リントの特訓③
「じゃ、リントくん。『精霊憑依』、してみよっか」
「やれるかなぁ……」
どうしても『竜の巣』でコントロールしきれなかった思い出が頭をよぎる。
こんな場所でいきなり実戦ということに不安を覚えていた。
「大丈夫大丈夫。リントくんはカゲロウをまとって戦うんだから! 実質Sランクだよ!」
そういう問題ではないんだけどな……。
無茶苦茶な理論だが還らずの草原でやっていくには確かに、それにすがるしかないのも事実だった。
「ま、とにかくカゲロウちゃんにお願いしてみよー!」
「わかった。おいで」
カゲロウへ呼び掛け、精霊憑依を行った。
呼びかけに応じたカゲロウは俺の周囲へ炎の鎧となって現れ、全身をその炎で包み込む。ビレナが言っていたとおり魔力が炎の形をしているだけなので熱くはない。ただカゲロウの力が俺の中に流れ込んできて、ありえないほどの力が全身に漲るのを感じるだけだ。
「キュクー!」
カゲロウが俺の肩あたりから顔だけだして甘えてくるので撫でてやる。
このあたりどういうつくりになっているのかまったくわからなかった。
ま、意思の疎通が図れる上にしっかり守ってくれているから別にいいか。
「その状態ならドワーフデスワームくらいなら、襲ってきてもリントくんが怪我しないどころか多分相手が燃えてなくなるから」
「恐ろしすぎるだろ……」
その状態でどうやって弱い獣や魔物をおびき寄せればいいんだ……。
「昨日全くコントロールできなかった力を調整する練習には丁度いいでしょ?」
「それはそうかもしれない……?」
ただ走ろうとしたら飛んでいくような状況から調整できるんだろうか……?
「ま、とにかく採取もあるしさ、やっていこー!」
なにはともあれテンションの高いビレナに引っ張られるように、クエスト攻略が始まった。
「採集品を整理しながらいかなきゃだな」
「うんうん。お、普通に歩けるようになったんだ?」
「不思議なことにな」
ミニカゲロウが得意げに俺の回りを飛び回っているので撫でておく。
つまりそういうことなんだろう。気の利く従魔だった。
「すごいねー。テイマーってそんなにすぐ懐かれるようなこと、ないよね?」
「いや、カゲロウがいいやつで、俺が気を使わせてしまってる駄目な主人って感じだと思う」
ちなみに俺がおぼつかない様子を見てキュルケはいつもより気合を入れて周囲を巡回してくれていた。本当に恵まれてるなあ。
「それがリントくんの力だね」
「いやいや、こいつらの力だろ?」
「ふふ。ま、とにかく行こー!」
「ちょ、ちょっと引っ張られると流石にコントロールできないって!」
ビレナに振り回されるのをなんとか堪えて耐えてという共同作業をカゲロウとこなす。
カゲロウが必死に俺に合わせてくれるのがわかるが、それでも地を蹴った瞬間にビレナごと吹き飛んでいきそうになったり、地面に大穴を開けてしまったりととんでもないことになっていた。
その度ビレナが無理やり俺を引っ張って引きずっていく。これ俺、ビレナがいなかったらどこに吹き飛んでいたんだろう……。
「とうちゃーく!」
「死ぬかと思った……」
辺りを見渡すと、いつの間にか還らずの草原と奥の森との境目まで来ていた。
「にゃはは。お疲れ様ー!」
隣に顔を出すミニカゲロウも舌を出してはぁはぁしていた。
元気なのはある意味一番体力を使っていたはずのビレナだけだった。不思議だ……。