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2015年/短編まとめ

出会いはゲームセンター

作者: 文崎 美生

響く、響く、重低音。

ドンドンドンドン、聞きなれた音。


大きな袋を足元に置いて、その位置が見えるベンチに座った私はその様子を眺めていた。


近所のゲームセンターに幼馴染みと来ていたが、幼馴染みはそそくさと音ゲーの方へ。

私は私でクレーンゲームをしていた。

足元に置いてある袋の中身は全て戦利品。


誰だか知らない人が行っていて、私が離れたところから傍観しているのは、ゾンビをひたすら撃ち殺すゲーム。

私個人としてはああいうのも好きだ。

ゲームはオールジャンルに愛している。


話を戻すが、あのゲームは途中経過も難しいかも知れないが一番苦戦するのはボス戦だ。

まぁ、どのゲームもそうだろうけど。

というか、ラストステージのボスに辿り着く前に諦める人の方が多いんじゃないか。

ラストステージ入った途端にゾンビに囲まれて死ぬとかあるある。

彼もまたラストステージで苦戦して……あ、ボスまで行った。


ぼんやりとラスボス戦を見ていると、画面が真っ赤に染まる。

あー、死んだな。

そう思いながら溜息を吐き出せば、彼はイライラした様子で舌打ちをして百円玉を投入。

クリアするまで止めないタイプだ。


同族の匂いがして、袋を両方の手で脇に抱えゲームの方へと歩いていく。

ドンドンドンドン、と銃を撃つ音が大きくなる。

また彼のライフがゼロになってしまう。


彼は私に気付くことなく、また百円玉を投入しようとしていた。

私は私で近くに袋を置いて、財布の中から百円玉を取り出して彼の隣に立つ。


「は?」


やっと私に気が付いた彼が私を見た。

私は笑いながら「お気になさらずに」と言って百円玉を投入。

そして銃を抜き画面に向けた。


これ、実はクリア済みのゲームだ。


最初こそ苦戦したものの一度死ねばクリア出来る。

と言うよりは何としてでもクリアして見せるのが、私のプライドであり意地なのだ。


銃を撃ってリロードしてまた撃っての繰り返し。

弾がボスに入ってもHPの減りが少ないのは急所に当たっていないからで、攻撃を受ければこちらの防御力どうした、と聞きたくなるくらいにHPが減っていく。

足元の移動やら避けるためのボタンを踏みながら、正確に急所を狙っていけば勝てる。

そんなのは当たり前だ。


急所、急所、急所、急所、急所。

ほぼ全弾急所に当てていけば、ボスのHPは見る見るうちに黄色へ赤へ、そしてゼロになる。

ガシャン、と音を立てて銃を置き場に戻す。


視線を上げれば唖然、といったような顔をした名前をも知らない初対面の彼。


「お疲れ様です」


微笑を漏らしながらそう言えば、彼は意識を取り戻したようにハッ、として私を上から下まで見始めた。

それよりも、私としてはギャラリーが多いことに何とも言えない気持ちになってしまう。


「いや、アンタ……」


銃を持ったまま私を指差し、何かを言おうとした彼だがその言葉は、大きな拍手と女性の声にかき消されてしまう。

二人で視線を投げれば、ギャラリーが拍手をして店員である女性が「スゴイですねぇ!」と言いながら近付いて来た。


その際に私を見て一瞬顔を強ばらせたところを見ると、私がクレーンゲームをしている場面を見ていたのだろう。

店荒らしそのものだとよく言われる。


「あれ、クリアしたの?」


眠そうな声が聞こえて、目の前の彼の体が僅かに傾く。

後ろからのしかかっているのは、彼よりも背の高い男で私の方を見て首を傾げた。


にこ、と笑顔を向ければ彼が「手伝ってくれたんだよ」と説明。

だがその説明に興味のなさそうな返答。

私は別にいいけれど。


お姉さんはこのゲームをクリアした特典について話始めているが、私は前にもクリアしているからその特典は知っている。

貰ったけど特に使い道なくて、クラスメイトにあげた記憶が……。


そんなことを思い返していると足音と一緒に、聞き飽きてしまったような声が聞こえた。


「……また、それ?」


面倒そうな声で聞いてきたので、振り返ればよく見慣れた姿。

私は足元の袋を引っ掴み笑う。


「ごめんごめん。ちょっとね」


片方持ってよ、と差し出せば彼女は特に何を言うでもなく普通に持ってくれる。

こういう優しいところが好きだな。


彼女が戻ってきたということは、ゲームセンター内にある全ての音ゲーの新曲を潰してきたということなのだろう。

スカッとしたような顔色を見て笑いが込み上げる。


「それじゃ、私は失礼しますね。特典はお二人で楽しんで下さい」


笑顔を向けて頭を下げれば、彼はあ、とかちょっと、とか言っていたが迷うことなく立ち去る。

あの感じを見てれば、そのうちまたゲームセンターで会うような気がするよ。


ちなみに、特典はプリクラの無料券だ。

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