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継章

 朝食後、彼は何となく相棒の部屋に留まっていた。

 食器は既に使い魔が下げてしまっており、テーブルの上には数冊の参考書が載せられている。部屋の主は、一心にそれに視線を落としていた。

 特に邪魔だという扱いもされていないのをいいことに、食後のコーヒーなど飲みながらのんびりする。

 ページを捲る音。シャープペンシルの芯が、紙の上を滑る音。声を出さずに言葉を繰り返す、唇の動き。

 自分がその中にいたのは、もう二年も前だ。微妙な懐かしさに、気が緩む。

「お前、まだ大学に行くつもりなのか?」

 ふと漏れてしまった言葉は、露骨に不快な表情で睨みつけられた。流石に今のは失言だ。

「悪ぃ。それを否定するつもりなんじゃなかったんだ。ええと……」

「言い訳をしたいなら聞くだけは聞いてあげるよ」

 にっこりと笑って、そう言い渡される。苦笑して、片手を上げて軽く拝む。

「俺はさ、進学するってことに全然興味がなかったから。不思議なんだよ、単純に」

「不思議、ねぇ」

 それに対しては突っかかるでもなく、少年はちょっと考えこんだ。

「僕は、これも単純に言うと世界を知りたいんだよ。人類の文化が発生したのは、ざっと二万年前だ。それから今までに、一体どれほどの人間が生まれて、どれほどのものが形作られた? 何を考え、何を望んで生きてきていた? 知らないことは、幾らでもある。それを知ろうともせずに生きていくなんて、我慢できないんだ」

「世界か……。大きく出たな」

 感心して言うと、相棒は小首を傾げた。これは、皮肉だと受け取られずに済んだらしい。

「そうか?」

「そうだよ。……俺には、この日本だって大きすぎたっていうのに」


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