第二章④
「すごいね、タイちゃん、」軽音楽部の三人が下車するとカナミは目を丸くしてタイコのことを誉めた。「どうしちゃったの?」
「どうしちゃったって、」タイコは自分の頬を両手で包んで熱を感じる。「どうしちゃったんだろう?」
なぜか今日は。
迷わなかった。
勇気があった。
傍観者ではなかった。
少し熱っぽい。
発熱している。それが少し冷めてきて、今は心地いいと感じてる。
「機関車みたいだった、」カナミは電車ごっこしているみたいに体の脇で両腕を前後に回転させている。「しゅっしゅ、ぽっぽー」
「機関車?」カナミを横目で見て、タイコは笑う。
「情熱が煮えたぎるままに走っていたみたい、機関車みたいに」
「うん、」機関車みたいに、石炭を放り込んだら、タイコは動き出していた。真っ直ぐに敷かれたレールがそこにあって、そのままに動き出していた。「そんな感じ、かも」
タイコはバスの運転手に軽音楽部の三人が乗り込むまで待って欲しいと叫んだ。「待ってください! まだ乗る人たちがいます!」
地方のバスの運転手は一度閉めかけた扉を再び開けた。息を切らせた三人を乗せて銀色のバスは悠長に走り出す。
「はあ、よかった、間に合って」
走ったせいで肩で大きく息をしている軽音楽部の三人はバスの後ろの方に座った。タイコたちもバスの後ろの方の二人掛けの席に座っていた。今日はカナミが窓側に座りタイコが通路側に座っていた。振り向けば斜め後ろの座席に彼らが座っている。そしていつも通りリーダーを中心に軽妙な話をしている。タイコは「あの、」と話しかけた。タイミングとか、何も考えず、心のままに。変に思われたっていい。今日のタイコには動くための、斜め後ろに振り返って口を開くための、勇気があった。「そのバンド、私も好きです、ブリッジン・フォ・ニュウとか、凄く好きで」
最初は訝しげな眼差しを向けていた三人だったが、タイコが自らを曝け出すように一生懸命に、ロックンロールについて話していくにつれ、彼らは笑顔を向けてくれた。リーダーは気さくにタイコと喋ってくれた。彼らが下車するまで、とても短い時間だったけれど、楽しかった。凄くドキドキした。顔は赤くなっていたと思う。
「とにかく、君がロックンロール・マニアだっていうことは分かった、僕らのことを割にいいロックンロールをやるだなんて評価してくれるんだ、いい耳持ってるよ、なら来るでしょ、」とリーダーはタイコに一枚のビラを渡した。「土曜日のイベントに出るんだ、駅前のクラブ・ソレイユで」
タイコは大きく頷いてビラをまじまじと見た。彼らのバンドの名前はザ・トレイン。