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「魔女は人間じゃないからね」


「今日からは少しずつ戦闘訓練しても良いかもね。もちろん、様子見しながらだけど」


 『リーリエ』の覚醒から一週間、それまでは散歩や軽い体操くらいしか出来なかったが、遂に激しい運動が許可された。


「食事の量も元に戻ってるし、晩はお肉にしましょうか」


 運動の許可よりも『リーリエ』の歓声が大きい。


「あの、リリー、何処か訓練に適当な場所ありますか?」

「こっちよ」


 リリーは廊下の突き当たり、床の蓋を開け、梯子を下りて行く。


「ここ、収納じゃないんですね」

「あってるよ~、ここは間違いなく収納、と言うか地下室。ほら、あの辺のは予備のポーションだったり、使い勝手の悪い薬だったり」

「使い勝手の悪い薬とは?」

「不死薬とか」

「スゴい! それさえあれば無敵じゃん!」


 勇者アーリヤは大いにはしゃぎ、物欲しそうにリリーを見つめた。


「効果は数分、それに傷付かないわけじゃない。ホントに死なないってだけの薬よ」

「でも、ちょっと無茶できるようになるよね?」


「そうね、致命傷でも死なないからね。

 効果が切れる前に敵を倒して、その後に治療。しかも、効果時間にはばらつきが。

 死なないけど死ぬかもしれない、どお? まだ欲しい?」


 勇者アーリヤは首を振って否定する。


「ホントに使い難いんですね」

「なら、いつ、使う?」

 勇者アーリヤは興味を失ったが、賢者レナは逆に興味を持ったようだ。


「蘇生薬は生き返るだけ、傷を治したりはしない。だから、首と胴が離れちゃってる場合、蘇生薬を使ってもすぐ死んじゃう。

 そんな時に不死薬と混ぜて使うと、一時的に首が離れたまま、生きていられる。

 あとは、効果が切れる前に何とか治療する。

 環境が調ってないと使いづらい、そんな限定的な薬なのよ」


「ほら、薬はいいから。訓練するんでしょ?」

 リリーは面倒を起こされる前に話題を変え、地下室の扉の前に行く。


「封印の間って感じ!」


 扉は太い鎖と南京錠で閉じられているが、リリーが手をかざすと弾けて消えた。魔法的な封印だったようだ。


「今から開けるけど、すぐ入ってね。長く開けると面倒だから」

 リリーが扉を開くと、白い光が溢れ、その中に『リーリエ』が飛び込む。


「うわ~、なんもない! まっ白!」

 そこは、床も壁も天井も白一色の部屋だった。


「私は白部屋(しろへや)って読んでるんだけどね。ここなら暴れても平気。今日は私が見てるけど、明日からは洋太郎か虎太郎に連れて来てもらって」


 四人は返事もそこそこに組み手を始めた。


 アーリヤ、アリシア組は打撃戦が主だ。勇者アーリヤに弓聖アリシアが肉薄するも、接近戦でかなう筈もなく敢えなく投げ跳ばされてしまった。


 一方、レイ、レナ組は身体の動きを確めるようにゆっくり動いていた。 二人は近接戦闘が苦手のようだ。


 リリーは二組の様子を、一つも見逃すまいと真剣に見つめていた。もちろん医者としてである。やましい気持ちはない。



「そろそろお昼が近いから、切り上げて~」

 四人とも汗だくである。ワンピースの生地が身体に張り付いていた。


(思ったより衰えてない? それとも元が化け物じみてる? 聞いてみるか)


「久しぶりに動いてみてどお? いつ頃の感覚に近い?」

「やっぱり身体を動かすのは気持ちいいですね!

 たぶん冒険者に成り立ての頃くらいは動けてると思います。アーリヤはどうです?」

「う~ん、冒険者に成りに、王都に向かってる時くらいかな!」

「『ステータス!』うん、ステータスは機能してる。冒険者として、ステータス魔法刻んでなかったら動けなかったと思う」

「ステータス魔法に感謝ですね」


(なるほど、ステータスの補助ね。たしか、基礎体力にパーセント標示で強化される、だったっけ)


「そのステータスについてだけど、強化度合はどお? 前と一緒?」

 四人とも自身のステータスを確認し、情報をパーティー全員で共有する。

「みんな魔王討伐前より増えてます。討伐前に死んだ私の上昇値が一番低いですが」


「ふむ、筋トレなんかで増えるのは基礎と強化どっち?」

「魔力を持った生き物を殺さない限り、強化値は増えません」

「なら安心して筋トレ出来るわね。それと、元の基礎値は覚えてる? 今の基礎値と合わせてちょっと教えて」


 リリーは渋る四人をから何とか基礎値を聞き出すと、再度アリシアに質問した。


「あなた達の現在の基礎値は平均10前後、これってどれくらいなの?」

「たぶん二歳くらいかと、」

「じゃあ逆に、大人の平均値は?」

「詳しくは分かりませんが、平均が100を越えると肉体労働者として一人前、って聞いた事があります」

「なるほど、確かにあなた達の元の基礎値も100前後だもんね。って事は強化値が凄いのか」


 聖女レイが仲間に警告を発する。


「強化値は教えちゃ駄目よ! 関係ないんですから!」

「私も興味本意で聞いてるんじゃないのよ~、レイちゃん」


 からかうリリーに舌打ちをし、聖女レイは三人を連れて白部屋を出て行く。

 リリーが扉に鍵を掛けていると、弓聖アリシアが戻ってきた。

「ごめんなさい、リリー」

「別に構わないわ。聖女って事は教会の人でしょ? 教会は魔女を目の敵にしてるから、彼女の態度もしょうがないわ」


「・・・・ レイは大司教の娘なんです。だから余計に。同じ人間だと言うのに」

「エルフがそれを言う?」

 リリーが可笑しそうに指摘する。

 ちなみに、弓聖アリシアはエルフであり、勇者アーリヤはドワーフだ。


「いえ、エルフだからこそ、です。同じ種族で争うなんて間違ってます!」

「そお? まぁ、良いじゃない。それに、魔女は人間じゃないからね。

 長年の修行によって人間の軛から解き放たれた存在。それが私たち、魔女。

 ま、大げさに言ってるけど普段意識してるのは、人間の法の代わりに魔女の掟を守る、って事くらい。あぁ、あと、人間との間に子供が出来ない、これくらいかな~」


 アリシアはショックで思考が停止しかけていた。だが、そんな己に気づくと、頬を叩いて戻ってきた。


 そこへリリーが更なる爆弾を投下。


「ちなみに魔女と教会は同じ教義、と言うか、同じ三女神を信仰してるのよ」


「へ!?」


「まぁ、考え方? 解釈? そこが違うの。それがちがうってだけで目の敵にされててね、過去には武力行使された事もあるんだよ~。

 でもその時代に、三女神から神託が下ったの。同じ教義なんだから争っちゃ駄目よ~って。

 教会の奴ら、三女神が魔女を庇ったって解釈をしてね。それから武力行使は無くなったんだけど、よりいっそう目の敵にされてるの。

 おもしろいでしょ? 教会って。

 だから良いのよ、あなたが気にしなくても。いくらむこうが目の敵にしてても、こっちは眼中にないんだから」


 アリシアは再び思考が停止しかけた。


「ほら、置いてくよ~」

「あ! はい、今行きます」

 だが、リリーの言葉に動かされ、彼女の後を追った。


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