第347話 縮地?
火曜夜は島の南側を見て回るルーチン。
今日は罠にかかってる獲物はなしだったけど……
「フギャァァ!」
ランジボアが叫び声を上げて倒れる。
ルピにレダとロイがいるので、俺は突進を止めるだけの簡単なお仕事。いや、解体も俺の仕事だな。
「よし! はい、ご褒美ね」
「ワフン」
「「バウ」」
厚切りのロース肉を美味しそうに頬張るルピたちを眺めつつ、くくり罠を仕掛け直そう。
ロープが切れそうになってるし、新しいのにしないとだけど、どうせならワイヤーにしたいんだよなあ。
「クルル?」
「「「〜〜〜♪」」」
ラズは初めての南側なのでテンション高め。
木の上へ駆けていってはあちこちを見回し、フェアリーズと楽しそうに遊んでいる。
「クルル〜!」
「ん? いてっ!」
『ショウ君?』
頭を何かが直撃して……上を見るとラズが落としたっぽい?
「クルルルル〜♪」
『ショウ君。足元に木の実が』
「お? おおっ! これって……」
かなり硬い殻だけど、見たことあるやつ。
【オーカーナッツの実】
『オーカーナッツの木になる実。硬い殻の中にある種子は食用。
料理:種子は食材、調味料として利用可能』
『あ! 胡桃ですか?』
「うん。これ、手で割れるかな?」
握ってぱきってできるとかっこいいんだけど。
STRは結構あるし、こうグッと挟んで……
「お、割れた!」
『すごいです!』
「クルル〜♪」
降りてきたラズが割った胡桃を奪って食べ始める。
うん、俺が割るのを待ってたんだね。まあいいけど。
「胡桃があれば、胡桃パンとか作れそうだなあ」
『いいですね!』
「なあ、ラズ。俺たちも食べたいから、他にも見つけたら教えてくれる?」
「クルル!」
そのお願いにシュバっとジャンプして木の上へと戻ると、次々と胡桃を落としてくれる。
うん、すごい勢いで胡桃を、よく見ると魔法を使ってる気がするんだよな。
「ワフン」
「お、ごちそうさまかな。じゃ、続き行こうか」
………
……
…
「ふう、なんとか帰ってこれた……」
『すごい雨でした』
「びっくりだよ、ホント急にね」
南西の森を抜け、砂浜に出たところでいきなり雨が降り出し、急いで戻ってきた。
濡れたまま山小屋に入るのもなんなので、蔵に駆け込んで、ほっと一息ついたところ。
「ワフ!」「「バウ!」」
ルピ、レダ、ロイがそろって狼ドリル。
それにしても、この島って天気が変わりやすいのかな?
前もいきなり土砂降りが来た覚えがあるし……
「〜〜〜♪」「「「〜〜〜♪」」」
スウィーとフェアリーズは風の精霊魔法で傘を作ってたみたい。ちょっと羨ましい……
「クルル〜」
「え?」
積んであった角材の上に乗ったラズが魔法を使ったのか、一瞬でふわふわの毛玉へと戻る。
『今のは何でしょう?』
「あー、こういうことかな? <乾燥>」
着ている服に乾燥の魔法をかけると……やっぱり。
「うん、成功。うまくいった」
『すごいですね』
「乾燥の魔法が便利すぎる。まあ、汚れたまま乾かすとダメな気もするけど」
とはいえ、汚れに関してはログアウトして一定時間経つと消えるみたいなので、そこまで気を使わなくても大丈夫かな?
「さて、俺は本でも読んでるから、好きにしてていいよ」
「ワフン」
ルピがごろんと横になり、レダとロイも寄り添うように横になる。
その上にラズとフェアリーズが……
「スウィーはいいの?」
「〜〜〜♪」
どうやらお昼寝モードではないらしいスウィーが左肩へと。まあ、読書の邪魔をしないならいいんだけど……
あと1時間以上あるし、その後はさわりしか読んでない重力魔法と結界魔法を上げていかないとだよな。
山小屋へと戻って、まずは転送箱を確認。着信なし。
1階へ降りて、結界魔法と重力魔法の本を取ってくる。
「まずは重力魔法からにするよ」
『はい』
重力魔法の方が使い道がありそうなことが多い気がするんだよな。
この間の崖の上に出るときとかも、自重を軽くできればジャンプで飛び上がれたかも?
………
……
…
【重力魔法スキルのレベルが上がりました!】
「ふう、これでやっとレベル4……。そろそろ時間?」
『11時まであと10分ありますよ』
「りょ。じゃ、ちょっと確認……お? 雨は上がったっぽい」
曇り空のままだけど、今から試すことを考えると、家の中よりは外でやった方がいいと思う。
外を出て見上げると、灰色の分厚い雲が流れるように動いていて、まだしばらくは油断ならない感じ。
「ワフ」
「ん。ちょっと新しい魔法試すから、そこで待っててな」
起きてきたルピを撫で、待機しててもらう。
フェアリーズを乗せたレダとロイも、ルピの後ろで興味津々といった感じ。
『ショウ君。スウィーちゃんが』
「っと、スウィー……は大丈夫かな」
「〜〜〜♪」
ぐっとサムズアップ。
自力で飛べるなら大丈夫なはず。
「<減重>……よっ!」
軽くジャンプ!
『あっ!』
「おおっ!」
いつもの倍以上、2m近く垂直に飛び上がれた感じ?
着地の衝撃も普段より少ないし。
『ショウ君。それは重さを減らす魔法ですか?』
「そそ。ただ、すっごい勢いでMP消費するよ、これ。一瞬使うぐらいならかな?」
『どれくらい軽くなれるんですか?』
「あ、意識せずに使ってた」
秤があるわけじゃないし、えっと……
蔵にある角材を2本使ってシーソーのように置く。
『なるほどです!』
「で、<石壁>」
同じ大きさ、ブロックサイズの石壁をいくつか作り、両端に一つずつ載せてバランスを取る。
まあ、厳密に測るつもりはないので、それなりに同じ重さになってるのを確認してから、減重の魔法をかけて効果を大まかに測定……
「うーん、普通にやると半分ぐらいになる感じかな。MPを多く消費するともっと軽くなれるけど、今だと最大でも5分の1ぐらいが限度だと思う」
『使うところはありそうですか?』
「この間みたいな、ちょっと高いところに登る時とか?」
『あ、そうですね』
あとは咄嗟に使えるようになると、戦闘に幅ができると思う。
例えば、相手と距離を詰める時に……
「ちょっと隠密使うよ?」
『は、はい』
隠密を使うと詠唱隠蔽のアーツが効くので、
(減重)
からの、地面を蹴る!
『わっ!』
「うっ、途中で減重の魔法が切れると、体にめっちゃ負担が……」
『大丈夫ですか?』
「うん。HPにダメージがくる感じじゃないから大丈夫。どっちかっていうとVITかな」
これ、慣れると相手まで一瞬で詰めてバックスタブ打てるし、ちょっと練習しよう。