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北の魔王、恋をする  作者: 阿南宙
第2章 ー 北の魔王の秘め事 ー
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アグリ編 3話 「初めてのお友達ができました。」




 魔王に捧げられる供物として、贄に選ばれ、村の皆の為に死ぬ。

 そう思っていた私が迎え入れられたのは、『魔王の庭』と呼ばれる、大きな村でした。

 私の為に小屋が丸々一つ与えられて、更には食事まで用意して頂いています。


「あ、ありがとうございます。」


 土で出来た体を持った魔族(ゴーレム、という方のようです)が、毎日朝昼晩と食事を運んできてくれます。毎日、お礼を言うのですがお返事は貰えません。言葉が通じていないのでしょうか。昼食を運んできて下さったゴーレムさんは黙って出て行ってしまうので、畏まりつつ、私は「いただきます。」の言葉と共に食事を戴きます。

 パンにスープ、サラダに何かのお肉? どれもとても美味しいです。


「……ヨヨの村に居た時よりも贅沢しているかも。」


 何だか、こんな私にここまで良くしてくれる魔王さんに申し訳なく思ったり、お爺さんとお婆さんにも美味しいものを食べさせてあげたいなと思ったり、そういえばお爺さんもお婆さんも元気にしているのかなと思ったり、色々と考えながらも、自然と手は動いて、食事はあっという間になくなってしまいました。

 あとは勝手にゴーレムさんが、食事の終わり頃に食器を回収しにきてくださいます。

 私は椅子に腰掛けて、じっとゴーレムさんが来るのを待っていました。


 コン、コン、と。ドアをノックする音が聞こえます。

 私はそこで「あれ?」と思いました。

 いつもなら、ゴーレムさんは無言でドアを開け、とっとと食器を持っていってしまいます。ドアをノックする事がないのです。

 私は不思議に思いながらも、ドアに近付き、ドアを開きました。


「よう。」

「……はえ?」


 思わずきょとんとしてしまいました。

 ドアの前に居たのはゴーレムさんではなく、ヒュマの女性でした。

 少し目付きが鋭くて怖そうですが、綺麗な金色の髪に、すらっとした体つき、しゅっとした感じの綺麗な人でした。

 私以外の贄の方でしょうか。どうしたのだろうと困っていると、女性はぼそりと不機嫌そうな声を出しました。


「どうして出てこないんだよ。」

「出てこない? えっと……。」

「どうしてずっと小屋に引き籠もってるんだよって言ってるんだよ。」


 小屋に引き籠もっているのは何故か。と聞かれていたと理解して、私は少し恐縮しながら答えました。


「か、勝手に出て良いんですか?」

「はあ? お前、アクアから好きにしろって言われなかったのか?」

「えっと、言われましたけど……。」


 私は言いつけを思い出しつつ、答えました。


「『ここから出るな』って。」

「……いや、『ここ』って小屋の事じゃねーよ? 『魔王の庭』からって事だぞ?」

「あれ? そうなんですか?」

「いや、お前ここ来た時に外を普通に歩いてるやつら見てないのか?」

「あ、そ、そういえば……。」


 見ました。アクアさんにご挨拶しているのもしっかりと聞きました。

 うっかりです。勘違いしていました。

 女性は私のうっかりに気付いて、「はぁ~。」と深く溜め息をつきました。

 何か怒らせてしまったのでしょうか?


「あ、あの……何かすみません。」

「……いや、怒ってねぇけど! 何だよ、ずっと出てこねぇからどっか悪いのかと……ああ、もう、心配かけんな!」

「す、すみません!」

「だから、謝るなって!」


 どうやら心配をお掛けしたようです。

 女性は「入るぞ。」と小屋に入ってきます。私は食器を一旦端に避け、椅子を用意しました。

 どかっと椅子に腰掛けて、女性はむすっとした表情のまま、私にも座るように促します。


「あたしはバレリノ。あんたと同じ贄に選ばれたヒュマだ。元は踊り子をやってた。」

「あ、私はアグリと申します。ヨヨの村で畑を耕していました。よろしくお願いしますバレリノさん。」


 女性はバレリノさんというそうです。


「『さん』はいらねぇ。バレリノって呼べ。」

「え?」

「歳もそう離れてねぇだろ。もっと気安い感じでいい。」

「え、えっと。あの。ありがとうございます、バレリノさ……バレリノ。」

「おう。」


 バレリノ。呼び捨てで呼ぶと、初めてバレリノは気難しそうな表情を解いて、にかっと笑いました。

 少し緊張していましたが、その笑顔を見て、私もふっと肩の力が抜けました。


「しかし、よくこんな窮屈な場所で籠もってられたな。息詰まって仕方が無いだろ。」

「えっと、言いつけでしたので。いや、言いつけっていうのも勘違いだったんですけど。」

「馬鹿正直というか、ただの馬鹿というか……。」

「あ、あはは。」


 返す言葉もありません。


「ま、良かったよ。変な誤解は解けた訳だ。これからは仲良くやろう。」

「へ? 仲良く?」


 バレリノの言葉を聞き返すと、「あ?」と目付きを悪くされました。いちいち怖いです。


「……いちいち怯えるなよ。同じヒュマで、同じ贄に選ばれたよしみ……ってぇとちょいと違うか。今後同じ庭の中で暮らす仲だ。友達として仲良くやってこうってだけだよ。何か文句あるか!?」

「も、文句ないです!」


 絶対に怒っています。

 しかし、友達とは……。


「私なんかでいいんでしょうか? 友達なんて。」


 そんな私の疑問に対して、何を感じ取ったのか。バレリノはつり上がった目を少し下げて、先程までの怖い表情を無くして、静かに笑いました。

 それはお爺さんとお婆さんも見えてくれた事のある、とても優しくて、どこか悲しそうにも見える笑顔でした。


「『なんか』、じゃねぇよ。お前と友達になりたいって言ってんだ。言わせんな、恥ずかしい。」


 お爺さんとお婆さんの事を思いだしてしまったからかも知れません。

 私なんかとお友達になりたいと言ってくれた事が嬉しかったのかも知れません。

 でも、本当の理由は何故だか分からないけど、目から何故かぽろぽろと、涙が零れてしまいました。


「な、何で泣くんだよ! 私が泣かせたみたいじゃねーか!」

「ご、ごめんなさい。わ、私にもよく分からなくて……。」

「ほら、ハンカチ貸すから涙拭け! ……落ち着いたら散歩でも行こうぜ? 此処の奴らに紹介するからよ。」




 魔王に供物として捧げられて、私の幸せはこれで終わりと思っていました。

 でも、そこにあったのは、今までにはなかったような幸せで。

 あの恐ろしい魔王の考えている事が、私はますます分からなくなっていました。




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