルさんから質問です』
「りょっす」
『えーっと、ゴブリンリーダーをどうやって倒したかなんだけど……』
10分で終わらず、5分延長を2回。ライブしていい午後10時ぎりぎりまで続くとは思わなかったよ……