ふたご座
目が覚めると不思議な世界、なんて、なんてありがちなの?
でもここは、そんなありがちじゃない世界。
頭脳を駆使し、身を守らないと狂気はすぐそこ。
意識が戻る。
自分の体の感覚が次第に明確になる
椅子に腰かけ、頬をぺったりと机につけているようだ。
無理な姿勢だ。眠るのに心地いいとは言えない。
半覚醒状態の頭でそんなことを考えながら、よだれがたれそうな半開きの口を閉じ、
少し痺れの残る頬をぺりぺりと机から引きはがす。
ゆらゆら揺れる重い頭が、耳から入る周りの喧騒を処理し始める。
かなりうるさい騒ぎだ。なんだ?
寝起きの眩しさに顔をしかめながら、思いっきりのびをしようと…
できない。
腕を何かが押さえている。
その感覚に瞬時に頭が覚醒し、視界が開ける。
なんだ…?
天井から下がる大きく豪奢なシャンデリア
左の壁一面に広がる大きな窓は夜なのか何なのか真っ暗で、
その向かい、右側の白い壁には両端に茶色の扉があるみたいだ。
私が突っ伏していた机は同じものがいくつも並び、椅子と共に部屋の内側を向いて輪っか状に置かれている。
そして、その椅子にはそれぞれ人が座っている。一、二、三…
十…十個くらい。つまり十人くらい。
「…って、どこだここ?」
思わず呟いた言葉に、返すように右隣から言葉が投げかけられた。
「おい、お前。大丈夫か?」
右に首を傾けると、フードを被った少年がこちらを見上げている。
「え?あ、あぁ…。あ、いや、大丈夫ではない。腕が…」
そこまで話して思い出す。
腕に目を落とすと、椅子のひじ掛けに括られた金属製の手錠がかかっている。
胴はベルトのようなもので固定され、両足にも金属の枷がついている。
「なん…なんだこれ…?」
まとまらない思考に焦りが混ざるのを感じながら、少年を見る。
少年の誘導するような視線をたどると、彼の体も同じ状態であった。
「ところで、お前、記憶はあるか?」
「は?記憶?」
混乱する頭で記憶を…
「あれ?」
さらに混乱。
「ここにいる奴ら、みんなそんな感じだ。」
そういって少年は、全体を見ろと顎で指図する。
混乱した思考を一旦破棄して、机に座る人々を見渡す。
まだ机に突っ伏す人。
近くのものと話す人。
身をよじり、なんとか拘束から抜け出そうとする人。
もはや意味が分からず、私の思考は止まる。
口を開け、あほ面をさらす私に、少年は呆れた顔を見せる。
「ここにいるのは全部で10人。みんな『ここがどこか』、『自分が誰か』分かっていない。」
まぁ、俺も分かんないんだけどな。そう言って少年は溜息をつき、背もたれに体を沈める。
私はざっと残りの8人を見渡す。
年を喰いすぎた年齢層を除き、どうやら大人から子供までいるようだ。
ガタイのいい奴もひょろりとした奴もいる。
十人十色ってこのことか…
とくだらないことを考えながら、思考を巡らし…
ダメだ。思考がこんがらがる。
考えることは自分には向いていないってことは分かった。
うーむ。状況が全くわからん。
ふと、隣の少年に目をやる。
少年は先の姿勢のまま、目を閉じ、眠っているように見えなくもない。
身長は明らかに私より小さい。
白い腕は、間違いなく私より細い。
しかし…妙に…
絡まる思考に首をかしげていると、一人の男が皆に聞こえる声量で声をあげた。
「誰か、何か気が付いたことはないか?」
それにこたえるように、一人の女が控えめに話す。
「なんとなく…なんですが、この服は私服のような気がします。好みに合いますから。
ですが、この時計は好みじゃないんです。それに…」
女の視線が全員の腕に向けられる。
それに促され、腕を見れば、確かに好みでない銀の時計が付いている。
ちらりと隣に目をやると、少年もこちらの腕を確認している。
「同じ時計か?」
別の男が唸るように話す。
どうやらみなが同じ時計をつけているのは確定の事実のようだ。
見渡せば個性的な服装から平凡な服装まで、センス以外で浮いている服装はなさそうだ。
「まだあるわ。」
別の女が声を上げる。
「机の中、何か入っているの。取れないけどね。」
私の身長だと、この状態で机の中を見ても体が痛いだけだ。
そう判断して隣を見れば、少年は体をよじり、うまく机の中を見ている。
よし、今は彼に任せて、机の中の封筒のことだけ覚えておこう。
皆が机の中に興味を持っていると、突然キィーンと耳をつんざく機械音が響いた。
音は部屋の上部に取り付けられたスピーカーからのようだ。
くっそ…耳が痛いな。
音は次第に小さくなり、ザザッというノイズの後、何者かの声が聞こえた。
「あ、あー。んんっ。諸君。」
ボイスチェンジャーを通したような低い男の声。
私の本能が、こいつは喰えない奴だと告げる。
声の主は軽薄な口調で話し始めた。
「おはよう諸君。気持ちのいい目覚めだったかい?
