第23話 正面から戦わない
「さて、配信開始っと」
アーマーベアには無謀な戦いを仕掛けないようにと念を押されたあと、IROにログイン。
いつものようにミオン限定にして配信開始。
ルピは起き上がった俺のあぐらの中におすわりして嬉しそうだ。
『ショウ君、ルピちゃん、こんにちは』
「ようこそ、ミオン」
「ワフン!」
ルピの挨拶が加わってなかなかいい感じ。ちゃんと返事するルピが賢いアピールにもなるし。
『今日は何を?』
「今日は地味な作業になるかも? まずはスキル取らないとかな」
そう答えつつ、スキル一覧を開く。
探すのは愚妹——美姫から授かった策に必要なスキル。失敗しても無駄にならないスキルだったので、試して見ようという気になった。
「あった。【罠作成】【罠設置・解除】【罠発見】って三つもあるのか……」
『罠ですか?』
「うん。俺のレベルが上がっても、囲まれるとやばいのは間違いないだろうし、そうならないように下準備しようかなって」
美姫が提案してくれた作戦は、ゴブリンの集落から少し離れた場所に罠地帯を設け、そこに誘い込んでって感じ。
でまあ、罠関連のスキルはこの先のことも考えると無駄にはならないだろう。問題はどれくらいの罠が作れるのか不明な点だけど……
「罠作成と罠設置・解除がSP4、罠発見がSP1、合計でSP9。罠発見はいらない気もするけど、設置して忘れそうだもんな、俺……」
覚悟を決めてポチッと取得。これで残りSP19か。まだ全然大丈夫。この間の先駆者って特殊褒賞がでかい。
「さて、兎狩りしつつ罠スキルの使い勝手を調べてみるよ」
『ショウ君、その前にルピちゃんにご飯あげてください』
「ワフッ!」
アッハイ……
***
島の南東、密林地帯の浅い場所をルピと散策している。
「ピスピスー!」
「ワフッ!」
ルピがバイコビットを楽々倒して、俺に「解体して」と差し出してくる。
「よーしよし」
サクッとバイコビットを解体すると、
【解体スキルのレベルが上がりました!】
「おっと、先に解体のレベル上がっちゃったか。って【バイコビットの皮】だって」
『いいですね。革紐とか作れそうじゃないですか?』
「あ、なるほど。罠とかいろいろと使い道ありそうだよな」
ん? 皮から革にしないとなんだよな? そういうスキルが必要なのか後で調べないとだよな。
「お、この蔓とか良さそう」
『罠にですか?』
「うん。スネアトラップっていうのが一番楽かなって」
映画とかでよくある足に輪っかが引っかかって吊し上げるやつ。あそこまで極端なのは無理だろうし、鹿とか猪を取るための括り罠と同じ感じ。
しっかりした蔓を確保し、ついでに硬そうな枝をいくつか確保。多分これで大丈夫? 罠設置を発動しながらあたりを見ると……
【罠設置可能です:スネアトラップ】
ちゃんとどういう罠を設置できるか教えてくれた。
「試しにこの木を使って設置してみるよ」
『はい!』
設置しようとする場所を意識すると、頭の中に手順が浮かんでくるので、その通りに手を動かして設置完了。
「ルピ。危ないからあの辺は近づくなよ?」
「ワフ」
わかってますって感じのドヤ顔。俺より賢いし大丈夫だよな。
その後も、数カ所に同様のスネアトラップを設置してからテントへと戻ってきた。
『あの場所だと、ウサギモンスターがかかったりする感じですか?』
「多分ね。それ以外にも何かいるかもだし、ちょっと期待してるかな。夜にログインしたら、確認に行こうと思ってる」
『楽しみです。それまでは何を?』
「うーん……、特に考えてなかったんだよなあ。流木削って食器でも……あ、先にルピ用のフライングディスク作ろう」
MMORPGなんだし、モンスター狩って、経験値とお金貯めて、キャラも装備も強くしてってのが普通なんだろうけども。
『ルピちゃん、良かったですね〜』
「ワフ〜」
なんかこう、ルピにミオンの声が届いてるっぽいんだよな。配信してるとルピにも聞こえてるとか?
ルピと海岸をぶらぶらと散歩しつつ、適当な流木を拾っていく。っていうか、
「ルピ! それっ!」
「ワフッ!」
なんとなく靴っぽい形の流木を投げると、それに向かって駆け出すルピ。うん、まあそうだよなって思ってたら……
【投擲スキルのレベルが上がりました!】
「えっ、こんなことで上がるんだ……」
『レベル5まではすぐ上がるらしいですよ』
「なるほど。でもまあ、最初の方はさくさくレベル上がる方が『やった!』って感じあるもんなあ」
レベル1から2になるのに一ヶ月もかかってたら、その間に辞めちゃうよな。
『ショウ君、たくさんスキルあるから、どれも全部上げていかないとですね』
「まあ、ほどほどにかな。一人のんびりするために必要なスキルは、そのうち上がると思うし」
「ワフ」
あ、うん、もう一回ね。
なんだか投擲スキルばっかり上がりそうな気がしてきた。
………
……
…
【石工スキルのレベルが上がりました!】
そこからルピと遊びつつ、あっちこっちで鑑定、採集してスキルレベルを上げ、戻ってきてから木工、石工、料理もやってスキルレベルが2になった。
木工と料理はまだダガーを使ってできるけど、石工がちょっと大変だったかな。石同士を打ち合わせて硬いものを選別し、それを使ってかまどとまな板を新調したところ。
『お皿やコップが増えると家が欲しくなりますね』
「そうなんだよなー」
『前にログハウスって言ってましたけど、予定とかあるんですか?』
「一応はね。でも、まだ秘密」
今のところは、あのゴブリンたちを掃討してそこにって考えてる。
あいつらちょっと開けたところに生活してたし、いったんそこに拠点を移して、そのスペースに小屋を建てたいところ。
「さて、そろそろ夕飯の支度があるから落ちるよ」
『はーい。そういえば今日、東友で買い物してましたよね? 隣にいたのは妹さんですか?』
「え、うん、そうだけど。見かけたなら声かけてくれればいいのに」
『私がリアルで声かけれるわけないじゃないですか』
あ、うん、そうでした……
「まあ、美姫も……あ、妹の名前ね。俺とミオンの動画見てるし、IROもやってるし、来年は美杜来るって言ってたし、電脳部にも入るだろうから、そのうち会えると思うよ」
『そ、そうなんですか。緊張します……』
「大丈夫だって。あいつ、頭いいけどお子様だし」
うん、これバレたらまたサーロインコースだな……