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北の魔王、恋をする  作者: 阿南宙
第2章 ー 北の魔王の秘め事 ー
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アクア編 1話 「世界平和を願う悪」




 魔王と出会ったのは数えるのも馬鹿馬鹿しい程に大昔の話。

 どれくらい前かって? おおっと、レディーに年齢を聞くものじゃあない。

 巨大で強力なそれを見た時、一目でこれは世界を自由にできる存在だと悟ったよ。

 それと同時に、それを酷く哀れで危ういものだとも思った。

 これは私の夢の為に上手く使えるのではないか、と思った一方で、この哀れな生き物を救ってやりたいとも思った。


 私の夢? あまり話したくないのだがね。

 魔王に仕える魔族の幹部である私の夢を聞いたら、魔族もウォカもきっと冗談はやめろと笑うだろう。


 私の夢は『世界平和』。


 魔王シャイタンに仕える『シャイタンの頭脳』。種族は水龍すいりゅう。カルムオリゾンではドラゴンと呼ばれる魔族であり、カルムオリゾンでは私は『アクア』と名乗っている。




 ++++++++++++++++++++++




 供物に贄を選ぶシステムを導入した理由は他でもない、シャイタンの為である。

 元々は北の領土内でも名高い美女を、それはもう様々なタイプを招き入れ、シャイタンが好む、『魔王と寄り添う者』を探し出すのが目的だった。

 ウォカはヒュマ、エルフ、ドワーフ、ベヒュマ。魔族は私の目標にそぐわないのでNGとしたが、それ以外であればかなり幅広い美女を紹介した。

 結果として、シャイタンの好みに合う者は見つけられなかった。

 早々に贄から『魔王と寄り添う者』を探すのは諦めたのだが、如何せん最初に目的の美女を招く為に設けた『贄に対する対価』が大きすぎた。

 それからは割の良い供物として、時折贄が差し出されるようになった。

 契約ごとには信頼が必要。形だけでも平等が重要。『魔王と寄り添う者』を探すという真の目的を隠していた手前、一度認めたものをきっかけもなく撤回する事もできない。


 そんな惰性で続けていた贄システム。当然新しく来た娘には何も期待していなかったのだが……。


「……やってしもうた。」

「何をです?」

「『いつもの感じ』で、贄に『魔王は悪い奴』だと吹き込んだ。」

「……え。」


 ヴァン。鳩の頭を持ったデーモンという珍妙な姿ながら、魔王配下の中で、唯一『話せる』相手である。

 流石に今回ばかりは彼の力も借りざるを得ない為、現状抱えている問題点について吐き出す。……という名目で愚痴を聞かせているのが現状である。


 シャイタンがまさか、あの手の『質素系』が好みだとは思わなかった。

 候補とすら見ていなかったので、『いつもの感じ』で接してしまった。


 魔王シャイタンは『悪党』でなければならない。間違っても『根は善良で温厚なデーモン』などと思われてはならないのだ。

 魔王シャイタンは、カルムオリゾンにおける『最大の脅威』であり、同時に『最大の抑止力』である。

 その脅威を薄れさせる事は、下手をしたらカルムオリゾン全域を巻き込む戦争を引き起こしかねない。それ程に危険な引き金なのだ。

 故に、基本的に、私を始めとした四魔将は余程重要な立ち位置にいる者以外には、魔王の凶悪さと危険性を徹底的に説く事にしている。今回はそれが裏目に出た。


「それって第一印象最悪じゃないですか……。まぁ、魔王の時点で既に地の底にあるんですけども。」


 ヨヨの村の娘、アグリ。何という事はない、どこにでもいそうな質素で素朴なヒュマの娘。

 そういえば贄として選ばれていたのは当初は美女と呼ばれる者達だったし、目的が薄れた後は厄介払いされたような娘が多かったような気がする。少なくとも、『普通ではない』と言っても過言ではない曲者揃いだった。

 今更シャイタンの好みのアテが外れていた事を後悔しても仕方が無いのだが。

 あと、そうだ。アグリと言えば、彼女を連れてきた部下のクアトロ。あれ以降、気が滅入っている様子だ。あれも生真面目すぎる。後でフォローを入れなければならない。……いや、今はそれは置いておいて、シャイタンの恋について考えなければならない。


「こういうデリケートな話は確かにイグニスには向かないでしょうし、アースは口に戸を立てられない故に不向きかも知れませんね。ワタクシをお呼び戴いた理由も良く分かりました。」


 こういう時にヴァンは話が早くて助かる。余計な説明も必要が無い。


「さて、そうなると、たとえばアグリ女史の情報を探るといった諜報活動であればワタクシの領分でしょう。イグニスとアースからの情報漏洩を防ぐ事もですかね。それと、あくまで相手はシャイタンに理解のない初対面のヒュマ。シャイタンのコミュニケーション力を鍛えるといった部分でもお力にはなれるかと。」

「……そうなると、やっぱり妾が仲を取り持たんといかんのかぁ。」

「でしょうね。女心には何分疎いものでして。仮にも女性のアクアにお任せしたいところです。」

「仮にもは余計じゃ。」


 しかし、分かってはいたが、結局はアグリの気をシャイタンに向けさせる役割は主に私が担わなければならないのだろう。シャイタンを知っていれば知っているほどに頭を抱えたくなる。


「難しい顔をしていますね。やはり、今回ばかりは貴女にも荷が重いですか?」

「……そうも言ってはおれんじゃろ。計画外とは言え、ようやっと訪れた待ち望んだ展開じゃ。」

「確かに、喜ばしい事です。シャイタンの友としても。平穏を望む者としてもね。」


 私はシャイタンの友ではない。だから前者には同意しないが、後者こそが私が『魔王に寄り添う者』を探す目的。


 今までカルムオリゾンを包んでいた平穏は、魔王シャイタンが心を知らぬ故にあったものである。

 シャイタンは怒らない。強大すぎるが故に、全てが些事に過ぎないからだ。(勿論、私達もバランサーとしてアレを怒らせないように努めていた成果もあるのだが)

 シャイタンは愛さない。『今のアレ』には何かに対する思い入れなどない。それ故に、何かの為に怒る事がない。


 その無関心が世界を守っている一方で、その無関心が一歩間違えれば世界を滅ぼす。

 アレが世界を滅ぼさないのは、決して滅ぼせないからではない。単に『滅ぼす事に興味が無い』だけだ。

 ふと思い立てば、アレは一週間と待たずに世界を無に返すだろう。


 だからこそ、『魔王に寄り添う者』が必要なのだ。

 シャイタンが「世界を滅ぼしたくない」と思える理由が。


「……さて、嘆いても悩んでも居れんな。恋天使の真似事など性に合わんが、どれ一肌脱ぐとしようか。」




 そう、『世界平和』の為に。




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