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地下水道の調査依頼⑦



「もちろん死んでやる気はないけどな! 行くぞキュルケ!」

「きゅー!」


 カインの切り替えは非常に早かった。

 すでにヒーラーの回復はシーフに注いでいたようで、動き出せるようになったシーフはすぐにこの場を離脱する。


「グルゥアアアアアア!」


 この場を離れようとする()に怒りを露わにするクイーンウルフだが――


「行かせない!」

「きゅー!」


 クイーンウルフの出鼻をくじくように、剣を、炎を、そしてキュルケの一撃をお見舞いしていく。


「よし」


 武闘家の男を背中にくくりつけたカインが立ち上がる。


「すぐに応援は向かわせるから! 死なないで……!」

「ああ!」


 カインとともにヒーラーが立ち上がる。


「ホーリープロテクト!」

「おお……!」

「こんなことしかできませんが……どうかご武運を!」


 俺の防御力を一時的に上げるバフをかけてから、ヒーラーもカインとともに立ち去る。

 獲物を逃すまいとクイーンウルフの注意が逸れたタイミングで頭部を狙って剣を叩きつける。


「ギュアアアアアア」

「くっ⁉ 硬い……!」


 器用に牙で剣を弾かれ、また距離が開いた。

 完全にカイン達がクイーンウルフ射程外に消えたことを確認し、改めて対峙する。


「さて、選択を間違えたら、死ぬな……」

「きゅきゅっ」


 気を引き締め直す。当然だが、クイーンウルフを相手にテイムなどできるはずもない。

 そして、俺の手持ちの手札で相手を倒すこともまた、不可能だった。体力勝負になればこちらが明らかに不利だ。


「となるともう、どうにかして時間を稼いで逃げるしかないな……」


 持っているマジックアイテムを頭の中で確認する。

 ファイア程度で再び動きが止まることは、クイーンウルフの知能を考えるともう期待できない。

 となるとほかの手立てということになるが……。


「こんなことならもう少し色々買っておくべきだったか……?」


 いや、嘆いても仕方ない。今の手持ちは火の初級スキルだけ。

 これをつないで、なんとか逃げる時間を稼ぐしかない。


「行くぞ……キュルケ」

「きゅきゅ!」


 クイーンウルは俺が動かない限りは、こちらの様子を慎重に伺うようにじっとしていた。

 だがいつまでもその硬直状態が続くとは思えない。まっすぐ逃げても百パーセント追いつかれる。


「なら、打てる手をうつしかない!」


 未だ動かないクイーンウルフへ向け、スクロールを駆使してファイアーボールを投げ込んだ。

 これまでのファイアよりも大きな魔法。ファイアと違って一発でスクロールがだめになるが仕方ない。

 そしてこれが意外なことに、相手にとっては思わぬ反撃だったらしい。身を翻してその攻撃を避けると、距離をとってまた静止した。これまでで最も距離が開いた瞬間だった。


「よし!」


 その隙に畳み掛けるようにファイアーボールをお見舞いする。

 もう持っているスクロール全てを起動させ、出来得る限りクイーンウルフがこちらへ近づかないよう炎を壁のように浴びせて退却を開始した。

 ファイアーボールで稼いだ距離。その距離が、この炎の壁で保たれている間になんとか逃げ切ることができれば俺の勝ち。

 これはそういう勝負だった。


 だが――


「嘘だろ……」


 クイーンウルフは、すでに炎の壁を乗り越えて目の前に迫りきていた。


「ごめんな、キュルケ」


 最後に浮かんだ言葉は、キュルケへの謝罪だった。こんな事に巻き込まれていなければ、もっと長生きできたかもしれない……。

 恨まれてもおかしくないというのに、最後の瞬間、キュルケは俺を守るようにクイーンウルフとの間に立って俺をかばってくれていた。だがそんな程度では、当然ながら危険度Bランクの上位の魔物の攻撃が凌げないことは、俺もキュルケもよく理解している。

 静かに、全てを受け入れ、目をつむって終わりの時を待った。


 だがその終わりのときは、一向に訪れることはなかった。



次回でこの小話はラストです!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 小話(ショートストーリー)という長さではない件について…… 本編の内容がすっかり頭から抜けてしまったので、また読み直しから始めないと……
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