出会いはゲームセンター
響く、響く、重低音。
ドンドンドンドン、聞きなれた音。
大きな袋を足元に置いて、その位置が見えるベンチに座った私はその様子を眺めていた。
近所のゲームセンターに幼馴染みと来ていたが、幼馴染みはそそくさと音ゲーの方へ。
私は私でクレーンゲームをしていた。
足元に置いてある袋の中身は全て戦利品。
誰だか知らない人が行っていて、私が離れたところから傍観しているのは、ゾンビをひたすら撃ち殺すゲーム。
私個人としてはああいうのも好きだ。
ゲームはオールジャンルに愛している。
話を戻すが、あのゲームは途中経過も難しいかも知れないが一番苦戦するのはボス戦だ。
まぁ、どのゲームもそうだろうけど。
というか、ラストステージのボスに辿り着く前に諦める人の方が多いんじゃないか。
ラストステージ入った途端にゾンビに囲まれて死ぬとかあるある。
彼もまたラストステージで苦戦して……あ、ボスまで行った。
ぼんやりとラスボス戦を見ていると、画面が真っ赤に染まる。
あー、死んだな。
そう思いながら溜息を吐き出せば、彼はイライラした様子で舌打ちをして百円玉を投入。
クリアするまで止めないタイプだ。
同族の匂いがして、袋を両方の手で脇に抱えゲームの方へと歩いていく。
ドンドンドンドン、と銃を撃つ音が大きくなる。
また彼のライフがゼロになってしまう。
彼は私に気付くことなく、また百円玉を投入しようとしていた。
私は私で近くに袋を置いて、財布の中から百円玉を取り出して彼の隣に立つ。
「は?」
やっと私に気が付いた彼が私を見た。
私は笑いながら「お気になさらずに」と言って百円玉を投入。
そして銃を抜き画面に向けた。
これ、実はクリア済みのゲームだ。
最初こそ苦戦したものの一度死ねばクリア出来る。
と言うよりは何としてでもクリアして見せるのが、私のプライドであり意地なのだ。
銃を撃ってリロードしてまた撃っての繰り返し。
弾がボスに入ってもHPの減りが少ないのは急所に当たっていないからで、攻撃を受ければこちらの防御力どうした、と聞きたくなるくらいにHPが減っていく。
足元の移動やら避けるためのボタンを踏みながら、正確に急所を狙っていけば勝てる。
そんなのは当たり前だ。
急所、急所、急所、急所、急所。
ほぼ全弾急所に当てていけば、ボスのHPは見る見るうちに黄色へ赤へ、そしてゼロになる。
ガシャン、と音を立てて銃を置き場に戻す。
視線を上げれば唖然、といったような顔をした名前をも知らない初対面の彼。
「お疲れ様です」
微笑を漏らしながらそう言えば、彼は意識を取り戻したようにハッ、として私を上から下まで見始めた。
それよりも、私としてはギャラリーが多いことに何とも言えない気持ちになってしまう。
「いや、アンタ……」
銃を持ったまま私を指差し、何かを言おうとした彼だがその言葉は、大きな拍手と女性の声にかき消されてしまう。
二人で視線を投げれば、ギャラリーが拍手をして店員である女性が「スゴイですねぇ!」と言いながら近付いて来た。
その際に私を見て一瞬顔を強ばらせたところを見ると、私がクレーンゲームをしている場面を見ていたのだろう。
店荒らしそのものだとよく言われる。
「あれ、クリアしたの?」
眠そうな声が聞こえて、目の前の彼の体が僅かに傾く。
後ろからのしかかっているのは、彼よりも背の高い男で私の方を見て首を傾げた。
にこ、と笑顔を向ければ彼が「手伝ってくれたんだよ」と説明。
だがその説明に興味のなさそうな返答。
私は別にいいけれど。
お姉さんはこのゲームをクリアした特典について話始めているが、私は前にもクリアしているからその特典は知っている。
貰ったけど特に使い道なくて、クラスメイトにあげた記憶が……。
そんなことを思い返していると足音と一緒に、聞き飽きてしまったような声が聞こえた。
「……また、それ?」
面倒そうな声で聞いてきたので、振り返ればよく見慣れた姿。
私は足元の袋を引っ掴み笑う。
「ごめんごめん。ちょっとね」
片方持ってよ、と差し出せば彼女は特に何を言うでもなく普通に持ってくれる。
こういう優しいところが好きだな。
彼女が戻ってきたということは、ゲームセンター内にある全ての音ゲーの新曲を潰してきたということなのだろう。
スカッとしたような顔色を見て笑いが込み上げる。
「それじゃ、私は失礼しますね。特典はお二人で楽しんで下さい」
笑顔を向けて頭を下げれば、彼はあ、とかちょっと、とか言っていたが迷うことなく立ち去る。
あの感じを見てれば、そのうちまたゲームセンターで会うような気がするよ。
ちなみに、特典はプリクラの無料券だ。