リントの特訓⑥
「キュルケ、気をつけて行けよ」
「きゅっ! きゅっ!」
わかってる! と言わんばかりの様子に少し和ませてもらいながら進むと、ちょうどよく三つ、果実を見つけた。
「よし、やるぞ」
頭の中で表情と対処法を確認する。
そのイメージをそのままキュルケとカゲロウにも共有しておく。今の俺はカゲロウを纏っている影響で思考スピードより早く身体が動いてしまう。歩くくらいならなんとかできるようになったものの普通に動けるかと言われればぎこちない。
「これ……防御力的には万が一爆発させても大丈夫だろうけど、動きにくいな……」
見つけてすぐ対処が必要な爆発果実の相手をするには少々心もとない形になっていた。
「ま、何かあったら頼む」
「きゅっ!」
キュルケも頼れる。カゲロウは言うまでもない。
動きにくくても十分対処できるはずだ。
「いくぞ」
「きゅっ!」
一つ目に手をかける。
あらゆる顔が出てくることを想定して動いていた。
このときはこう、そのときはそう、と、カゲロウとイメージを共有することにも余念がない。
だが想定は、常に最悪を考えるべきだった。│この顔《穏やかな顔》だけは、想定から排除してしまっていた。
「キュルケ! 逃げろ!」
「きゅきゅっ⁉」
キュルケが飛び退いたのと、手にとった爆発果実の変異種が光を放ち始めたのはほとんど同時だった。
「くっ」
カゲロウの憑依に意識を落とし込む。いまここで精霊憑依の練度を高めてなんとか対応するしかない。
逃げようと思えば逃げられる時間は合ったと思うが、キュルケが突然の指示に対応出来ずに右往左往していたのだ。キュルケを置いていくことはできなかった。
全身を包む鎧、そして、キュルケを守る盾をイメージする。カゲロウもなんとか俺の拙いイメージを汲み取って展開してくれた。
「中に入れ!」
「きゅっ!」
カウンターで対応しようとしていたキュルケが俺の声を聞いて嬉しそうにこちらへ飛んできてくれた。カゲロウのガードの中になんとかキュルケをしまい込む。
あとは爆発の衝撃に耐えるだけ……。
だが、いつまで経っても果実は爆発することなく光を放ち続けていた。
「ふー。よかったー! 間に合ったね!」
気づけばビレナが爆発果実の変異種を抱きかかえていた。
変異種の対処法は知らなかったが、こうして駆けつけてくれたということは何かコツがあったんだろう。
基本、見つけたら即逃げろが対処法だと思っていた。
「にゃはは。この子たちはね、自分が放った魔力より強い衝撃を受けると止まるんだよ」
「そうなのか……いやそんな力技なのか……?」
爆発しそうな変異種にそれ以上の力をぶつける……普通なら爆発を促しそうで絶対やりたくないな……。
「加減しないと粉々にしちゃうんだけどね」
ビレナの心配は別方向に進んでいた。
なにはともあれ助かった……。
それにしても……さっきのカゲロウとの精霊憑依、あれくらい自分の思い描く形にコントロールできれば、それは本当に大きな力になるだろう。実際にはほとんどカゲロウのおかげで成立した奇跡のようなものだったので、なんなら次にやれと言われてできる自信すらないのだが。
「ビレナ……。ありがとう」
「にゃはは。それにしてもリントくん、運がいいね。これを見つけられるなんて」
「この場合普通悪い、何だけどな」
嬉しそうに変異種を抱えるビレナからすれば、この発見も喜ぶべきことなんだろうな……。