リントの特訓⑦
「普通のよりぜんっぜん美味しいからね! 売ってもいいけど、せっかくなら食べちゃお?」
「そうしよう。その前に三つだけ、やっていいか?」
「ん! また変異種を見つけたら呼んでね」
「そういくつも見つかってたまるか!」
ほんとに死を覚悟したんだからな……。
変異種のせいで死んだり瀕死の状態でギルドに運ばれてくる冒険者は多い。
そのせいだろう。死のイメージがある意味ドラゴンやカゲロウと戦っていたとき以上にリアルだった。今も心臓がバクバクいっている。
「全部変異種だと思えば……よし、気を取り直そう」
「きゅっ!」
「キュクー!」
二匹に励まされるように採取を始める。
幸いなことにその後見つかった三つは通常種だったのであっさり収穫できた。
一つ目だけは手間取って爆発させそうになったが、キュルケが助けてくれた。あとは動きに慣れてきたので対応できる範囲だった。
よし。精霊憑依でも動ける様になってきた。さっきの変異種との出会いも無駄じゃなかったかもな……。
「すごいすごい! 息ピッタリだね!」
「ほとんどカゲロウが合わせてくれてるだけだけどなあ」
「それでもすごいよ!」
ビレナが褒めてくれるとやる気になるな。
いや調子に乗らないように気をつけよう。
爆発果実さえ片付けてしまえばあとのクエストは楽だった。カゲロウの調整を少しずつ覚える必要はあったが、荒治療のおかげでかなり慣れてきていた。
薬草の採取から取り掛かっていたら半分以上カゲロウの炎で燃やしていただろうなと思ったが、割となんなく収集できたし、薬草を探している間に魔物も複数確認できた。
俺たちが食べる分を考えても有り余るほどの戦果だった。
そうこうしているうちにお昼になったので食事をすることにした。
「じゃ、いただきまーす!」
調理に取り掛かり、捌きたての新鮮な肉と採れたての爆発果実を簡易の食卓へ並べていた。
「美味しい!」
「良かった」
料理係は俺だった。とは言え食材がしっかりしてるから切って焼いただけでもうまいんだけどな。
塩さえあればなんとかなるものだった。
ただせっかくなので一工夫は加えてある。ソロでも調理をしていたのが役に立ってよかった。
「薬草ってこういう使い方もあったんだねー」
「貧乏人の料理に色を加えるにはこれがいいからな」
薬草はものによっては調味料になる。塩だけでは味気がない部分はこれでカバーしていた。
「新鮮! 回復薬にしかならないと思ってたよー。レストランで食べるみたいだねえ」
何を作っても「おー!」「すごい!」と褒めにかかってくるビレナだったが、聞いたところによると今まではほとんど採ったまま食うしかしてこなかったらしい。なんなら肉も生でいけるタイプだそうだ。
いやまあ、獣人だもんな。意識しないと忘れるけど、人間とはまたちょっと違った特徴もあるわけだ。
「ごちそうさまー!」
「お粗末さまでした」
「にゃははー。これだけでリントくんと組んだ甲斐があるねー」
ビレナはおだて上手だった。
その後もビレナが経験と嗅覚を遺憾なく発揮してクエストに必要な魔物や素材を探し当てていく。
場所も還らずの草原を中心にいくつかの場所を移動していた。ギルもいるし、ビレナが手を引いて走れば距離の問題などほとんどなかったことに気づいたのは、最後の依頼の場所にたどり着いた頃だった。
「本当に一日で終わりそうだ。すごいな……」
「まあでも、私はほとんど何もしてないよ?」
その言葉通り、ビレナは誘導だけすると俺に仕事を譲ることが多かった。
ただビレナなしでは成し遂げられなかったのは事実だ。
Cランクの依頼に竜と炎帝狼というやりすぎなコンビが遺憾なく力を発揮した結果、思いの外時間もかかることなく依頼は進んでいた。途中から俺とキュルケはもはや休憩していたんだが、カゲロウが自由にのびのびやってくれたおかげで作業は止まることがなかった。
まあ本来のテイマーってそんなもんだしいいかと割り切って休憩させてもらっていたんだが、最後の難関だけは自分の力でということになった。
「リントくんもいよいよCランクになるよー!」
「実感がなさすぎる」
確かにクエストはすでにこれ以外すべて終えているし、実績としては十分だということはわかる。
Dランクは本来、Dランク向けの依頼を積み重ねて実績を積むものであって、Cランク向けの依頼は一応受けられるだけという分類だ。
だからまあ、Cランクの依頼をいきなり十個も達成してしまえば、昇級基準は十分満たせるだろう。
「ビレナがいなきゃ狩場すらわからなかったし、ギルとカゲロウにも頼りきりだからなあ……」
「にゃはは。私だってリントくんの従魔なんだから、このくらいはいいのいいの!」
そう丸め込まれながら俺は最後の依頼書を確認する。いよいよ一番厄介なクエストになる。
最後に残ったの……。
「ツノウサギ百体の討伐」
「鍛えた成果を存分に発揮してね!」
ビレナに応援されるように、依頼主のいる村まで向かった。