クロックワイズ、クロックワイズ
狭霧とスモッグの粒子が漂う、都の景観は、狭い窓から眺めるにはあまりに窮屈だ。
狭霧の狭間からバラックのような集落と、人の連なる巨大な工場が見える。
時間だと重い腰を上げれば、軋む椅子の音と、喘ぐ床の音。傾いた視線を伸ばし、シルクハットと杖を取り、コートにはハンカチーフを入れる。
川縁の街並みを流れる人と馬車の群れを尻目に、工場の方へと歩いていく。スモッグにやられた人たちが目を瞬かせ、通り過ぎていく。
工場の前を通りかかると、こどもの悲鳴と鞭打つ音がする。馬の鼻に吊るされた人参は細かく刻んで団子にする。手先の器用な娘たちは淡々と仕事をこなす。紡績機は粛々と糸を巻き上げる。
工場の裏に行くと、人集りがあった。覗き込めば、紡績機の前で騒動を起こす人が取り押さえられている。職人達から職を取り上げれば、そこには人しか残らないのか。
ふと見下ろした先には、淀んだテムズ川が唸り声を上げる。水面はどろどろと黒いものを流し、光を反射して虹色に輝く。
垂れ流された淀みの源流は工場の排水口である。振り返れば、工場はどくどくと淀みを垂れ流す。
先程の子供の悲鳴も止んだ。子供の悲鳴も、煤煙も、排水も、全てはテムズの淀みと消える。
クロックワイズ、クロックワイズ。今日も予定通り。