「金の匂いがするわ」
ある日、魔女のリリーは麓の村へ、週に一度の回診に向かおうと、山の頂上の家を出た。
山はリリーの魔法で全体が薬草園になっており、歩きやすいように麓の村まで一本道になっている。
今日も「歩くのかったるい」とスケボーで山道を下っていると、目の前に冒険者パーティーが転移してきた。
あわててジャンプで避け、振り返ると、冒険者は四人全員倒れていた。
「大丈夫、私は轢いてない、大丈夫」
リリーは己に言い聞かせ、落ち着きを取り戻す。
「あの~、大丈夫ですか?」
彼女らはピクリとも動かない。
脈を取り、呼吸を確かめ、瞳孔を診る。
「死んでる。たぶん転移の時点で。
・・・・
御愁傷様です。
さ、回診回診」
手を合わせ、立ち去ろうとしたリリーだが、どこか引っかかりを覚える。
(そういえば、全員百合の花を身につけてる・・・・)
「!!! こいつら勇者パーティーの『リーリエ』じゃん!」
(こいつらが死んでここにいるって事は。魔王討伐失敗か! 人類のピンチ! 生き返らせないと! あと、)
「金の匂いがするわ」
リリーは四人を転移で自宅に運ぶと、蘇生に取りかかった。
(先ずは蘇生薬)
蘇生薬とは、不死鳥の羽根や涙石を聖水に漬け、日の入りと月の出の光を集めたポーションの事だ。
ただし、これだけでは生き返らない。使う直前に、蘇生薬を生者の生命力へ触れさせる必要がある。
(うえええ、死体とキッス)
故に、口移しで流し込む。
無事、心臓が動き始めた。
「あぁ、やっぱり。これ、じき死ぬやつ」
傷が酷く、血が止まらない。
(不死薬も使って、と)
「それから、壺!」
大きな壺を4つ、特殊な部屋に用意し、一人ずつ、壺へ入れる。そして中へポーションを。
ハイポーションを1000本、聖水を500本、ハイマジックポーション500本、ハイスタミナポーション500本。
合計、300リットルのポーション漬け。
「これで良し! 後は一週間毎にポーションを入れ換えて、一ヶ月ってとこかな」
ホコリが入らないようにガラスの蓋をして、看護用の人工精霊を作り出す。
虎と羊のぬいぐるみが置いてある。
(器はこれでいいや)
「虎太郎に羊太郎。君たちの任務は彼女らの看護だよ、何か変化があれば直ぐに知らせて」
立ち上がったぬいぐるみ達は、ぬいぬいとうなずく。
「遅れたけど回診行かないと」
「ああ、リリーさん。今日は遅いねぇ、何かあったのかい?」
いつも患者の整理を頼んでいるおばちゃんが、集会所の前で待っていた。
「ちょっと拾いものしてね。そっちは? 変わり無い?」
「ええ、常連さんばかり。みんな健康よ。
早速始めます?」
「ええ、始めましょう」
いつもの患者ばかり故に、診療はどんどん進んで行き、終える頃にはちょうどお昼となった。これもいつも通り。
その後、おばちゃんの家でお昼をあずかり、村の小さな商店に常備薬を卸し、帰路につく。これもいつも通り。
家に帰れば、薬草採取に薬品作り。それに加え、今日からは勇者パーティーの治療も加わる。
そうして、二ヶ月が過ぎた。
「今日でちょうど二ヶ月。やっぱり呪いに気づかなかったのが効いてるな~。まぁ、それにしても、そろそろ起きても良い頃合いなんだけど」
リリーの一人言を聞きつけたかのように、羊太郎が駆け込んできた。
羊太郎は、意志疎通用に持たせた魔力筆記版を差し出す。そこには、
『覚醒!』
の一言。
「さすが私! ぴったり!」
リリーが壺の部屋に飛び込むと、虎太郎も魔力筆記版を掲げる。
『おきたよ!』
虎太郎が壺のひとつをもふもふ叩き、この壺だ、と報せる。
リリーがガラスの蓋を開けると全裸の女性が顔を出した。
「おはよう、ねぼすけ。気分はどお?」
「ここは?」
「ここは、ベス山、魔女リリーの家。私がリリー。あなたは?」
「わたしは、冒険者パーティー『リーリエ』のアリシアです。クラスは弓聖。
そうだ! みんなは!?」
「平気よ、みんな治療中。たぶん、そう遠くないうちに目を覚ますんじゃない?」
「あの、あなたが助けてくれたんですよね、ありがと「ああ良いの良いの、全員揃ってからで。いちいち言われるの鬱陶しいからね。みんな元気になってからで良いのよ」
「それより立てる?」
アリシアは壺の縁に掴まり、ゆっくり立ち上がると、壺から出た。
ぬいぐるみ達はキャッと目をふさいでいるが、彼らは人工精霊。性別はない。
だが、アリシアは彼らを見て恥じらいを思い出し、身体をくねらせ、局部を隠した。
「あの、私の服は、」
「その前に身体洗っといで。その間に着替え用意しておく。
虎太郎、お願い」
ボードには『御意』の二文字。
虎太郎の先導でアリシアは風呂場へ向かった。
(ふむ、弓聖だけあり、胸は控えめ。でもその分お尻は大きい安産型ね。触診つってイタズラしたくなるわ~、しないけど)
「さて、あの子の服はっと。
あぁ、洗ったら破けちゃったんだった、どうしよ」
(彼女が上がる前になんとかしないと。いやもう、正直に言っちゃえ!)
