白雪姫症候群 1話 (再) 白雪姫も居眠りする
窓辺の桜はヒラヒラと粉雪の様に舞い散っていた。
あまりにも綺麗な桃色の花びらだったもので、もしかしたら
桜の木の下には屍体がねむっているのかもしれないと考えて
しまった。しかし、そんなものはただの戯言。
あまりにもバカらしくて笑えない冗談だ。
でも、私は時々この桜を見るたび思ってしまう。
本当にこの下に死体があればいいのに・・・
別に私が猟奇的考えの持ち主でも、サイコパスとでも
呼ばれる人間であるわけではない。
ただ、そちらの方がきっと綺麗だからだ。
人間の死体という残酷であり神秘性を持つ物の
血液はきっと美しく、グロテスクであり、どこまでも赤く
どこまでも生きている鮮血。
どうだろう、そんな血液が桜の体を弄るようにいきわたるのだ。
今の桜よりも、いやすべての桜の中でもっともすばらしいものに
なるのではないか?
私の脳みそはそんな異常な考えに支配される。
けれど、桜は桜だ。そのために人を殺そうとも、死のうとも
思えない。私の人生の中で桜とは春に咲く花というものでしか
ないのだ。ただの知識の一部である。こんなことで人生を
棒に振っていたらとっくのとうに人類は絶滅という一途を
たどっている頃だろう。
でも、何か一つのことに生を絶やすのは悪いことではない。
そもそも人類とはそういうものなのだ。
人間とは何かのために生き、そして死す。
百人十色とはいうけれど、そこは人類みな共通モットーである。
現に、私だってその一人だ。
けど、そんな事照れくさくて言えるはずもない。
それにそんなことを言ったらきっと私は私でなくなってしまう。
それにきっと、悲しんでしまうからそのことは隠そう。
そして忘れよう。桜のことも人類もことも。
私はゆっくりと窓辺から目を離し、瞼を閉じる。
永遠に感じる教師の話も、見たくない同級生の話も、美しい桜からも
忘れたい現実からも……見えなくしてしまおう。
きっと目を覚ますころには王子様が…
ーーーーーーーーーーーーキリトリセンーーーーーーーーーーーーー
「起きろぉー、陽?」
私の名を呼ぶ声が聞こえた。何回も繰り返すように私を呼んでいた。
そもそも私に声をかける男はたぶん一人だけだ。
それをわかっているから机にうつぶせになっている私はそのまま
その声を無視した。そのまま、寝たふりをしよう。
まだ眠いのだ。あと、30分は寝たい。
「起きてるんだろ? 先に帰るぞ」
男の方は何度呼んでも起きない私にあきらめたのか、扉の方に向かう
足音が聞こえる。
けれど『先に帰る』、その言葉を理解した瞬間私は勢いよく顔をあげ
しかめっ面で声の相手を睨みつけた。
「紅のいじわるぅ。ひどい・・・ひとでなし・・・ばか・・・」
重い瞼と体に鞭を打ちながらゆっくりと立ち上がる。
何時間も寝たせなのか体がところどころ堅かった。
「久しぶり・・・」
「昨日、電話しただろ・・・」
悲しそうな顔で彼は顔を背けた。
私もきまづく顔を下げてしまう。
そしていつもお決まりの定型文を言う。
「今日は予定ないの? 」
「ああ、最近は忙しくて本当にごめん」
「紅はさぁ、私のこと好き・・・?」
ああ、好きだよ。
私は昔から表情筋の動きが少なく、感情が込められているかも
わからない愛の言葉。でも、いつも彼は私のことをやさしく微笑んでくれる。
「なら、許す…」
「ありがとう」
こんな、他の人が見たら吐き気が出るような会話が私たちの
日常だ。別にバカップルやイチャイチャしているわけではない
ただ、言葉にしないといつか切れてしまうのではないか
そんな不安が押し寄せてくる。
私は愛されている・・・?私は一人ぼっち?
そんな見えない感情がとてつもなく怖いのだ。
だから、聞いてしまう。確認してしまう。
それは紅も同じように。それが私たちだから。
「本当にごめん」
紅はさびしげに横向きながらつぶやいた。紅にそんな顔は似合わない
私は紅の肩をたたきこちらを向かせる。
私のくちびるが紅のくちびるを奪う。とろけるような甘い気持ち、
体は火照り、ただお互いを愛し合う求めあうように
ふたりなのに寂しそうにお互いを抱きしめる。
一方は愛を求めを、もう一方は罪悪感に駆られ・・・
ーーーーーーーーーーーーーー
これは、おうじさまのキスで目覚める白雪姫の物語。
歪んだ白雪姫と王子様の恋の物語。
今日も私は毒りんごをたべるんだ・・・王子様に会うために