リントの特訓⑤
爆発果実を爆発させずに回収する方法。このとき重要になるのがこいつらの顔だ。
基本的に怒り狂っている爆発果実だが、その表情は個体ごとに微妙に異なる。
例えば目を吊り上げて怒っているタイプはおでこを突くとおとなしくなる。口を大きく開けているものは頭頂部を撫でる……など。
果実ごとの特徴を判断し対応していくことで爆発を防ぐことができる。その隙に果実を木から分離させれば、完品の爆発果実を採取できるというわけだった。
これには当然危険が伴うわけだが、それでもCランクとして活動できる冒険者であれば爆発を直に受けたとしてもポーションや回復魔法があれば十分耐えきれる威力だと言われている。それでも結構痛いには痛いというか、場合によっては腕くらいは持っていかれるというから油断は出来ないんだけど……。
「手慣れてるな?」
そんな危険を孕んだ相手だというのに、ビレナはさっさと爆発果実を収穫していく。もちろんその全てが完品だった。
「ふふーん。この子たち結構色んな所にいるし、美味しいからね」
草原地帯から続く森の入口に入ってすぐ姿を表したことからわかるよう、確かにこいつらは割とどこにでもいる。ここは特にその数が豊富なだけだ。
危険の伴う植物型の魔物ではあるが、こちらからぶつかったりしなければ基本的に無害ということもあって冒険者からすれば比較的好意的な存在ではあった。
普通に歩いていればぶつかる心配もないくらい目立つからな。こいつら。
「美味しいよ? ほら!」
「おお……」
投げ渡されたそれはとても綺麗に採取されていた。
その証拠に果実に浮かんでいた顔はなく、ただのカラフルなフルーツになっている。
これが変に力を加えたり無理やり回収したものだと、あの怒りの形相がこびりついた食べにくいものになるわけだ。それでもまあ、美味しいから需要はあるんだけど。
「で、いくつ必要なんだっけ?」
「そっちの採取方法なら三つで十分だと思うけど……ってもう十分すぎるな」
ビレナの両脇にはすでに十近くのきれいな状態の果実が抱えられていた。
「美味しいからたくさん採っておこうと思ってー」
その言葉通りビレナはガンガン採取を続けていた。クエスト関係なく食べたいから採ってるだけだなコレ。
よし、俺の昇進のためなんだから、クエスト納品分の三つくらいは自分で頑張るか。
「にしてもこの辺はやっぱ多いんだな」
「うん。多分気をつけないと、いるよ」
「ああ……」
ビレナが言うのは変異種のことだろう。
一説によれば数百から千個に一つくらいの確率で生まれる可能性があるのが変異種だ。要するにこれだけの数の爆発果実がいる還らずの草原から入れるこの森は、それだけ変異種と出会う危険性が高いということだ。
初心者向けエリアで爆発果実が大量発生した場合、Cランクの上位やBランクが駆り出されることになるほどには危険も伴う相手だ。
あれ、そう考えると大丈夫かこれ……? ここは今まんまその状況じゃないか……。
「キュルケちゃんとカゲロウちゃんにしっかり守ってもらってね」
「きゅっ!」
「キュクー!」
俺よりやる気の二匹に引き連れられて行く情けない構図ではあるが、まぁテイマーってこういうものだし良いと思うしかないだろう。
完璧ではない精霊憑依なので形だけではあるがカゲロウを身にまとい、キュルケを先行させる形で木々の中に押し入っていく。あまりないとはいえ、気をつけていないと地面に転がっている爆発果実は踏めば爆発する。
死にはしなくても怪我はするんだ。ポーションもただじゃないし、無駄なことはしないように行こう。