脱衣場からアリシアに声をかける
「アリシア、ごめんなさい。あなたの服凄くボロボロで洗ったら破けちゃったの」
一拍はさみ、アリシアは許してくれた。
「あー、はい、魔王のラッシュ受けちゃって。しょうがないです、大丈夫ですよ」
「ありがとう、アリシア。
代わりに私の手持ちで一番の服をあげるわ、ホントにごめんなさい」
逃げるようにリビングに戻るリリー。
「気に入ってくれるかしら? ってあの服じゃ無理か」
リリーが手持ち無沙汰に淹れたお茶がすっかり冷めた頃、アリシアが風呂から上がってきた。
服は着ておらず、バスタオルで身体を隠している。
「あの、リリー? ふざけてる?」
案の定、アリシア嬢はご立腹である。
「分かる! 分かってる! あなたの言いたい事は。でも聞いて。一番ふざけてるのは、私にその服を押っつけた私の師匠だと思う!
そして、嘘偽りなく、その服は私の手持ちで一番の服よ!」
「でもこれバニースーツ」
「その服にはたくさんのスキルが付いてるの!
気配察知、聴覚強化、聴覚保護、魅了、フォーマル、好運、脚力強化、攻撃力強化、スタミナ強化、縮地、この10個! すごいよね!」
「あの、普通の服貸してください!」
「やっぱりそうなるよね。今持ってくる」
リリーが持ってきたのは、動きやすさだけが取り柄のワンピース。だがアリシアはとても喜んでいた。
(ただのワンピースにあの喜びよう。これはバニースーツが布石になった? 他の三人の服もやっちゃったし、全員この手でいくか)
いつまでも立たせておくわけにもいかない。椅子に座らせ簡単な診察をする。
「体調はどお?」
「少しダルいけど問題ありません」
「痛いところは?」
「ありません」
「ちょっとさわるよ~」
(さあ! お楽しみの時間だ!)
「ふむ、二の腕って前からこんなタプタプ?」
「違います!」
「お腹は? こんな風に指刺さった?」
「ふん! あれ?」
「太ももも柔らかい、おっぱいみたい」
「うそ、でしょ」
「まぁ、しょうがない事ではあるんだけど。
二ヶ月間まったく運動しない事により、あなたの身体弛んじゃってるね。さながら、全身おっぱい!
でも自力でお風呂入れるし、直ぐ戻るわよ」
「全身おっぱい」
衝撃の事実に力が抜けてしまったアリシア。
「鍛え直すのは食事取れるようになってからね。先ずはお茶でも飲んで。舐めるみたいにゆっくりよ?」
たっぷりと時間をかけて、一杯のお茶を飲み干したアリシアは、うとうとし始めた。
リリーが魔法でベッドまで運ぶと、直ぐに寝息が聞こえてくる。
(変な時間に起きられてもあれだし、安眠香でも焚きますか)
ひと息ついたリリーへ、今度は羊太郎がやって来た。
『おきたよ!』
「まさかこのまま立て続けって事はないでしょうね!?」
リリーの嫌な予感はしっかり当たり、彼女らの覚醒はリリーに休む暇を与えなかった。
「あ~! 疲れた!」
(にしても、やっぱり前衛のほうが筋肉量多くてタップタプ。触り心地良いわ~。貧乳勇者は太もも巨乳!)
・・・・
・・・・
「良し! みんな寝てる間に、胸と筋肉の対比を触診するか!」
結局はイタズラするようだ。
医者として最低の行為だが、リリーは魔女である。魔女にとっては、良識よりも好奇心が大事なのだ。




