第377話 言葉で伝える大切さ
水曜日
『そういえば、死霊都市での交流は続いてるんでしょうか?』
「ええ、竜人さんたちもよく訪れるようになったそうよ。今度、料理の講習会も行われるそうだし、調味料の類の取引も始まるらしいわ」
と予想以上に進んでる模様。
プレイヤーが作る食事に魅了された竜人族も多いそうで、お食事会は正解だったなと。
「それに、次の土曜はお昼から工芸品なんかを中心に展示会をするらしいわよ?」
他の生産系の人たちも負けてられないってことで、順番に展示会のようなものをやって、アピールする感じになりつつあるんだとか。
『あの、教会の話はどうなりましたか?』
「あ……」
「それも制限付きだけど、もう少ししたら解放されるそうよ」
とベル部長がニッコリ。
竜人族の方で参拝ルートを作ってくれるそうで、そのルートに従ってならオッケーという話になったそうだ。
「なるほど。って、マスターシェフさんが考えてくれた感じですか?」
「セスちゃんがアイデアを出して、マスターシェフさんが話を通してくれたわ」
『良かったです』
これでまあ、翡翠の女神像見たさに忍び込むなんて話は無くなるかな?
でも、
「良かったの? なんていうか、ほら……」
俺がまんまミオンにしちゃったからなあ。
なんというか、拝まれる(?)対象になっちゃうのは、恥ずかしかったりしないのかなっていう……
『あの、もうすぐ公式で女神役になりますから』
「そうだった……」
「それくらいのことで恥ずかしがってたら、バーチャルアイドルなんてできないわよ?」
確かにそうか。今だって同時視聴者数が3万人を軽く超えてるもんな。
俺もそれだけの人数に見られてるんだろうけど、あんまり気にならないのはミオンのおかげなのかな……
『どうしました?』
「いや、いつもありがとう」
「ぇ……」
「はいはい、ごちそうさま。私は昨日のライブのコメントチェックがあるから、二人はIRO行ってきていいわよ?」
『は、はい』
「どもっす」
とりあえず、アージェンタさんにお礼の手紙を書いておくことにするか。
小型魔導艇をもらったお礼もまだだったし、バーミリオンさんにワインも送らないとだよな。
***
「よし。これでいいか……」
大型転送室の大きな魔導保存箱に、カムラスのコンポート、マローネの甘露煮、ワインの中樽を収める。
先にお礼を書いた手紙を送ったので、それに気がついたら取りに来てくれるはず。
「ニャ?」
「〜〜〜♪」
「クル〜」
シャル、スウィー、ラズがあれこれ話してるのは、この部屋のことかな。
殺風景だけど、実は結構すごい場所だからなあ。
「ワフ」
「そっちの転移魔法陣には絶対触らないでね」
「ニャ!」「「「ニャニャ!!」」」
きっちり返事をしてくれるシャルとケット・シーたち。
転移魔法陣、片方は死霊都市へ、もう片方はなんか南の海底なんちゃらだっけへ繋がってるんだけど、蓋してあって封印中。
大型転送魔法陣の隣にある転移魔法陣だけは、竜の都に通じてるらしいので……
「『あ』」
目をやったところで光り始め、やがて現れたのは人型のアージェンタさん。
すぐに俺たちがいるのに気がついて走ってくる……
「ショウ様。いつもありがとうございます」
「いえいえ、こっちもなんかすごい船もらっちゃって」
相変わらず丁寧だよなあ、アージェンタさん。
で、俺が手紙送ったのを白竜姫様に知られて、慌てて取りにきたらしい。ご苦労様です……
「そういえば……新たな転移魔法陣はあちらですか?」
「あ、そうです。なんか、南の方にある海底資源の採掘施設? ニーナ、あってる?」
[はい。南洋海底資源採掘施設です]
だいたいあってた。
「転移は出来ましたか?」
「いや、今のところ興味はないのと、向こうに誰かいて来られると困るんで」
「なるほど。場所さえわかれば、私の方で様子を見に行っても良いのですが……」
え? あ、いや、可能なんだよな。ドラゴンなんだから、飛んでいけばいいわけで。
うーん……
『ショウ君。今日はライブですし、その件はまた後で』
「あ、ちょっと考えさせてください。まだ、シャルたちが来たばかりなんで、もう少し落ち着いたらで」
「はい。アズールであれば、いつお呼びいただいても飛んでくるでしょう」
とアージェンタさん。
確かにアズールさん、うちの島の方で楽しそうにしてるもんな。
『あ、本土のケット・シーさんたちはどうしてますか?』
「そうだ、こっちに来てないケット・シーってどうしてます? 一部は元の島に帰ったって聞いてるんですけど」
「新しい団長の元で、教会近くの住居へ移り住んでいます。また幾人かは、親しくなった方々と行動しているようですね」
「なるほど」
ラムネさんもケット・シー連れてるとか言ってたし、人好きなケット・シーもいるってことだよな。
「っと、すいません。白竜姫様、待ってますよね」
「そうでした。では、失礼いたします」
保存箱に入れた諸々を抱えて、竜の都へと帰るアージェンタさん。
なんか疲れてそうだし、今度、別のお酒作れないか試してみようかな……
………
……
…
残りの時間は教会裏でパーンたちの畑仕事の手伝い。
シャルとケット・シーたちも手伝ってくれてるけど、畑仕事はあんまりやったことない感じかな。
そういえば、トゥルーにトライデント、シャルに細剣を作ったし、パーンにも何かをと思ってたんだった。
「パーンたちって、武器は何がいいの?」
「リュ〜」
特にこれがっていうのはなくて、鎌とか鍬とか普段使ってる農具がいいらしい。
確かに、どんな道具を渡しても器用に使ってたし、それならいろんな農具を作ってみるのがいいのかな。
「じゃ、新しいのをいろいろ作るから、楽しみにしてて」
「リュ!」
普段から畑仕事でお世話になってるし、これぐらいはしてあげないとだよな。
ああ、あとエクリューの毛刈りもお願いしないとだから鋏を用意すべき? いや、バリカン……ってどうやって作ればいいんだ?
『ショウ君。そろそろ時間ですけど、今日のライブをどうするかまだ……』
「そうだった! えっと……トゥルーにトライデントを渡すつもりだったし、もう船のこともバラそうかと思ってて」
『はい。あ、でも、部長やセスちゃんに話しそびれてますよ?』
「そうだった。ログアウトしたら話すよ。美姫には晩飯の時にでも」
ベル部長、またフリーズしそうだけど……









