「一括払いじゃなくても良いのよ?」
それから一ヶ月。『リーリエ』の身体はすっかり元の調子を取り戻していた。
「私が許可を出したとは言え、
強化値だよりのきつい筋トレ。 聖女の治癒魔法で筋肉痛も即座に回復。 ・・・・ 人為的な超回復、むちゃくちゃだわ」
「何か言いまして?」
「ねえ、レイちゃん。このトレーニング方法って冒険者の間では一般的なの?」
「さあ?」
打ち解けたように見えて、未だ、聖女と魔女の溝は深かった。
「まぁいいか。それより、教えてもらった元の基礎値をみんな上回ったみたいだし、もう退院しても良いかもね」
「本当ですか!?」
『リーリエ』のメンバーがリリーの元へ集う。
「夜の診察で問題無ければ三日後退院ね。荷物をまとめたり、動きの最終確認したりするのに、三日あれば大丈夫だよね」
「はい!」
三日後、修羅場が待っているとは『リーリエ』の四人は思ってもみなかった。
「退院おめでと~、『リーリエ』のみんな~」
リリーが手を叩いて祝福している。
「ありがとうございます、リリー。それでは全員元気になりましたので、
せーの!」
『魔女リリー! 私達を治療してくれてありがとうございます! 三ヶ月間、お世話になりました! おかげさまで元気になりました! 本当に、ありがとうございます!』
この時ばかりは聖女レイもわだかまりを捨て、しっかりとお礼を言っていた。
「おお~、なんか感動するかも~」
「それでは私達はこれで、さようなら」
『リーリエ』の面々は拠点である、王都に帰ろうとドアに向かった。
「ああ、待って待って。渡すのがあるのよ」
リリーは四人を、いつも食事に使っていたテーブルに促す。
「はいこれ」
「請求書? ですか?」
「そ。あなた達の治療費代。三ヶ月分、締めて10億ルルになります」
『1000000000!?』
「ふざけるな!! この腐れ魔女!!」と聖女レイ。
「さすがに冗談が過ぎますね、リリー」と弓聖アリシア。
「うわ~、アハハ、なんか笑けてくる」と勇者アーリヤ。
「ムリ、とてもじゃないけど払えない」と賢者レナ。
「このクソ魔女め!! 命の恩人だからと我慢していれば! 調子に乗るな!!」
『リーリエ』の四人はたいそうご立腹である。そもそも10億なんて大金、いくら勇者パーティーと言えど払える訳がない。
「一括払いじゃなくても良いのよ? 分割払いもやってるし。滞納しない分には金利も要らないよ?」
「例え分割払いでも払える訳ないわ!! 何年掛かると思ってるのよ!! 毎月100万ルル払っても!! えっと」
「83年」
リリーは想定していた質問だったのでさっと答えたが、それがまた、聖女レイの勘に触った。
「この業突魔女!! そんなに長生き!! いえ、そもそも現役でいられる訳ないじゃない!!」
「リリー、さすがに横暴ですよ。最初に高い金額を叩きつけ、なるべく多く治療費を取る、そう言う作戦ですか?
やめましょうよ、いたずらに信頼を失うだけです」
心配してくれるアリシアに対し、リリーはどこ吹く風。
「私は適正価格だと思うけどなぁ」
「リリー、あなたと言う人は」
アリシアがため息をつくと、聖女レイが再び口を開きかけたが、リリーがそれを制した。
「わかりました。では、治療費の内訳を説明しましょう。書くものを用意します」
全員に紙とペンが行き渡ると、リリーが説明を始めた。
「先ず、あなた達を生き返らせるのに使った蘇生薬、これは酷い傷もあったので混ぜ物しました。
蘇生薬1本5000万ルル。
不死薬1本500万ルル。
計、5500万ルル。
それから、あなた達を入れていた壺の中身、薬液の内訳ですが。
ハイポーション100ミリが1000本、計5000万ルル。
ハイマジックポーション100ミリが500本、計2500万ルル。
ハイスタミナポーション100ミリが500本、計2500万ルル。
聖水200ミリが500本、計50万ルル。
この薬液は週に1度総入れ換えを行い、繰り返すこと8回。
ああ、そうだ。最初の分は呪いを発見したのでエリクサーを追加しています。エリクサー1本5000万ルル。
合計、8億5400万ルル。
これに複合蘇生薬の代金を合わせて、計、9億900万ルル。
そこに三ヶ月分の診察料と滞在費を合わせ、締めて10億ルル。
これが10億ルルの内訳。
ポーションの価格は相場通りの筈よ。少なくとも、毎年魔女協会の発表する小売価格と同じ筈。
これでもまだ高い?」
『リーリエ』は揃って言葉を失ってしまった。
たっぷりと呆けたのち、また姦しく口を開き始めた。
「ありえない、蘇生薬が5000万!? オークションなら5倍はしますよ!?」と弓聖アリシア。
「それを言ったら、エリクサーだって相場の半額。いや、そもそもこの2つが人数分揃ってる事のほうがおかしいよ!」と勇者アーリヤ。
「でもそれ以外のポーションは相場通り。あれ? これってもしかして一人分の値段? パーティーなら4倍の40億?」と賢者レナ。
「まさか、こんな治療法があったなんて。
!!!!
私達四人は運が良いと思っていましたが、もしや、この方法なら死者は100パーセント生き返るのでは?」
『リリー!!!!』
「先ず、レナちゃん正解、それは一人辺りの請求額。ちゃんと払ってね。
それから、レイちゃんも正解。
そもそも私からすれば人間のやり方、一か八か蘇生薬を飲ませて回復魔法を掛ける、このやり方のほうが間違ってる。それじゃあ魔法止めたら死んじゃうじゃない。
最後に、蘇生薬とエリクサーね。この2つは魔女しか作れないし、市場にも流してない。だから高くなる。
私は自分で作れるからいっぱい持ってるの。だからと言って、売ったりはしないよ、転売でお金作ろうったってそうはいかない」
「さて、適正な価格だと分かってもらえたかな?」
『リーリエ』の四人は意気消沈し、「必ず払う」「王都で金策する」と言い残し、山を下りて行った。