第27話 普通のゲームプレイ?
セスの「ゴブリン集落の掃討」クエストを配信で見させてもらっている。
セスを含めて5人のパーティは、王都の西側にある馬車に乗り込むと、次の瞬間にはクエストの依頼があった村に着いていた。
多分、ここからインスタンスに変わったんだろう。セスたち以外のプレイヤーが全然いない。
依頼主の村長と会話し、目的の場所へと進む一行。弓使いのプレイヤーが気配感知に従って進み、はぐれゴブリンを見つけては始末するという感じ。
ゴブリンの集落に着くまでに8体を倒したせいか、最終的に集落にいたのは見える範囲で10体ほど。
集落と言っても焚き火を囲んでるのと、狩ったと思われる兎やら鹿やらが無造作に積まれているだけか。うーん、島のゴブリンの集落もこんな感じだったっけ?
そんなことを考えているうちに、メンバー全員が打ち合わせ通りの位置につく。
初撃は魔法。魔術士の火球で先制し、弓使いが確実に仕留めたところで、セスが飛び込んでいってタゲを集める。
ゴブリンが振り回す棍棒やらナイフで攻撃してくるのを、ガッチリと大盾で受けて弾き返し、長剣でしっかりとダメージを与えていくセス。
「お前、タンク上手いな」
思わず呟いてしまうと、セスは気を良くしたのか、シールドバッシュまでやる始末。大盾スキルのアーツで出来るっぽい。
あとは槍持ちと双剣持ちが確実にゴブリンを仕留めていって掃討完了。解体やら戦利品を漁ってから村へ戻り、村長に依頼達成の一筆をもらう。
『これでクエストのクリアフラグは立ったので、現地解散でも良いらしい。まあ、移動が面倒になるので馬車で戻るがの』
そう小声で教えてくれるセス。
行きもそうだったが、クエストだからショートカットできてる部分を、ちゃんと歩きやらで移動してもいいらしい。
まあ、VRMMOとはいえクエの移動時間をまともに実装したらプレイがダレるもんなあ……
ギルドに戻ってきて窓口で報告。魔石やら戦利品を売っぱらって終了。
『では、また縁があったらの!』
野良メンバーを解散して終了。ここまで1時間ちょい。なるほど、普通はこういうゲームプレイなんだな。
「これはこれで楽しそうだな」
『うむ。王道のMMORPGをフルダイブVRにした感じではあるが、楽しめる部分はリアルに、ストレスに感じる部分はほどよくスキップさせる良い作りだの』
これに比べると無人島スタートは随分とリアルな気がするよな……
いや、でも要所要所で普通は無理なこと——解体とか罠設置とか——はちゃんとスキップしてくれてるのか。
「当面はクエストを消化していく感じなのか?」
『そうよの。運営の話では、安定した稼働が実現し、新規登録の制限が無くなったところで、メインストーリーが始まるらしいからの。
それまでの間に、この世界がどういうものなのかを教えてくれるのがクエストなのであろう』
「なるほどなあ。まあ、俺には関係なさそうだけど」
ギルドを出たセスはそのまま王都をぶらついている。俺に街並みを見せてくれてるんだろう。
『ここが王都最大の広場なのだ』
通りを出たところに、スタジアムほどの大きさの広場がドーンと広がっていて、かなりの数のプレイヤーがいる。
「露店なんかもあるんだな」
『ヒールポーションなどは店売りよりも質の良いものが出始めておるのう。武具はまだまだのようだが、いずれは出てこよう』
セスは露店を何店かまわって、ポーション類を物色していく。きっちり鑑定スキルを使って品定めし、良質なヒールポーションを2つほど購入するセス。
「ガラスはあるんだな」
『板ガラスはないようだがの』
まあ、鉄器があるんだからガラスはあるよな。吹きガラスって紀元前にはあったって話だし。
島でもいつかガラスを作れるようにならないとなあ。キンキンに冷えたジンジャーエールとか飲んでみたいし。いや、その前にポーション作ってみるって話だったな。
よし、そろそろ俺もIROに……
【無人島が発見されました!】
「は?」
『む? これは兄上が無人島スタートをしたときにあったと言われる、ワールドアナウンスというやつか?』
「ああ、多分そうだと思う」
俺以外に無人島スタートをした奴がいるってことか? 自分で言うのもなんだけど、よくあの方法見つけたな。
俺じゃない誰かが、どういうゲームプレイをしようとしてるのか気になるんだけど、確認する方法もないし……
と、通知が飛んで来た。誰だろ……ってベル部長か。このアナウンスのことだろうなあ。
「美姫、すまんが部長に呼ばれた。多分、このワールドアナウンスのことなんだろうと思うけど」
『了解した。ではまた夕飯にの』
美姫の配信を閉じて部長から来た通知を開くと、今度は部長の配信への招待。IROをすぐ抜けるわけにも行かない状態らしく、配信経由で話がしたいらしい。
「えーっと、聞こえます?」
『ええ、聞こえるわよ。ごめんなさいね、ちょっとクエスト中で抜けられないのよ』
「なるほど。で、やっぱりさっきのワールドアナウンスの件です? 無人島の」
『え? IROしてなかったと思うんだけど?』
「ちょうど妹のIROを見てたとこだったんで」
『……』
その微妙な間はなに?
『えっと、どうやらその無人島スタートがライブ配信されてるらしいのよ』
「え、マジっすか。じゃ、見てきた方がいいですよね?」
『ええ、お願いできるかしら。アーカイブとして公開されるかどうかわからないし』
ライブは基本的に保存されてて、そのまま公開はできるんだけど、人によってはライブの価値を上げるために一定期間は公開しなかったりもする。
さっさと見に行っておかないとだな。
「じゃ、見てきます。感想というかそれは夜にでも部室で」
『ええ、お願い。その新しく無人島スタートしたのは、ゲームドールズの子らしいわ。探せばすぐ見つかると思うけど』
「りょっす。じゃ、さっそく見てきます」
『お願いね!』
ゲームドールズって企業がやってるとこだったっけ。攻略サイトがバーチャルアイドルを雇ってるとかそういうのだった気がする。
攻略サイトに情報が載るまで、ライブのアーカイブは公開しないとかだったし、早めに見に行かないとだな。
えーっと『IRO』『ゲームドールズ』あたりで検索を……ってトップに出てるし。
今川さあや@ゲームドールズ「IRO無人島スタートライブ配信 #1」これだよな。トレンド急上昇中か。
「なんか面白いことしてるのかな? うちの島でも参考にできることとか、なんかそういうのを期待したいところだけど」
そんなことを考えつつライブを開いてみると、なんだか別の意味ですごいことになっていた……