76 解体
「色々と報告は受けておるが……」
重々しく口を開いたのは国王だった。
「ま、まさか……国王陛下自ら……」
「ではあやつらの言っていたことは?」
「どうする! もはや取り返しがつかんぞ!」
慌てる幹部たち。だけどまあ、取り返しがつかないのはだいぶ前からだからな……。
「さて、まずはAランク昇格おめでとう」
「ありがと」
「本来はこんなもの、Sランクでも誰も文句は言わんだろうがな」
その声を聞いて観客は盛り上がっていた。老人たちは慌てふためいていたが。
「だがまあ、ここでそれをするのは問題だ。余からできるのはそうだな……」
一呼吸置いたのち、観客に向けて声を張り上げた。
「今見ての通り、冒険者リントとその仲間には凄まじい力がある」
わああと歓声が上がるコロシアム。なんか複雑な気持ちになるな。
「このような逸材、在野に放つには惜しい! 是非我が国のために活躍を見せてほしい。そうは思わんか?」
さらに盛り上がる観客たち。
「正式な話はまだ先だが、冒険者リントはその目覚ましい活躍と我が国への貢献を鑑みて、爵位を与え末長く将来にわたり我が国とのパイプを繋ぎたい」
パイプ? 忠誠とかじゃないんだな?
「ご主人はすでに神国で名前だけ指導者をやっておろう」
「ひどい言い方だな……」
その通りだから何も言えないが。
「ここでただ爵位を与えるとそちらが問題になりますので、あらかじめ国王と話をつけ、神国側に顔が立つ形をとることにしました」
「そうなの?」
初耳だ。
まあリリィなら悪いようにしないだろうしいいだろう。
「さて、冒険者ギルドは本来、国を超えてあるべき組織だ。今回、この部分が大いに問題になった」
幹部の、いやもう元幹部と言っていいだろう老人たちの顔はもはや青ざめているを通り越し、蒼白になっていた。
「さて、色々と考えねばならぬが、ひとまずこのギルド幹部とされていた各ギルド支部の上位組織を一度、解体する」
「そんな!」
「そんなことをすれば誰がまとめると……」
「それに関しては私からお話させていただきましょう」
赤を基調とした奇抜な服装に身を包む男が現れた。
「だれ?」
「国王の右腕、というよりもはや、この国の政策のほとんどは彼が握っていると言っていい政治の天才……トラリム宰相です」
「あー、例の……」
おおよそその奇抜な服装から優秀さを感じさせないのだが、気にする素振りもなく続けた。
「まず、ギルドは本来、統括する機能自体は王都のような大きな支部であれば持っています。今回は臨時ながら、王都ギルドマスター、ヴィレントを仮の代表とし、各ギルド支部のマスターを定期的にまとめ、運用方針を決めていただく」
「おー、ヴィレント出世するんだねー」
「苦労する仕事を押し付けられただけとも言えますけどね」
ビレナとリリィがそれぞれつぶやいた。
その後もトラリムから色々と話が出てきているが、要するに一度組織は解体、役員になってた貴族は厳重に調査の上その後判断……事実上あれだ、どこまで首が飛ぶかの判断になるらしい。一番マシなパターンで役職を失うだけで済むかどうかというところだそうだ。
「借りが増えてしまうばかりだな」
気安く国王が声をかける姿に周囲の貴族がなんとも言えない顔をしてくるが、今の俺たちは冒険者、作法は忘れて対応しよう。
「ふむ……ではその借り、いくつか返してもらおうかの」
「ベル?」
「ふふ。まあ任せておれ。リリィも同意の上だ」
リリィを見ると確かに首を縦に振っていた。
「まさか余が悪魔と契約とはな」
「そんな大層なものではない。あくまでご主人のパーティーだ。もはや種族など、些細すぎる問題であろう?」
「確かに」
後ろに控えるトラリムも黙っているので周りの貴族は何も口を挟まないが、悪魔と口に出した途端周囲はざわめきたつ。
「私たちの次の目標を教えよう」
「それだけではまた借りが増えるようなものではないのか?」
後ろでトラリムが静かに口を挟んだ。
「その通り、もはやあなた方は味方である貴族候補でありながら、我らの手綱では捌き切れぬ飼いきれない強者。行動が知れるだけでそこに割く国防費がいくら浮くことか」
知らない間にそんな扱いを受けていたらしい。
「して、まあ余にとっては願ったり叶ったり、話を聞こうではないか」
この言葉が、数秒後に国王を後悔させるとはまだ、トラリムでも考えていなかったらしい。
書籍版についてお出しできる情報を小出しにしたいんですが作者名もちょっと長くしたい話もあったり
アイデアあったらくださーい!
なくてもなんか感想くださーい!w