とりあえず「神刀」と呼ばれました
…しかし?
なんだろうね、
せっつきたい気分をこらえてじっと製作者の次の言葉を待つ。
「おいらは…しがねえ一介の刀鍛冶、名匠と呼ばれる域には生涯達することはできねえものと。せいぜい数を打って腕を磨き、おいらの打った刀が誰かの役に立てばとの思いで一心に励んでまいりました。それが…。まさかそんなおいらが、名刀も打てねえおいらが御神刀を打っただなんて…」
あー、そんな大したもんじゃないけどなわたし。神刀て…ああこれが転生チート? いまいち微妙なチートだなこれ。
「待って、なにをもってしてわたしを神刀だって判断したの?」
わたしの質問に逆に親方は困惑顔を浮かべる。
「あの…ですね。神刀っつうもんは、普通の刀ではありえない現象を起こす刀のことをそう呼びます。過去には特定の血筋に反応して歌う刀や、まるで意思があるかのように遣い手の危機を助けた刀なんかがあります。他にも闇夜に輝く刀や炎をまとう刀などの伝説も伝わっておりまして、数は少ないものの、その遣い手が神刀を使って偉業を成し遂げたことが伝わっており、神刀があるということは刀鍛冶の中では有名な話でして…。これまで意図して神刀を打とうと試みた名匠もおりましたが、あれは人の意志で打てる代物ではないといわれてます。とはいえ神刀を打った匠はみなそれなりに名のある刀匠でしてね、無名の刀鍛冶が神刀を打ったことはありません」
「…そうか、調子に乗って歌ったのがいかんかったなー。うん、反省」
「あ…歌う刀は記録にあるんですが、その刀は歌う以外の神通力はなかったはずです。あなたさまは…打たれてすぐに歌い、そして人の言葉を紡いだ…。しかもこちらの言葉を介し、それに対し的確な言の葉を紡がれた。このような神刀はこれまで聞いたことがありません。たいていは一方的な恩寵なんです」
「え?他の神刀って会話とか普通にしたりしないの?」
「というか…ふつう神刀は崇敬の対象で、まかり間違ってもこんな気安く会話するはずじゃないんですけど…」
「そなの?…それじゃわたし神刀違うんじゃ?」
「や、普通刀はしゃべりませんので、その点ですでに神刀の条件は満たしてるんですが…ねえ?そのなんといいますか、ねえ?」
「あー、神刀がそういうもんって認識なら戸惑うよね。でもわたしそんな大したもんじゃないし、ひかえおろう!とかひれ伏せ!とか柄じゃないしなー」
「神刀の自覚がない神刀ですか…。おいらは刀鍛冶としての知識ならありますけど、神刀とはなんぞや的な学術的専門知識は皆無なんで…餅は餅屋と申します。神刀を奉納する神職でしたらそういったことに詳しいです。どのみち神刀を打った時点で神社に連絡するのは義務ですんで、その際いろいろ話を聞いてみちゃどうでしょう?」
「え?神社?ここ日本なの?」
「へ?ニホンなるものは寡聞にして聞いたことないです」
「神職さんとか神主さんとか禰宜さんとかがいるあの神社、だよね?鳥居とかそういうのある建物の?」
「へえ…よく御存じで」
「わかった。行こう、神社」
いままでは無意識のうちに気を張ってたのかもしれない。聞きなれた単語を聞いてなんかすごく気が楽になった。
わたし、この世界でも生きていけるかも。