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リントの特訓 ツノウサギ討伐④

 カゲロウが遠吠えをあげたのに合わせるように、ツノウサギたちが動き出した。

 角が妖しげに光りだしたかと思うと、すぐさまツノウサギたちが地を蹴って、縦横無尽に駆け出してくる。

 スピードに乗ったままこちらに飛び込んでくる無数のうさぎたち。キュルケと役割分担をアイコンタクトで済ませ、意識を集中する。


「よし!」

「キュクー!」


 カゲロウと息を合わせていく。

 今できることは歩く、走る、腕を動かすといった基本動作だけだ。

 例えば走りながら攻撃をしたり、逃げながらガードすることは難しいことがわかっている。今ここで取るべき手段を相談して、一つに絞る必要があるわけだ。


「来る!」


 まず一体目。その場に留まり、腕を振り下ろす。

 思わぬ角度、スピードから攻撃を加えられたツノウサギはバランスを崩し、周囲にいた仲間を巻き込みながら地面に叩きつけられた。

 良かった。慣れないうちは一撃でバラバラになったりスパッと半分になったりしていたからな。

 加減を覚えられたことに対する喜びを一瞬だけカゲロウと共有する。カゲロウもこころなしか嬉しそうだった。


「言ってる場合じゃないな。跳ぶぞ!」


 応えるのを待たず今度は足に力を集中させる。

 飛び込んできたツノウサギたちをあざ笑うかのように空中に身を投げ出す。

 第一陣はこれで躱しきれたことになる。

 と、ここで第二陣が空中へ向けて地を蹴るのが見えた。


「頼むぞ」

「キュキュー!」


 向かってきたツノウサギの数は十数匹。自分の身を守るために炎を使うと、逆にツノウサギたちが耐えきれず焼失することがわかっていたのでそれは出来ない。


「キュクゥゥゥゥ!」


 カゲロウ頼みの攻撃ではあるが、それぞれに必要最低限の魔力をぶつけることで空中で叩き落とすという手段を取った。

 ちなみに魔法が使えない俺にとっては未知の感覚なので、ほとんどのコントロールはカゲロウに任せている。

 俺に出来ることは相手の力量を判別してそれぞれにどの程度の魔力をぶつけるか指示するだけだ。同じツノウサギでも個体によって耐えられる威力は違っていた。


「うまくいった!」


 だが油断する暇もなく第三陣が準備を整えている。着地の瞬間をつかれるとタイミングが難しくなる。

 生身で跳ぶには無茶がすぎる高さまで跳ね上がっているから、着地にもエネルギーを割きたい。

 だがそうすると次に飛び込んでくる奴らの相手をどうするのかという話になるが……。


「きゅきゅっ!」

「助かる!」


 本当に気が利く相棒だった。

 すっと俺の前に入ったキュルケが、その小さな身体を光らせて準備に入っている。


「きゅきゅきゅぅううううううう!」


 なぜかはわからないが光ったキュルケには攻撃を弾き返す力があるらしい。

 飛び込んできたツノウサギを一度に弾き飛ばす。その間に余裕を持って着地した俺たちがまた、吹き飛ばされたツノウサギたちにとどめを刺していく。

 ついでに控えていた第四陣にも打撃を加えた。

 これで残り、十。


「ここまでやればあとは……!」


 逃げるべきか迷い始めたうさぎたちに、ここで初めて先手を打つ。

 地を蹴って走り出した俺の、正確にはカゲロウのスピードには付いてこられなかったらしい。

 すれ違いざまに二匹を倒して残り八。


「っ!」


 逃げられないことを悟ったツノウサギのうち三体が同時に飛びかかってくる。

 大丈夫。両手と、ミニカゲロウが動いてくれれば三体は対応出来る。


「キュクー!」

「あと五!」

「きゅきゅっ!」


 叫ぶと同時にキュルケがこちらに集中を奪われていたツノウサギを強襲した。残り三。

 残ったツノウサギが後退りをする。

 可愛そうだがここで終わるとまた無限に増えるのがうさぎの類の特徴だからな……。

 一度根絶したってまたどこからともなくやってくるのがこいつだ。可愛そうだけど……、いや、ちょっと試してみるか。


「テイム」


 完全に優位に立っている。彼我の実力差をわからせた上でのテイム。これなら成功するかと思ったが、結果は――


「だめか」


 角を光らせた三匹のウサギが決死の表情で飛び込んできた。


「カゲロウ」

「キュク!」


 それぞれを倒すのに必要な魔力量を調整してカゲロウに伝える。

 これまでの数を思えば実にあっさり、三匹を倒しきった。


「テイムの条件……難しいな」

「あ、終わった?」


 色々考えようかと悩み始めたところでビレナが顔を出した。

 収納袋があるからほとんど手ぶらではあるが、なんとなくこちらの数倍は倒していることは想像できた。

 だというのにビレナはケロッとした表情でこう言った。


「ちゃんと強くなってる! 流石リントくんだね!」

「ありがとう……?」

「にゃはは。実感がないって顔してるけど、もうこれだけの相手ができたら普通Bランクだからね!」


 そう言われてあたりを見渡せば、優に百は超えるツノウサギたちがそこには転がっていた。

 俺も少しは……強くなれたのだろうか。


「じゃ、転がってるのを回収して戻ろっか」

「ああ」


 まだ地面に温かいまま横たわるツノウサギたちととりあえず角だけ回収してあとの作業は一旦放置して収納袋にしまい込んでいく。

 テイムできなかった理由があるとすれば、仲間をこれだけバタバタと倒されたのを目の前で見てきたからだろうな。

 確かにあのとき、キュルケやギル、カゲロウのときのような何かを感じ取ることが出来なかった気がした。

 このあたりのことも徐々にわかってくる部分があれば良いなと考えながら、目の前の作業を終わらせ、報告のために村に向かった。


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