103 幕開け
「だめかー。じゃあ直接いっちゃうね!」
「おいビレナ?!」
もうちょっと慎重に、と言おうとしたときにはすでに、ビレナの拳は現れたエルフの男の眼前へ迫っていた。
当たる。だが効くかどうか。
そう思って眺めていたのだが、ビレナの拳はエルフの手のひらにガッチリと掴まれる形でガードされ、届くことがなかった。一切目も離していないというのに、いつ動いたのかすらわからない。
男が目を開く。
途端、森中の動物、植物、魔物から精霊まで、ありとあらゆるものたちが震えだすかのような錯覚に襲われるほど、強大なエネルギーが男の身体から溢れ出していた。
「くっ?! なんだこれ!?」
「ご主人さま、大丈夫ですか?」
「ああ、ビレナは!?」
「にゃはは。吹き飛ばされちゃったよー」
殴った右腕を抑えながら吹き飛ばされて戻ってきたビレナ。
すぐにリリィが治療する。
「悔しいけど、あれじゃちょっと手が出せないかも……」
「ビレナがそこまで言うなんてな」
「にゃはは。死ぬほど頑張ったらいけるかもしれないけど、死んじゃうかもしれないし、なによりリントくんたちならいけると思うからねー!」
そう言って笑うビレナ。
『りんと殿。私はともかく、この状態はりんと殿の身体に大きな負担がかかっておりますゆえ、なるべく早く片付けねば』
「そうなのか」
「はい。私がなるべく限界を遅らせますが、数十分が限度です」
リリィも補足してくる。
というかいつの間にかもう加護を受けていたらしい。流石リリィ先生。
「じゃあ早いとこ、やらないといけないわけか。行けるか? カゲロウ」
「キュゥウウオオオオオオオン」
高らかに吠えるカゲロウ。その口からは炎のブレスが放たれている。
そのブレスを圧縮するように、また自身の身体もブレスに合わせるように変化していき、カゲロウが一本の炎の槍になる。
「ありがとな。キュルケ、さっきの攻撃、受けれそうか?」
「きゅっ!」
「無理はするなよ」
カウンター能力は規格外の力を持つに至ったキュルケにかかる期待も大きい。
防御をキュルケに預けられるシーンが増えればその分、俺たちは攻撃に集中できる。
「よし……いくぞ!」
準備の間はじっとこちらを見て動かなかったグランドエルフが、気配を察知したのかこちらに目を向けた。
「っ!」
目が合うだけで圧倒的プレッシャーに押しつぶされそうになるほど強大な存在。
『大丈夫ですりんと殿。我々はいま、あれにも引けを取らぬ強さを有しております』
「ありがと。アオイ」
アオイの言葉でなんとか持ち直す。
よし。いこう。
カゲロウが変化した炎の槍をぐっと握り直し、改めてグランドエルフと対峙する。
「行くぞ……!」
アオイの龍の翼をはためかせ、空を駆けていった。
書籍版の改稿作業を必死に進めてますー
よろしくお願いしますー