1話 熱
のんびり投稿していきます。
「リリィ、つらいね」
溢された声は、本人に届くことはない。
ルザリオ侯爵家の長女であるエミリアは双子の妹であるリリシアを心配そうに見つめていた。
白い肌は熱で赤く染まり、艶のある髪が汗で張り付いている。瞼は固く閉ざされ、小さな口からは熱い空気が零れていた。
「エリィ、ここにいたのね」
静かに落とされた声に振り返れば、こちらを呆れた顔で見つめるお母様の姿があった。
「お母様」
そう言うと、ペリドットの瞳が咎めるように私を射貫く。
「ごめんなさい、どうしても心配で」
とっさに出た謝罪と言い訳は、口の中で転がされ、小さな声へと代わる。
「今日約束したこと覚えているかしら?」
そう言って優しく、私の頭を撫でる。
「熱が下がるまでは、会いにいってはいけない...」
じわりと涙が浮かび上がる。
「リリィがいきなり倒れて心配なのはよく分かるわ。私も心配だもの。でもね、もしあなたに移ってしまったらリリィが悲しむでしょう」
そう言って溢れてしまった涙を拭ってくれる。
「...ごめんなさい」
その後、もう一度お母様とリリィの熱が下がるまでは会いに行かないと約束をした。
伸ばされたお母様の手を握る。そのまま手を引かれ部屋を出るところで、お母様の手を軽く引き止まってもらう。振り返り「早く元気になってね」と一言残し、エミリアは悲しそうな表情で部屋を後にした。
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