リントの特訓②
「すっかり懐いてるねー。さすがテイマー!」
「こいつが特別いいやつだったと思うけどな」
不思議なことにギルもカゲロウも、テイムしたときにはすでにこうして懐いてくれていた。
ギルがそうなった理由はわからないでもない。│天敵に殺されかけていたところに助け舟を出した形になったからな……。
だがカゲロウまでそうなったのは意外だった。
ビレナは俺のテイムのおかげと言うが、特別なにかしたわけじゃないことを考えると、たまたまこの子との相性が良かったんだと思う。
例えば狼に近いことを考えると、群れの上下関係に厳しく、一度負けた相手には服従しやすい性質を持っていた、とか。そういう理由でこうなったんじゃないかと考えていた。
「これだとすぐ精霊憑依も使いこなせそうだね」
「あれをまたやらないといけないのか……」
強くなれるのはわかる。ワクワクしてくる気持ちもある。
だが一方で、Dランクの俺が│こんなところ(推奨ランクBの土地)で歩くことさえ満足にできない無防備な状況になることに抵抗があった。
「キュクク!」
「お前はやる気満々だな……」
「キュクー!」
楽しそうに鳴いて俺の前で意味もなくはしゃぎまわるカゲロウ。
その姿は本当に犬にしか見えず、まさかこれが危険度Sの魔物とは誰も思えないほどのはしゃぎっぷりだった。
つられたようにギルが身を乗り出してくるが、ビレナがそれを制していた。
「ギルちゃんはちょっと空から見守っててほしいな?」
「グルル……」
心なしか寂しそうな声を出すギル。
「ギルちゃんも力をコントロールする手段はあるけど、│リントくん(ご主人様)の危機にいち早く駆けつけてあげてほしいから」
なるほど、うまいこと言ったな。まあたしかにギルが上空から見守ってくれるのはかなり心強かった。
「グルウゥァアアアアアアアア」
ビレナの声にやる気を出したギルは、すぐさまその巨大な翼をはためかせて上空へ飛び立っていった。
単純で可愛いやつだが、ギルは竜の中では幼い部類だから仕方ないだろう。
「さて、じゃあやろっか!」
「えっと、薬草採取と、魔物種の排除と……│爆発果実の採取……」
「あとトカゲとか細かい採集品もここでいけるよー」
「すごいな……」
この還らずの草原だけで今回受けたクエストの八割近くが完了することになっていた。
本来なら東西南北様々な森や川を練り歩く必要があるものが一点に集中している。そう考えればもっと賑わっていてもよさそうなものなのだが、そうなっていないのには理由がある。
「気をつけないといけないのはドワーフデスワームくらいだから」
「見つかったら死ぬってやつだよなあ……」
「見つけたらテイムしちゃおうね!」
「無茶言うな」
ドワーフデスワーム。先程ビレナが片手で叩きつぶしたワームの親みたいな個体であり、この草原が還らずの草原と呼ばれている所以だ。
急襲を受け、土中に連れ込まれたら終わり。骨も残らず人知れず生涯を終えることになる恐ろしい相手だ。
一方で、地中から引きずりだしさえすれば対応はそんなに難しい相手ではないと聞く。
トータルしてBランク以上であれば対応できるだろうということでここの推奨ランクはBになっているわけだ。
特にいい素材が取れるというわけでもないのに危険度だけがBランクのこの草原にあえて来ようという冒険者はほとんどいない。ましてやCランクの依頼のためにこんなところに来るなんて、ビレナ以外考えもしないのではないだろうか。