悪魔に看取られたい 共通①
「おはよう」
「ああ、今日は珍しく早いな」
いつもは遅刻常習犯の私も、高校入学式ともなれば早く起きるに決まってる。
ニュースを見れば最近はシングルマザーが多いとか、孤食とか問題を抱える家庭が多い。
私はごくごく普通のサラリーマンのに父、主婦の母、アルバイト大学生の兄と四人暮らしで普通の幸せに恵まれていると感じる。
「いつもこんなだったらいいんだがな」
「……すー」
「って言ってるそばから寝るなよっ!」
ああ危ない危ない、入学式出れなくなるところだった。
「いってきまーす」
●●
「私、生華マナ。よろしく」
「オレは宇佐美ケイジ……よろしく」
ちょっとオドオドしている。寝不足なのか、彼は目が赤い。顔はそこらの男子より良く、面倒見が好きな女子は好きそうなタイプだろうなあ。
「おいおいお前ら、入学そうそう居眠りか!!」
私と宇佐美くんは気がつけば寝ていたようで、まるで不良を更正させるドラマにいそうな眼鏡ジャージの先生が丸めたチラシでスパーンとはたく。
「ごめんなさーい」
「すみません」
■■
高校生になり、私はバイトが解禁になった。
(よし、初めてのコンビニバイト頑張るぞ!)
「よろしくお願いします!」
「……よろしくお願いします」
同じく新入りバイトの男子は同じ高校の生徒だった。
目付きが悪く近寄りがたい雰囲気がある。
「まずなにをやったらいいんですか?」
「犬飼くんは在庫確認、生華ちゃんは揚げ物の温度確認を頼むよ」
彼は発注品が資料の通りにあるか、私はポテトや肉を揚げる油が適温かを確認する。
あまり高いと焦げるので80度になれば火を弱めるように書いてある。
新人だしレジはまだ早いから、これが適切だろう。
「あ、そこのハッシュポテト取ってくれない」
バイトの女性に頼まれたので冷凍された袋を渡す。
「はい、これですか?」
「ありがと」
「あ、じゃあ骨無しチキンとってくんない?」
バイトの男性に頼まれたのを確認して渡す。
「どうぞ」
「さんきゅ~」
二人が揚げ始めたので店長から別の仕事をやるように言われる。
バイトはあっという間に終わり、帰宅時間になった。
「いやー君たち新人のわりにテキパキしてて良かったよ」
「ええっそんなこと……」
「……あ、ありがとうございます」
――犬飼くんは照れている。そんなに怖い人じゃないかも。
「あのさ、アンタ同じ高校だよな」
「うん、そうだよ。クラスは違うみたいだけどね。ちなみに私Bクラス」
同じクラスなら彼を一度見たら忘れないだろうし。
「俺はCクラスだ。……もう暗いし嫌じゃなかったら近くまで送るが」
「いいの?」
同じ高校だし彼に送ってもらうのは一人で帰るより安全だと思う。
■■
「ただいまー」
彼に送ってもらいながら帰宅し、疲労感がドッとくる。荷物を投げて手洗いうがいをした。
「なあ、こんな夜道に一人で大丈夫だったのか?」
「うん、バイト先に同じ高校のがいて、途中まで一緒だったし」
「よし、次からシフト換えてでも迎えに行くからな」
兄が最近はさらに過保護すぎる気がする。
「お兄ちゃんの過保護が年々悪化してる」
「柘太邦は昔からこうじゃないかしら」
「まあ嫁さんでも貰ったら落ち着くだろうさ」
――嫁と小姑問題にはかかわり合いたくないな。
■■
「ねむれ~ねむれ~怠惰にねむれ~」
――寝苦しくて寝付けない。
「てか変な子守唄、誰!?」
手で追い払っても、スカスカ抜ける。
「私はベリアン。明日はお前に遅刻をさせる者」
「私が中学で遅刻魔だったのはすべてアンタのせいだったのか……!」
「いや、たまにサボった。遅刻をさせたのは週一ペースだ」
「あれ、つまりほぼ自分のせい?」
いや、そもそも彼は幽霊なの?
暗がりにぼんやり、彼だけ鮮明にうつってる。
とりあえず顔はすっげーイケメン!って感じ。
「これは、少女漫画によくある悪魔と人間の禁断のラブ!?」
「なにをブツブツ言ってるんだ」
「いや、でも悪魔だし私が騙されて捨てられる未来しか見えないか……」
なんか面倒だし寝よう。
「おい、寝るな」