おっと、自己紹介が遅れたな。私は…私の役割は"GM"だ。それ以上は秘密だ。
さて、君たちには……殺し合いをしてもらう。
…………などと言う事もない。冗談だ。」
「特にないんだ。言うべきことも、指示も。
その部屋の扉は開けよう。ここから先は自由だ。好きに行動してくれて構わない。」
「と、言うだけじゃ、あまりにも進行が遅くなるだろう。だからヒントを二つあげよう。
一階広間から赤い扉の食堂へ向かうといい。
それでは、ハッピーエンドを期待しているよ。」
ブツッ…
扉からガチャリとロックが外れる音と共に体の拘束具も外れる。
とりあえず先ほどできなかった伸びを思いっきりする。
地味に手が痺れているが、どうするか…
ぐるりと回りを見渡すと、またもや十人十色。
あっちゃこっちゃ動いている。
とりあえず封筒を確認。
お洒落な白い封筒には、招待状のようなこ洒落た厚紙。
『【カストル】U-騎士』
なんだかかっこいい言葉が書かれている。
「おい、なんて書いてあったんだ。」
隣の少年が聞いてくる。
「あぁ、よくわからないが、U-騎士?とかって。」
そのまま紙を見せる。
少年はふぅん、なるほど。と言って、ぱっと自分のカードを見せる。
『【ポルクス】T-騎士』
「ん?騎士って同じだな。でも、全く一緒って訳でもないなら、
この一部をもじってとりあえずの名前としよう!!」
我ながらいい案だ。
「というわけで、私はユーだ。お前はティーだな!!
よろしくな!ティー!!」
ティーはかなり無愛想だ。ぶっきら棒だし、口も悪い気がする。
でも不思議といら立ちは起きない。
彼がこの状況を少し怖そうにしているからなのか、話していてとても安心する。
「あぁ、まぁ、ティーでいいか。」
そうぼやく少年をよそに、とりあえず周囲を見渡し、幼そうな少年…いや、少女か?
まぁいっか。話しかける。
「ねぇ、君はなんて書いてあったの?」
その子は私を見上げると、怯えた顔で招待状をみせてくれた。
そこには何も書いていない。
「皆さん何か書いているみたいで、私だけ…」
不安そうで今にも泣きだしそうなので、とりあえず名前を決めよう。
「私は自分の名前、ユーってことにしたんだ。
君は招待状に何も書いてないし、うーん…
嫌じゃなければクゥって呼んでもいいかな?」
何もない空白の招待状。つまり空。くぅ。
私の名前のセンスばっちりだ。
クゥはコクコクとうなずいてくれる。
かわいい。
再び視線を上げると、自由気ままな皆様方。
名前を聞きあっているもの、傍観しているもの、扉を気にしているもの。
とりあえずもう一人の幼い少年…はなんか大人と話してんな。
後でいいか。
適当に近くにいたヤンキーっぽいのに声をかける。
「あんたはなんて書いてあったんだ?」
「俺はエルとでも呼んでくれ。」
こいつぶっきらぼうだな。腹立つぅ…
次は…私より小さいが、少し年上といったお姉さんに話かける。
「あの、あなたはなんて書いてありましたか?」
「私はジェーと書いてありました。」
「ジェー?んじゃ、ジェーンって呼ぶな!私はユーだから、よろしく!」
そんなこんなしていれば、眼鏡をかけた女の子がとっとと扉を開けて出ていこうとしている。
あれ、名前聞きたいんだけどな…
とりあえず食堂だっけ、そこに行こう。食事は大切だもんな。
当たり前のように一緒のティーと、くぅ。
先に出たやつらは知らんが、少し後ろには自分勝手でやばそうなやつらが歩いている。
とりあえず震えてるティーは守らなきゃな!!
廊下はちょっとわかりにくいが、前のやつらの雰囲気をたどって食堂につく。
途中に星座の絵が掛かっていて、くぅが何座だとか言ってた気がするけど忘れた。
食堂では先発組と三人の可愛らしいメイドが話していた。
ん?私ら以外にも人がいるのか。
それに、壁には大きな地図が掛かっている。
広い。広いなぁ…ん?
ティーを振り向けば、何やらカードをいじっている。
「なんだそれ?」
近づくとティーはそれぞれAとOと書かれたカードをもてあそび、ふとそれを腕の時計に翳す。
ぴろん
その音と共に、すげぇ…と感嘆・興奮等の感情が彼の顔に読み取れる。怯えていたティーがそれを忘れて興奮するもの…?興味が湧く。
「それ、私もやる!」
そうしてティーからカードを貰い、時計に翳す。
ぴろん
頭に流れるAとOの情報。
あぁ…?この感覚…
内容は内容で面白い。だが…
そうしてティーを見れば、彼は悪戯っ子のようにニヤリと笑う。
先程の情報のように頭に流れる封筒のイメージ。
あぁ…そうだ。私は机の中身を…
自分の頭の空っぽさに呆れながら、安心する。
よし。これなら。
ティーと私ならあっという間だな!
そう思い、するりと食堂を抜け出すティーについて…
「お前は別だ。」
っ!?なぜっ!?
ティーからの拒絶。これは…ダ
「これはゲーム。そうだろ?」
あっ…なるほど。
締め付けられるような胸の傷みから解放される。と、途端に沸き上がる闘争心。
「分かった!勝負だな!」
何故かティーについていく眼鏡さんを見送り、私は考える。
ゲームか…アイツには負けたくない…
よし!とりあえずゲームといえばパーティーだな!
動きやすく二人か三人…
信用出来なくてもいい、とにかく全員が動き出す前にとっとと…
ぱっと回りを見ると、順繰りに回されるカードを持っているのはくぅだ。カードは回され、その内Oのカードは黒ずんできているようだ。
くぅは何人かに囲まれて、かなり怯えている。うぅ〜ん…
助けたいのは山々だが、難しいことは無理だ。
色々考えて話してるうちにこんがらがって来た。
なんやかんやで一緒に捜索する事になったしっかりした男の子。
まぁなんでもいいや。ティーに勝てればな!
食堂から出る。この屋敷?めちゃめちゃ広いな…
連載したい、動画にしたい。
でもセッションから時間もたったし、内容も記録してない…