第341話 使う人がいないので
「うーん……」
「どうしたの?」
「あ、えっと、この大きさの魔晶石ってなると、それこそ古代遺跡の制御室にしかないから、手に入れるとなると……大変だろうなって」
「あー、そうだねえ」
今見つかってる古代遺跡にも制御室があるはず。けど、そこまで行けるようになるのは先の話のはず。
あ、でも、管理者の指輪が手に入ったから、そうでもないのか? セスやベル部長たちが大きな魔晶石を確保したら、交渉してもらってもいいかもだなあ。
そんなことを考えている間も、アズールさんはニーナにいろいろと質問をしてて、マナのリサイクルの話だとか、鉱床の鉱石を設定できる話だとか……俺が知らないことはなさそう?
「ショウ君から魔導線を使って、管理できる範囲を広げることができるって聞いたんだけど、それってどれくらいかな?」
[試算中……。本施設はこの島全体を管理可能と思われます]
「おおー、すごいね!」
『すごいです!』
「え? なんでそんなに広いの……」
[本施設は島中心部の火山から得られるマナが潤沢なため、広範囲にマナを伝搬させても問題ありません。また、現状でマナを消費する可能性がある人物がショウ以外にいないため、その消費量も微々たるものと想定されます]
なるほど。
島全体に魔導線を巡らせても、それを使うのが俺一人だもんな。
「ふむふむ。これはちょっと竜族も古代遺跡について考えを改めないとなあ」
「そうなんですか?」
「竜族って古代遺跡についてあんまり調べてなくてさ。今、なんとなく動いてて使える施設とかは使ってる感じなんだよね」
とアズールさん。
白竜姫様やアージェンタさん、他の竜が住んでるお城(!)も古代遺跡なんだとか。
「そういえば、さっき古代彩竜って言ってましたけど……」
「うん。あ、他にもいろいろ部屋があるんだよね。そっちも見せて欲しいから、移動しながらでいいかな?」
「あ、そうですね。というか、今日はいつぐらいまで島にいられる感じですか? ちょっと見てもらいたいものがあって」
「特に制限はないけど、姫にバレないようにはしたいかな。まあ、僕は転移魔法が使えるから、いつでも帰れるしね」
おおお、すごい……
あれ? ということは、測位すればいつでもここに来放題?
「あ、測位はショウ君の許可がないとしないから安心してね」
とニッコリ。
うん、それはちょっと考えさせて欲しいです……
………
……
…
ニーナへの質問も終わったので、まずは展望台に出てルピのお母さんのお墓参り。
これは欠かせないことなので、アズールさんにも付き合ってもらった。
で、他の場所も見たいということなので資料室と監視室へ行って、今は港に向かう階段を降りてるところ。
「今、竜の都にいる古代彩竜は蒼竜の僕だけになるのかな。緋竜のバーミリオンは死霊都市の方に詰めることになったからね」
「あー、なんかすいません」
「それは気にしないでね。バーミリオンがあそこに詰めるのは、魔王国への牽制の意味が大きいからさ」
とアズールさん。
竜族と魔王国、仲が悪いわけではないけど、良いわけでもない感じだよな。
「古代彩竜って、俺が会ったことがある方だけですか?」
「えーっと、白竜姫様とアージェンタは古代彩竜じゃないんだよね。あの二人は神代光竜っていう、僕やバーミリオンより上位の存在なんだよ」
「うわあ……」
アズールさんの話だと、この世界ができた頃に生まれたのが神代光竜。
それからしばらくして生まれたのがアズールさんたち古代彩竜で、さらに下位の竜もいるらしい。
アズールさんが一番年上みたいな話を聞いたけど……なんかあるのかな。まあ、見た目には白竜姫様の兄ぐらいな感じだし。
「えっと、ここが港って呼ばれてる場所ですけど、実際は船着場だと思うんですよね。ちなみにニーナはここがどう使われてたかは知らないそうです」
「ふむふむ」
アズールさんが段になってるところまで行って覗き込んだり。
「「〜〜〜…」」
スウィーとラズ、フードの中で寝ちゃってるっぽいな。
バルコニーのところでは、ちょっとテンション上がってた二人だけど、ここまでの道のりは景色もないし暇だよな。
「多分、小型魔導艇が出入りしてた感じかなあ」
「小型魔導艇? 魔法で動く船です?」
「そうそう。まあ、竜にはいらないから放置してるし、持ってきていいかアージェンタに聞いとくね」
「『え?』」
もらっていいものなの、それ?
いやまあ、竜は空飛べるからいらないんだろうけど……
「ワフ?」
「あ、うん、外に出ようか。レダ、ロイ、行くよ?」
「「バウ」」
後ろを警戒してくれてた二人を呼んで、港から外へと出る。
その右手に見えるのは、アズールさんに見てもらいたい本命の灯台。
「あの灯台が魔導具っぽいんで、見てもらっていいですか?」
「おっけー」
あっさり引き受けてくれるのは嬉しいんだけど、本当にいいのかなって気にもなるんだよな。
灯台のたもとへと上がると……
「「キュ〜♪」」
「お〜」
遊んでたセルキーたちが俺に気づいて手を振ってくれる。
で、トゥルーを呼びに行ったのかな? 一人がちゃぷんと潜って、すごい速度で遠ざかって行った。
「ショウ君、セルキーとも交流あるんだ……」
「あ、はい。アージェンタさんは知ってたと思いますけど」
「えー、もう、アージェンタはいつもそうだよ」
とアズールさんがブツブツ言い始める。
そういえば、フェアリーっていうか、スウィーのことも驚いてたもんな。
アージェンタさんが最初に会ってたと思うんだけど、言ってなかったんだろう。
「じゃ、開けますね。ここも祝福がないと開かないんで」
「なるほどー。そうなると、竜の都での調査は祝福がある人を雇わないとかあ……」
そうなるよなあ。というか、それが先のアップデートだったりしそう。
いつものやりとりをやって扉を開けたところで、
「キュ〜!」
『あ! トゥルー君ですよ!』
「おっと!」
海面からジャンプしたトゥルーが飛びついてきたのを受け止めると、それで起きたのかスウィーとラズがフードから出てきてご挨拶。
「〜〜〜♪」
「クルル〜♪」
「キュ〜♪」
それを見たアズールさんがまた不思議そうな顔をしてて、
「ショウ君が翡翠の女神像を作ったのがなんとなくわかったよ」
「え?」
「翡翠の女神って、この世界に妖精とか幻獣を生み出した女神って言われてるからね」