第394話 アップデート Ver 1.3.2
月曜日
「疲れた……」
「疲れたってなあ……」
ナットの提案で遊びに来たのに、本人が一番ぐったりしている。
それはミオンといいんちょの服選びに、すご……それなりに時間がかかったから。
「お前、奈緒ちゃんと買い物行くことだってあるだろ?」
「奈緒は俺と服なんか買いに行かねーよ。お前んとこみたいにいっつも仲良いわけじゃねーし」
とのこと。
まあ、ナットと奈緒ちゃんは仲が悪いっていうよりは、ごく普通の「兄貴うざ」ってぐらいの間柄だからなあ。
「で、お前が平気なのは美姫ちゃんに付き合わされるからか? 美姫ちゃんはそんな服にこだわるタイプじゃないと思うんだが」
「あいつだけならな。真白姉と美姫が揃ってる時はすごいぞ……」
お互いがお互いの服を選び始めるとキリがないから。
それでいて、たまに俺の意見を聞こうとするので、適当にスルーもできないっていう……
「お待たせ」
「おう」
ミオンといいんちょがケーキやらドリンクやらを取って来てくれた。
ケーキバイキングのお店なので、女性陣にお任せした感じだ。
「ん」
「さんきゅ」
やっぱりモンブランにはコーヒーだよなあ。
ミオンはいちごショートにカフェラテ。いいんちょはアップルタルトに紅茶。ナットはチーズケーキとコーラ。
「そういえば、収録って日曜日だったのよね?」
「ん」
少し声を潜めてそんな話を始めるいいんちょ。
全然そっちの話が出ないなあと思ってたけど、興味ないというわけでもないらしい。
「どうだったんだ?」
「どうって、順調に終わった感じ?」
「ん」
その様子にほっとしてるいいんちょだけど、
「いやいや、どんな感じだったんだ?」
「そんなの言えるわけないでしょ」
興味津々のナットの脇腹にいいんちょの肘鉄。いつものやりとり。
実際、あんまり言えることはないんだよな。それに、
「もう出てるかな?」
ミオンに聞くと、頷いてかばんからタブレットを取り出す。
午後3時にアプデの内容が公式ページに公開されるということを聞いてある。
向かいに座っている2人に見えるように置かれた画面には、魔王国アップデートの内容が表示されていた。
「おお!」
覗き込むナットといいんちょ。
「夜に解説ライブがあるのね」
「マジか。昼じゃなくて良かったぜ……」
「祝日だからかしら? 実際にアップデートが適用されるのも、明日の午前中にメンテナンスを挟んでになるそうよ」
解説ライブが夜なのは、俺たちが今日この予定があることをミシャPに話したからなんだよなー。
何せ、このライブでPVが公開、つまり、ミオンの公式女神就任の発表でもあるから。
すぐにチャンネルの方に反応があるかもだしってことで、家に帰ってるであろう時間にずらしてもらった。
「で、アプデの内容の方はどんな感じ?」
「ん? 2人は先に聞いてるんじゃねえの?」
「まさか。公開される時間だけだって」
午後3時にアプデ内容公開。午後8時からアップデート解説ライブ。
明日の午前10時から2時間のメンテナンスでアップデートが適用されるってスケジュールだけ教えてもらっている。
「んー、メインは魔王国から新種族でスタートできるって感じだな。俺らに関係ありそうなのは、レベルキャップが20から30になることぐらいか……」
ナットがそう言いつつ、タブレットの画面を見やすい方に向けてくれる。
――――
【アップデート Ver 1.3.2 概要】
◇メインストーリー『第三章 魔王国開国編』◇
・新規キャラクターとして以下の魔王国種族が追加されました。
・セピアエルフ、鬼、人獣族(人馬、人牛、人狼、人虎、人狐)
※各種族の初期ステータス・初期スキル・特徴は個別ページを参照してください。
・魔王国種族を選択した場合のスタート地点は魔王国王都となります。
・魔王国種族以外を選択した場合のスタート地点は以前のままとなります。
・魔王国王都および、周辺領への行き来が可能になりました。
・ただし、出身地が魔王国以外の場合は入国許可が必要になります。
◇ワールドクエスト終了に伴うシステム変更◇
・本日正午以降に作成された新規キャラクターは、初期SPが19SPとなります。
・ワールドクエスト終了直後から本アップデート適用までに作成されたキャラクターには、9SPが追加されます。
・キャラクターレベル上限が20から30に変更されます。
※すでに20に到達した後の経験値は内部に蓄積されていますので、ログイン時にレベルアップが発生する場合があります。
◇PV採用システムの導入◇
・公式PVにプレイ中の様子が採用される件について、今までは無条件での利用をしておりましたが、以下の選択式でユーザー様のご意向を反映する形にします。
・全許可:PV採用を常に許可します。(月額料金が10%OFFされます)
・都度選択:PV採用について、都度、運営より問い合わせが行われます。
・全拒否:PV採用を常に拒否します。
※本システム導入により利用規約が変更されます。
◇不具合の修正◇
・鑑定時に一部のスキルの解説文に表記揺れがあったのを修正。
………
……
…
――――
ワールドクエスト分って、最初の開拓のやつは3SPだったけど、次の死霊都市の三部に分かれてたから、2SPx3=6SPって感じかな?
「私がIROを始めた時はSPが10だったけど、随分増えたのね」
「俺らと後から入ってくる新規さんに差がつきすぎないようにだな。つっても、ワールドクエスト参加でもらえるSPの半分以下だしな」
とナット。
まあ、先に始めた人の方がお金も時間も使ってるから、その分は流石に有利じゃないとって話だし。
初期SP増加も取れるスキルは増えるけど、結局スキルレベル上げるプレイングは必要になるわけで。
「俺としては、キャラレベ上限が30になって助かったぜ。スキルレベル上げんのもいいけど、やっぱキャラレベ上がると嬉しいしな」
「え? お前、もうキャラレベ20なってたの?」
「おう! ってか、いいんちょももうすぐじゃねーの?」
「私は今18。まだまだ先でしょ」
「マジか。ってか、俺17だから抜かれてるじゃん……」
思わず突っ伏す俺。
で、なぜかミオンに頭を撫でられてるんだけど……
「お前はそもそも普通にプレイしてねーしなあ」
「そりゃそうだけどさ……」
そもそも最近あんまり戦闘してないんだよな。
それに、今のところはキャラレベ上げる必要性をあんまり感じてないのもあるし。
まあ、他にやることなくなって暇になったら考えよ……










