第393話 まずは様子見から
「そろそろ気をつけた方がいい?」
「キュ!」
船首近くに立つトゥルーから凛々しい返事が。
古代遺跡の港、船着場から出港し、湾の外へと進む。
左手に見える断崖絶壁に沿って北上していくと、崖は北西方向へと続くのが見えた。
「お、あの辺が島の北端かな? ミオン、見える?」
『はい! 見えます!』
俺もミオンもテンション高め。
島の南端からスタートして、北端が見れるところまで来たのは、やっぱり感慨深い。とはいえ、その北端まではまだ数kmありそう。
「周りにモンスターとかいない?」
「キュ!」「「「キュ〜!」」」
トゥルーたちセルキーには、船首と船尾に二人ずつ警戒に立ってもらっている。
船の上から海の中のモンスターを探すのは大変な気がするんだけど、セルキーたちは任せろって言ってくれたし。
「ルピたちも船酔いとかないよな?」
「ワフン」
操縦室にはルピ、レダ、ロイ。
スウィーは定位置の左肩、ラズも定位置のフードの中。
「〜〜〜♪」「クルル〜♪」
この二人は完全に遊覧モード。
まあ、今日は天気もいいし、モンスターさえ出てこなきゃ、本当にクルージングって感じなんだよな。
「キュキュ〜」
「オッケ。じゃ、もう少しスピード上げようか」
トゥルーたちの話だと、この辺りは岩礁とかもないらしいので、もう少しスピード出しても大丈夫とのこと。
左手に見える崖はしばらく先まで続いてるみたいだけど、その先はちょっと開けてそうな感じに見える。
「あの辺なら上陸できるかな?」
『あ、河口っぽく見えますね』
「よし。今日はあそこまで行ってみよう」
「ワフ!」「キュ〜!」
………
……
…
船の速度を落として、ゆっくりと河口付近へと近づく。
かなり広く、流れも緩やかで、北側は砂利の河原から草原へと綺麗なグラデーション。
「ワフ?」
「そうだね。上陸してみたいところだけど……」
砂利の河原なら小型魔導艇を乗り上げて着底できそうなんだけど、でかい岩とかが隠れてたりすると怖いんだよな
と思ってたら、
「キュ!」
「「「キュ〜」」」
「『え?』」
トゥルーの掛け声で、セルキーたちがトライデントを持って飛び込む。
何かいたのかと思ったんだけど、どうやら水中の確認をしてくれるらしい。
「キュ〜」
「さんきゅ。助かるよ!」
トライデントを掲げたセルキーたちが先導してくれるので、その後を慎重に進む。
やがて彼らも泳がず、歩き始めるぐらいになったところで、船はふっと浮き上がった。
『すごいですね』
「だね。トゥルーたちがいてくれて、本当に助かるよ」
船全体が河原に乗り上げたところでレバーを一番下に。
すーっと船体が沈んで着底した。
「ワフ!」
「「バウ!」」
今度はルピの号令で、レダとロイが船から飛び降りる。
さっそく、周囲の警戒をしてくれるらしく、少し離れた場所まで駆け出していく。
「えっと、今何時ぐらい?」
『10時を回りました』
「りょ。じゃ、この辺りをちょっと調べるぐらいにしようか」
河原から緩やかな傾斜を駆け上がると、そこはだだっ広い草原。
見渡すと遠くに森が見えるけど、そこまでは安全そうな雰囲気がある。
「クルル?」
「うーん、いいけど、あんまり遠くにいっちゃダメだよ?」
「〜〜〜♪」
スウィーとラズが俺から離れ、二人一組で散策へと。
レダとロイが警戒してくれてる範囲内なら、まあ大丈夫だろう。
『すごく広いですね』
「うん。うちのグラウンドの何倍あるんだろう……」
美杜のグラウンドもまあまあ広い。
それの倍どころじゃないし、4倍でもすまない気がする。
「キュ」
「ありがとう。じゃ、ちょっと散策してみようか」
トゥルー以外のセルキーが残ってくれるというので、少し奥へと歩き始める。
不思議なぐらい真っ平らな平原なんだよな……
「〜〜〜♪」
「ん?」
スウィーが何か見つけたらしい。
近づいて行くと、周りとはちょっと違う草というか白い花をつけた植物……
「綿花だ!」
『え?』
【フロスコットン】
『小さな白い花を咲かせる多年草植物。種子を覆う綿毛は糸に加工可能。
素材加工:綿毛を糸に加工可能』
やっぱり。
コットンって名前についてるし、綿毛が糸にって書いてあるから間違いなさそう。
「えっと、この白い綿毛をこうやって」
プチっと綿毛をむしると、その中に種が入っている。
俺がみたことあるやつよりも随分小さいけど、ここにポツンってあるだけだし、そういう物なのかな。
『ふわふわで可愛いです』
「ここだといまいち育たないのかな? 種を持って帰って栽培してみるか」
『お屋敷のところですか?』
「うん、あっちならパーンやスウィーたちにもお願いできるだろうし」
とスウィーを見ると、グッとサムズアップを返してくれる。
そういうことなら、種は取れるだけ取っていくかな。
「クルル?」
「うん、この白くてふわふわしたのをお願い」
ラズが地面に近いところにある綿花を摘んで集めてくれる。
本来は膝丈ぐらいまで育つはずだけど、この綿花は地面にべたっとしちゃってるんだよなあ。
「うーん……」
『どうしました?』
「いや、この川って氾濫するやつなのかなって」
川の蛇行具合を見てみると、やっぱり島の中央部の火山の方から流れてきていて、大水が出たらこの平原を水浸しにする感じ。
それならそれでもっと色々と草木が生えてそうな気がするけど……やっぱり冬になるとかなり寒いのかもなあ。
「バウ」
レダの声がした方を向くと、その見ている先に……
「あ、あれって……馬?」
『お馬さんですか?』
「多分」
遠いからはっきりしないけど、4、5頭の馬が草を喰んでるっぽい。野生の馬なのかな?
『どうしますか?』
「そっとしておくのがいいかな。ここで平和に暮らしてるなら、こっちがお邪魔してるようなもんだし」
襲いかかってくるようなら対処するけど、平和に暮らしてるところにちょっかいを出しに行く気はない。
それにそろそろ時間のはず。
「そろそろ戻ろうか」
「キュ」
ルピにレダとロイを呼び戻してもらい、スウィーとラズは肩へと回収。
次に来るときは船でもっと北の方、具体的には島の北端を見ておきたいし、ここはまた今度、時間があるときにでも見にくることにしよう。
【更新履歴】
6/10 第391話 女神の収録 〜 本話まで









