第349話 リヴァンデリ
今日のリアル夕飯は、さっぱりサラダうどんに小松菜とベーコンのコンソメスープ。
作るのも楽だし肉も野菜も取れてヘルシー。
で、ごちそうさましたところで、美姫に相談しないとなんだよな。例の交流会に俺から推薦した誰かを伝えないとなんだけど……
「ベル部長か、白銀の館のギルマスのお前が一番いいのかなって思ってたんだけど」
白銀の館なら竜族、アージェンタさんと一応は面識があるし、その伝手で交流会をすることになりましたって線なら、俺が関与してることはバレずに済む。
「ふむ。兄上の頼みであれば喜んで引き受けようぞ。だが、ずっと死霊都市におるというわけにもいかぬのでな……」
「そうだよなあ。本拠地を空けっぱなしってわけにも行かないし、今って順調なんだろ?」
「うむ。明日のライブでは、また次の階層へと行くであろう」
というわけで、開催自体は引き受けてくれるけど、ずっとは厳しいとのこと。
アミエラ領の北西にある開拓地、そのさらに先にある『ドワーフのダンジョン』を攻略中のセスたち『白銀の館』。
ベル部長が死霊都市で手に入れた蒼星の指輪の上位管理者権限で、第四階層の最奥にある扉を開けることができ、第五階層も順調に攻略中。
その第五階層でかなり大きな鉱床を発見してフィーバー中らしい。
「本土のダンジョンってインスタンスなんだよな? それって他の人たちも行けるのか?」
「蒼雲の指輪があれば権限は足りておるようでの。持っておらんでも、死霊都市の地下迷宮で見つけることができるらしい」
「なるほど。じゃ、魔銀も割と流通し始める感じか?」
「まだ流通とまではいかぬであろう。採掘した分は各々信頼できる鍛冶プレイヤーに任せて、装身具にというのが主流よの」
ふむふむ……って、その話じゃない。
「それはいいとして、常駐を頼めそうなギルドって言われてもなあ。ナットのところは王国の南西だし……」
「向こうも順調なのであろう?」
「ああ、向こうは第五階層で水の精霊がいる地底湖を発見して、そっちにかかりきりになってるってさ」
今までは山奥の水源地まで行かないとダメで、それも時間がかかる割に水の精霊がいない時があるらしく……って、その話も後でいいんだって。
「ダメだ。他にあてが無い……」
というか、無人島スタートして他のプレイヤーと接点がない時点で、誰か紹介するのって無理じゃないかな!
「そうよのう。兄上の許可が下りるのであれば、我が信頼するギルドにも加わってもらうという手があるのだが……」
「ん? お前が信頼してるならいいけど、どういうギルド? ギルマスってどんな人?」
「兄上は知っておるはずだがの。もちろん、ゲーム内で面識があるわけではないが、ライブの視聴者としての」
「え?」
美姫の紹介してくれたギルドは『リヴァンデリ』という料理プレイヤーメインのギルドで、ギルマスのマスターシェフさんはその筋でも有名らしい。
公国のギルドらしいが、今は死霊都市に店——もちろん料理店——を構えてるんだとか。
うちのチャンネルで料理に的確なコメントを入れてくれる人だった気がする。
「気づいておらなんだのか?」
「なんとなく覚えてるかも。っていうか、プレイ中にあのコメント欄を把握できるのは、別の才能がいるって絶対」
「それもわかるがの」
と美姫も苦笑い。
でも、あの人なら確かに交流会、しかも料理メインなら、ライブでやった料理とかも再現してくれそうだし、めちゃくちゃ適任な気がするな。
「うん、いいな! お願いできるようなら……って、マスターシェフさんは竜貨は持ってるんだよな?」
「うむ。翠竜貨を持っておるそうだ」
「え? 緑の竜貨ってことか?」
パルテーム公国の西の開拓地から南へ行ったところにあるダンジョンで見つかったそうで、当時はかなり話題になったらしい。
今のところは銀、緋、蒼、翠といったあたりが見つかってると。それ以外の色も見つかってるかもだけど、黙ってる人とかもいそうだしなあ。
「兄上ならとっくに知っておる、いや、持っておると思っておったのだがの?」
「だから、別に俺はもらっても意味ないんだって」
多分、誰も持ってないだろう白竜貨も、無駄に竜人さんたちを跪かせただけな気がするし……
***
「じゃ、お願いします。くれぐれも……」
「ええ、無理にお願いするつもりはないわよ」
「ではの!」
IROへと行くベル部長とセスを見送って、俺もIROへと。
時間は午後8時になったところだし、さくっと準備してライブに備えないと。
「じゃ、いってくるよ」
『はい。いってらっしゃい』
いつものように送り出してくれるミオンなんだけど、ヤタ先生、ニヤニヤしないで……
………
……
…
教会の前を出て、一応、警戒しつつ廃屋の近くまで来た。
今日はここからスタートの予定。
「準備オッケー、かな?」
「ワフン」「「バウ」」
「〜〜〜♪」「リュ〜」「クルル〜」
前回のメンバーにラズが加わったんだけど……
【ショウのパーティ】
ショウ、ルピ、レダ、ロイ、スウィー、パーン、ラズ
『大丈夫ですね』
「うん。これって何人まで入るんだろ?」
『上限はないらしいですよ。ただ、パーティで経験値が均等になるそうです』
うん、まあそうだよなあ……あれ?
「アライアンスだと?」
『アライアンスでは貢献度によって、パーティの獲得経験値が違うらしいです』
「なるほど」
前にスウィーやゲイラさんがアライアンス申請してきたことがあったけど……、いや、まあ儀礼的なものかな。NPCなんだし。
<そろそろですよー>
『あ、はい!』
「りょっす」
今日のライブであの廃屋は調べ尽くしたいところ。
ちょっと延長もありかもだよな。
<10秒前……、5、4、……>
『みなさん、ミオンの二人のんびりショウタイムへようこそ!
実況のミオンです。よろしくお願いします!』
いつも通りのオープニングと滝のように流れていくコメント欄……
挨拶もそこそこに、さっそく俺へと中継を繋ぐミオン。
「ようこそ、ミオン」
「ワフ〜」「〜〜〜♪」「リュ〜」「クルル〜♪」
【コクド】「続きはよ!」
【ルコール】「パーン君、かわよ〜」
【ガーレソ】「待ってた!」
【ティーエス】「カーバンクルちゃんキタコレ!」
etcetc...
軽くラズの紹介をしないとだよな。
「えっと、前回助けたカーバンクル、ミオンがラズって名前をくれました。ラズ?」
「クル〜♪」
右肩から手のひらまで走って、ぺこりと頭を下げるラズ。
ルピもだけど、テイムした子はみんな頭いいよな。
【ガフガフ】「きゃわわわ!」
【ルコール】「ラズ君、かわよ〜」
【クショー】「うらやましい……」
【デイトロン】「<祝、ラズ君加入!:5,000円>」
etcetc...
『ありがとうございます。えっと、今日は前回の続きですよね?』
「うん。もう廃屋の前まで来てるから」
さっそく……裏口から入ろう。