第30話 緊急メンテナンス
「ばわっす」
「こんばんはー。いつもより早いですが、ちゃんと宿題は終わってますよねー?」
「終わってますって」
午後8時前。ベル部長がまた夜にって言ってたし、早めに部室にログインすると、いるのはヤタ先生だけ。
「先生にも連絡行ってたんです?」
「はいー。来てましたしー、さっき動画も見てきましたよー」
なるほど。じゃあ、まあ、もうみんな知ってるってことでいいのかな。
「こんばんは」
「ばわっす」
「はいー、こんばんはー」
ベル部長がログインして着席すると「はぁ」と一つ大きなため息を。
「どうしました?」
「良くないことになってるわね。ああ、ショウ君やミオンさんのせいじゃないわよ」
やっぱり無人島スタートが増えまくってるのかな? あれ見てやり方わかったら、今のキャラを削除してやろうって人もそれなりにいそうだもんな。
「いずれ誰かが公開したでしょうしー、遅かれ早かれとは思ってましたがー、意外と早かったですねー。さすがゲームドールズというところでしょうかー」
「それはそうなんですが、無人島一つにつき一人しかスタートできないことを、ゲームドールズの人たちは調べてなかったみたいで。
例の今川さあやちゃんって子が『共同開拓者募集!』とかやっちゃったんですよ」
「え゛……」
いや、それはダメっていうか無理っていうか……
「サエズッターでですかー?」
「ええ。それで行こうとした人が入れなくて……絶賛大炎上中ですね。ミオンさんに火の粉が飛んでこないといいんだけど……」
うわあ……
『こんばんはです』
ちょうどそこにミオンが登場。
ミオンが俺に向かって嬉しそうに手を振ってくれる。で、着席しておもむろに、
『ベル部長。今日、ライブできなくなります』
「へ?」
ベル部長の端正な顔立ちが一瞬にして間抜……こほん、呆然って感じに。
「どういうことですかー?」
『9時から緊急メンテナンスに入るそうです。終了時間は未定になっています』
「「「あー……」」」
思わず納得してしまう、俺、ベル部長、ヤタ先生。
そいや、今川って子も夜にライブで続きをって言ってたけど、それでさらにってのを避けたいのか。
『ついさっき出た公式の告知です』
ミオンが公式サイトを開いて大きく見せてくれる。えーっと……
――――
【緊急メンテナンスのお知らせ】
本日午後9時より緊急メンテナンスを行います。終了時間は未定となります。
本メンテナンスにより、以下の件について対応いたします。
・ゲーム開始初期位置に無人島を選べる機能の一時停止
・本日午後3時から午後9時までに『誤って』キャラクター削除をしたプレイヤーへの対応(問い合わせはこちらよりお願いします)
なお『ゲーム開始初期位置に無人島を選択できる機能』の再開については、別途アナウンスいたします。
――――
「あらー、随分と問い合わせが殺到したようですねー」
「例の誘導があって勢いでキャラ削除した人は、消したキャラを戻すか、そのままキャラ作り直すか選べるのね」
ベル部長が問い合わせを開いて内容を確認している。
『消したキャラを復活させるとかできるんですね』
「こういうMMOならバックアップは随時取ってるらしいよ。まあ、そのバックアップはちょっと古いのだったりするらしいけど……」
今日は日曜だし、運営の人たちも大変だろうなあ。
「私の方は今日はライブ中止を告知しないとダメね……」
うーん、そうなるとミオンもしばらく動画上げるの控えたほうがいいのか?
『火曜にあげる予定だった動画はどうしましょう?』
「やっぱり落ち着くまで待ったほうがいいです?」
その問いに考え込むベル部長とヤタ先生。
「うーん、火曜まで様子を見てからですねー。
運営さんからの発表に『誤って』と強調がありますがー、これは『誤った情報に乗せられて』と書いてあるようなものですしー、ショウ君たちは別に悪くないのでー」
「二人が悪く無くても、これで無人島スタートはショウ君だけになっちゃったわけですし、変な言いがかりをつけてくる人もいるかもしれませんよ?」
そうなんだよなあ。世の中、何にでも難癖つける人ってのはいるし。
「ですので様子見ですー。それに無人島スタートをしているのはショウ君だけではないと思いますよー?」
『え?』
「このゲームドールズの今川さんがキャラを作ったのは午後3時より前ですからー」
「あ……」
そういや、あのライブを見終わってからおやつにホットケーキを作ったな。
「つまり、あの子のキャラは無人島スタートでそのまま続行ですか?」
「ご本人がプレイ放棄やキャラ削除しなければですけどねー」
「それはそれで……運営もかなり意地が悪いわね」
つまり、本人——というかゲームドールズ——にどうするか選べっていうことなのかな? 続行してライブしてもいいし、キャラ作り直してもいいし、やめてもいいと。
とはいえ、キャラ作り直して普通にプレイは周りの目が厳しいよな。今回のメンテを引き起こしたわけだし……
「それとー、今日の午後3時から9時までの間に別の無人島でスタートした人もいると思いますよー。その人がそのままゲームプレイしてもいいみたいですしー」
「なるほど。ショウ君みたいな『ソロぼっち』を楽しみたい人が他にいるかもしれないということですか」
その『ソロぼっち』って言い方はダメージが深刻なのでやめてください……
でもまあ、そういう志を同じくする人たちとは連絡とってみたいな。できればゲーム内で。手紙入れて海へ流す? いや、まだ鳥をテイムして運んでもらうほうがマシ?
「現時点でミオンさんのチャンネルに怒鳴り込んできた人はいないようですねー」
ヤタ先生がさっそくチャンネルのコミュニティーを確認してる様子。
「先に『誤情報に騙されないように』ってお知らせを出したのが良かったのかしらね」
「うーん、すげえ皮肉っぽく取られそうな気も。『お前らがやり方言わないのが悪い』みたいな」
「そういう人がいた場合は問答無用でブロックしましょうねー」
そんな簡単にって思ったけど、ベル部長のところでも『おかしな人』は徹底的にブロックしてるらしい。
わかり合おうなんて考えるのが時間の無駄なんだってさ。それはわかるけど。
『メンテナンスの終了時間が未定ということは、今日はもうIROは遊べないですよね?』
「あー、そだね。せっかく粘土取ってきたのに、陶芸ごっこは明日までお預けか……」
「……陶芸?」
あ、これはまた説明しないとダメなやつ……