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北の魔王、恋をする  作者: 阿南宙
第1章 ー 魔王、出会う ー
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エクリ編 「書記官エクリの議事録」




 魔王シャイタンと直接接触できるのは、特例を除き、四名の最高幹部『四魔将』に限られる。

 一見すると青いチャイナドレスの美麗なヒュマ女性、しかし頭には枝のような角を生やした彼女の正体はドラゴン。内政を担当する『シャイタンの頭脳』、アクア。

 白銀の鎧を纏う、ヒュマの二倍はあろう巨体を持つ(魔王に比べたら可愛いものだが)のは、防衛を請け負う『シャイタンの盾』、アース。

 蜥蜴の顔、火のたてがみを持つ、蜥蜴のデーモンは、戦闘力では北の領土ではシャイタンに次ぐと言われる実力者、防衛の要の一角、『シャイタンの剣』、イグニス。

 鳩の顔を持つ、紳士服に身を包む鳩のデーモンは、外交を担当する『シャイタンの耳』、ヴァン。


 そして、彼らを統べるのが、大樹の如く巨体を持つ大魔王、シャイタン。


 四魔将と魔王が集う会議室にて、緊張した面持ちで、書記官エクリは筆を構えていた。

 キツツキのデーモンである彼は、ヴァンの配下のデーモンで、この会議に同席を認められている唯一の者である。

 北の魔王の領土を治めるトップ達の会議が開かれる。


 ……とは言っても、四魔将それぞれが各々の仕事の近況について報告するだけの会なのだが。


 魔王の前に置かれた円卓に四魔将が座ると、まずは内政を担当するアクアが口を開いた。


「妾からの報告事項は二点。まずは既にシャイタンには報告済みじゃが、ヨヨの村にて不作が続いておる。いよいよ供物に贄が選ばれた所じゃ。ちょいと脈を弄ろうと思うが構わんか?」


 アクアがシャイタンを見上げる。魔王シャイタンを呼び捨てに出来るのは、このドラゴンの女くらいであろう。シャイタンはただ、いつも通り寡黙に頷いた。

 すると、白銀の鎧の大男、アースがくぐもった声を発する。


「脈の変更箇所を後で連携しろ。魔獣の予想移動ルートに合わせて警備体制を組み替える。」

「あい分かった。後で脈の変更内容を地図に落としておく。」


 エクリは淡々と会話内容を記していく。 

 それと同時に会話内容を自身の中で噛み砕く。

 ヨヨの村で贄が出たというのは初めて聞いたとエクリは記憶している。アクアが脈(アクア曰く大地に流れる力らしい)を弄るというのも珍しい。そう言えば、ヨヨの村の管理を担当するのは同期のクアトロだったか、等と考えながら、エクリは続くアクアの報告に耳を傾けた。


「もう一点。ロロの村の収穫祭が近い。たまのガス抜きに周辺の村からロロの村への移動を認めようと思っておる。」

「また私の管轄か。分かった。ルートの安全確保だろう。」

「アースは話が早くて助かるのう。シャイタン、依存はないな?」


 相も変わらずシャイタンは無言で頷く。

 エクリも会議の議事録を長く取ってきたが、シャイタンはそうそう四魔将からの申し出は断らない。

 信頼故か。面倒事は一任しているのか。何にせよ、恐ろしい見た目に反して寛大な王なのだと、エクリは好意的に捉えている。


「この流れで私も報告を済ませてしまおう。魔獣被害は今期もゼロに収めている。冒険者の侵入は相変わらず増えているが、ゴーレムをあてがって満足させている。危険な冒険者もなし、出稼ぎ程度で魔族への被害の心配は要らない。」


 アースの従えるゴーレムの防衛力は凄まじい。

 いつも変わらぬ報告内容に、四魔将一同も「だろうな。」と特に反応も示さずに話を聞き流す。

 エクリも今日の平和がアースの力によるものである事を実感しつつ、いつも通りの内容を記す。

 続いて、エクリの上司であるヴァンもクルルと喉を鳴らして手羽を上げる。


「では、ワタクシもささっと済ませましょう。他所の魔王はいつも通り。アース氏の報告からもお察しの通り、ウォカの国にも動きはありません。我らが王が睨みをきかせている中で動ける者などそうそうは居ないでしょうが、耳は澄ませておきますよ。」


 傍で見ているからエクリにはよく分かる。

 この北の領土に限らず、この世界、カルムオリゾンに於いて、ヴァンの耳の届かぬ場所などない。

 『シャイタンの耳』の異名は伊達ではない。


「俺っちはなーんもねぇよ。」


 さらりと一言、ちろちろと舌を出しながら、退屈そうにイグニスが言う。

 アースと違い、『敵の排除』を請け負う彼。仕事がない、というのは彼が怠けているという事ではなく、彼が働くまでもなく、この北の領土は平和であるという事である。


 書き溜めてきた議事録の内容はほぼ毎回変わらない。

 魔王シャイタンと、その下に仕える四魔将の力が絶大であり、平穏が保たれている事の証明である。

 今日も大した内容を書き記す必要がない事に安心しつつ、エクリは議事録を閉じた。

 そこで、パン、とヴァンが羽を打つ。


「さて、定例会もお開きとしましょう。まぁ、要らないとは思いますが、議事の複写は後で各将に配るように。」

「かしこまりました、ヴァン様。」


 魔王と四魔将に頭を垂れ、エクリは一歩後ろに下がる。

 四魔将はまだ席を立たない。これもいつもの事だった。

 アクアはにやりと不敵な笑みを浮かべ、エクリに手を振る。これもいつもの事だ。


「さて、後は妾らで適当な談笑でもするでな。先に席を外してよいぞ。」

「お先に失礼致します。」


 いつも、定例会の後に、魔王と四魔将はエクリに席を外させ、暫くの間談笑をする。

 果たしてあの魔王様が、談笑などするのだろうか。そんな疑問を抱きつつも、エクリは席を外す。

 



 きっと、書記官などには聞かせられない話があるのだろう。

 今日もエクリは変わらぬ日常に感謝しつつ、定例会の任を終える。




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