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43 エルフの女王

「ご主人さま! 大丈夫ですか?!」

「あ、ああ……なんともない。でも、死ぬかと思った……」

「よかった……!」


 涙目のリリィに抱きつかれる。

 それだけあの攻撃はやばかったんだろうな……。よかった。


「とりあえずお礼をしないとだな」

「そうですね。ビレナの知り合いのようですが……」


 ギルを地上へ向かわせた。


 ◇


「リントくん! 良かったぁ……」

「流石にあれは死んだかと思ったな……」


 ビレナとバロンもそれぞれ心配してくれていた。キュルケはあれ以来俺の元を離れようとしない。


「きゅ……」


 ギルも相当な恐怖を味わったはずだが俺を心配するように顔を寄せてきた。撫でてやると気持ちよさそうに鳴いて飛び立っていった。


「はじめまして、あなたがビレナの……」

「あ……えっと……ありがとう、本当に助かった」

「ふふ。気にしないでいいわ。あれを放置していれば私達の国にまで被害が及んだからね」


 目の前に立つのはひと目でエルフとわかる美女。ビレナもリリィもバロンも顔立ちはかなり整っているが、これはなんというか、神々しさを感じるエルフ特有の美しさがあった。

 尖った耳、透き通る白い肌、大きく揺れる宝石のような青い瞳、金に輝く流れる髪……。それぞれのパーツが完成されていて美術品のようだ。


「あれ? 今この辺なんだ?」


 ビレナが声を上げた。


「そうね。前にビレナが来たときは150年くらい前だったかしら?」

「ちょっと! そんな前じゃない! あと歳がバレるからやめて!」

「ふふふ。あらあら」


 ビレナがからかわれてるのは初めてみたな……。


「とんでもない魔力だったが……ああ、あやつか」

「知り合いか?」


 戻ってきたベルが恩人(エルフ)を見て納得したように呟いた。


「いや。だがひと目でわかる。あれはエルフの中でも桁違いだな……」


 見た目に反して相当な年月を生きてきたベルが言うのだから、エルフの中でも彼女の力が優れてることがわかる。


「ふふ。一応これでも、エルフの国の長だからね」

「ああ、ビレナが言ってた女王様って……」

「そう。はじめまして、ティエラと言います。よろしくお願いしますね、リントさん」


 命の恩人のその笑みは何故か妖艶にうつって頭から離れなかった。


 ◇


「半壊って感じか」

「あれだけ暴れさせてこれで済んだのは私のおかげだからな!」

「ありがとな、ベル」


 俺たちはリリィの案内で大聖堂の中にある馬鹿でかい部屋に連れられていた。

 その後すぐリリィは戦後処理に走り回ることになり、バロンに至ってはさらに早い段階で事態の沈静を図って別行動になっていた。いまは武装勢力を取り押さえながら聖都の状況を確認してくれているところだ。


「まさかティエラが自分で出てくると思わなかったなー」

「私もまさか、あんなおおごとに首を突っ込むことになるなんて思ってなかったわ」


 自分が治める国にまで被害が及びかねないエネルギーを感じて飛び出してきたという。そのおかげで命を救われたと思うとまあ、ありがたい限りだ。


「でもティエラ、それだけじゃないよね?」

「ビレナには隠し事ができないわね……」

「何年の付き合いだと思ってんのさー」

「私が250歳の頃からだから」

「待って! それ以上はダメ!」

「ふふ……」


 頑なに年をバラさないビレナだがまあ、獣人は人の3倍生きるからな。人基準とはまた違うんだろうなぁ、感覚とかも。


「さて、森を出たのはね、ちょっとお願いがあって」

「いいよー」

「まだ何も言ってないわよ……」

「でもリントくんなら断らないよ」


 ビレナの謎の信頼は嬉しいような気もするけど話を聞きたいし話をさせてあげて欲しい。


「私のお願いはしばらく匿ってもらうこと」

「ありゃ、そんなにまずいんだ」

「ええ、このままだと長老たちに、ね……」


 元々排他的で人との交流を嫌うエルフたちは、これまで細々と森の恩恵を受けて生活をしてきた。

 だが抑圧された欲望はいつか爆発する。

 それが何年も、正確には何百年も前に袂を別つ種族、ダークエルフやハーフエルフなどを生み出す原因となった。

 ということらしい。


「私もこうして森の外にも積極的に出ていきたいのだけど、なかなか話がまとまらなくてね」

「で、今となっては1人で森を追われている、と……」


 エルフの対立。女王である彼女は親人間派だが、長老組はそうではなく、また長老たちは王家の人間よりも発言権があるらしい。

 若いエルフが外に出たがり、老いたエルフは出たがらない。エルフは寿命が長く生きれば生きるほど力を増していくこともあり、バランスをとる意味でも王女であるティエラは親人間派につく必要があったらしいが、最近になって状況が変わったようだ。


「長老組からハイエルフが出てきちゃったの。流石に太刀打ちできないわ、あんなの」

「ハイエルフ……?」

「魔獣の精霊化と同じだよー」

「精霊化……?」


 カゲロウを見る。

 本来野生の魔獣で最も危険なのは竜種であり、その危険度がA。

 その上は災害級の突然変異や神話に出てくるような化け物だ。精霊化した魔物はそこに入る。


「エルフって元々ほとんどがAランク冒険者並みのステータスなんじゃなかったっけ……?」

「長老クラスなら本気を出せばみんな、私でいい勝負かなぁ」


 ビレナといい勝負のエルフがさらに強化されたってことか……?

 なんだそれ……。いやベルがそれくらい、か……?


「こと、森の中のハイエルフとなれば私でも勝てんだろうな」


 ベルがそう言う。つまり……?


「ティエラを助けるためには強くならなきゃだね!」


 ビレナはやっぱり楽しそうに言った。


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