地下水道の調査依頼⑤
自分の感覚を信じて嫌な気配をたどるように迷路のような地下道を進んでいく。
次第に整備された下水道から離れ、ただの天然の洞窟になってくるが、一応クエストではすべてのエリアが調査対象ではある。
通常なら重要な下水道部分の異変こそ価値が高いのでそこを外れないように動くが、こうなればもうそんなもの、関係がなかった。
「どんどん気配が濃くなるな……」
「きゅー」
少し不安げにキュルケが応える。軽く撫でてやるとやる気を取り戻したようで、積極的に索敵をするために前方に飛び立っていった。
「ここからは慎重に行くぞ」
「きゅ」
万が一好戦的な魔物であれば、見つかった瞬間に俺たちは終わるだろう。
そのくらい、この気配の主は隔絶した力を感じさせた。
そうならないように、どこで出会ってもすぐに逃げられるように準備を整えながら進む。
「道をそれるとこれが面倒だな……」
灯りがない洞窟で動くために光を放つマジックアイテムをつかう。
消耗品のくせにそこそこ値がはるこいつは、しがないDランクテイマーにとっては馬鹿にならない出費ではあった。
いまはそんなことも言ってはいられない状況なので使うが……。
「よし。行くぞ」
「きゅー!」
次の瞬間だった。一瞬の気の緩みを突かれた。
「キュルケ⁉」
「きゅきゅー⁉」
目の前でキュルケの姿がブレて消えた。
吹き飛ばされたように見えたが、それすらもよくわからないスピードだった。
キュルケが生きていることだけは伝わってくるが、その状況はわからない……。俺の持ってるポーションで治せる範囲であることを祈った。
「くそ……」
キュルケが吹き飛ばされた方向へ走る。
当然正体不明の魔物は俺を狙ってくるものと思っていたが、別のところに狙いを定めていた。
「はぁ……はぁ……もう……回復が追いつきません」
あれは……。
カインのパーティーのヒーラー?
ということは……。
「カイン!」
「リントくん⁉ ここはだめだ。早く逃げてくれ!」
カインの後ろにはすでにシーフと武闘家の仲間が横たわっている。よく見えないがカインが守っているということは死んではいないんだろう。
「一体何と……」
戦っているんだと尋ねようとして、ようやくその姿を視界に捉えた。
同時に一瞬、息が止まった。
「クイーンウルフ⁉」
危険度Bランク、その中でも上位の魔物だ。
こんなところで出会っていい相手じゃない。半壊したCランクパーティーが戦える相手ではなかった。
「俺たちじゃあ時間稼ぎもできない。早く逃げて応援をって……どうして」
倒れていた仲間たちにポーションを飲ませる。ヒーラーは無事のようだが見る限り唯一戦えるカインへ回復を優先していた。こんなポーションでもないよりましだろう。
「キュルケ!」
「きゅー……」
キュルケの無事は従魔とのつながりでわかる。ふらふらとこちらに戻ってきたキュルケにもポーションを与えた。
「悪い。足手まといが増えて……」
「いいや……こちらこそ巻き込んですまない……」
俺が逃げるわけに行かなかった理由を瞬時に察してくれた。テイマーが従魔をおいて逃げるわけにはいかない。
本当は様子を見て状況によっては応援を呼びに戻ることや、なけなしのスクロールで隙くらい作れないかと思って来たのだが……。実際には気を抜いて先手を取られた。
こうなるともう、俺もこの場からは逃れられなかった。
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