祭りとか伝統芸能とかは見ていて楽しいものであって…
とか思った日もあったなあ…。
凝った地紋が浮かぶ純白の綾錦に横たわりつつ遠い目をしてしまうのももっともな話なんだよ。聞いておくれよう。こんな状況は思いつかんかったー。
どういう状況かっていうとね。
まず親方が精進潔斎とか言って引きこもってしまった。話し相手がそっこー失せました。そのままわたしは神棚に置かれっぱなし。お弟子さんっぽい人たちが右往左往してるのを仰臥しつつも眺めるだけ。てか刀って立ったり座ったりしないよねえ、横になるしかないよね。試しに体を動かしてみようとすると、人間時代の記憶を呼び覚まして直立してみた。動けることが分かったのはいいけど、それを目撃したお弟子さんたちがひれ伏して「お鎮まりくださいませお鎮まりくださいませ」って感じになったので、それ以上はあきらめてまた横になる。
「御神刀奉納の儀にふさわしい神輿を…」
「都合よく売ってるものじゃない」
「やはり一から作らねば」
「宮大工に都合をつけて…」
「飾り職人にも」
「金で作らせるには手持ちが足りません」
「地金を銀で細工してもらえ」
「ありったけの金をすべて金箔にしろ」
「漆塗りは無理です、白木にするしか…」
「かき集めろ、漆細工を」
「螺鈿に使う貝も足りません」
「あれだ!漁師たちに太刀魚を釣るように伝えろ」
こんな感じ。
みんな目が血走ってて、もうむしろ殺気立ってる感じ。
締め切り前の修羅場もかくや。
神輿ってあれだよね。わっしょいのやつ。祭りでも始まるのか?って思ったら。
あれよあれよという間に載せられちゃいました。はい、神輿の真ん中にね!誰かこの状況を説明して―!
ようやく精進潔斎を終えた親方が出てきたんで、ちょ…これ何なん?って聞いたら「あ、悪ぃ」って感じで口元を指さす。口に葉っぱ咥えてて、どうやら神事がおわるまでしゃべっちゃいけないっぽい雰囲気。
空気読めるわたしはおとなしく現実を受け入れたよ。
もう儀式だか何だか知らんが、終わったら質問攻めにするから首あらって待ってろよ~ってオーラ発散しまくりながらね。