自殺者のシェアハウス
水本が自殺者たちのシェアハウスだと呼んでいたところは、なんの変哲もない一軒家だった。
水本は制服のポケットから鍵を取り出し、慣れた手つきで扉に差し込んで回した。
まるでここにずっと昔から住んでいるかのようだった。
「ただいま」
広い玄関には様々な種類の靴が揃えられていた。
高価そうな革靴からクロックスまで。
一体何人の自殺予定者が集まっているのだろうか。
廊下を歩いた突き当たりの扉を開くとリビングに繋がっていた。
そこに置かれていた一人用のソファに中年の男が座っていた。
男はこざっぱりとした格好で、立ち振る舞いから堅気の人間ではないような気配がした。
「おう、おかえり」
男はジッと僕の方を見た。
その眼力の前では蛇に睨まれた蛙のように、僕はじっとりと汗をかき、指先一つ動かさなかった。
僕の中の何かがそうさせた。
この男は危ない。
「立川さん、紹介します。クラスメイトの萩原宗介くんです」
男の名前は立川という名前らしい。
「君が萩原くんか。立川源だ。よろしく」
立川さんが立ち上がって握手を求めてきた。
僕は掌に溜まった汗をズボンで拭き取り、握手をしようと手を伸ばした。
手が触れ合った瞬間、強い力で引っ張られて僕の体は前のめりになった。
立川さんは僕を受け止める形でそっと顔を近づけて、僕だけに聞こえる声でこう言った。
「……殺せるのは、生きてるうちだけだぜ」