第一章②
放課後、タイコは図書室に行き、窓際のいつもの席に座り、イヤホンで耳を塞ぎ、宿題をやり始めた。お気に入りのロック・ミュージックを聞きながら宿題をするのがタイコの日課だった。自宅のマンションに帰っても誰もいない。寂しい気持ちになってしまうから、図書室のちょっとした人気のある感じが宿題をするのにうってつけなのだ。今日はビートルズのホワイト・アルバムを聞きながら数学と英語の簡単な宿題を三十分ほどで滞りなく終わらせた。教科書とノートとペンケースをカリマのリュックにきちんと仕舞い、タイコは席を立ち書棚の物色を始める。適当に手に取った文芸書の文節を適当に眺めていく。
あなたの血を、血と呼ぶには赤すぎるから。
そんな一説を見つけたのは名前の聞いたことのない人物の詩集だった。タイコはその一説に少しドキリとしてしまう。理由はよく分からないけれど、胸騒ぎのようなものを感じてその詩集をすぐに書棚に戻し、タイトルを再び確かめることもなく、何かから逃げるようにその場を去った。嫌な感じだ。なんとなく、太陽を掴んでしまった夢を見た時と感じが似ている。この説明の付かない謎の胸騒ぎは太陽を掴んでしまった夢のしわざなのだと思う。タイコはウォークマンのボリュームを上げた。
オブラディ・オブラダは魔法の呪文。