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ウルファス物語  作者: ろーき
第2章 放浪編
9/50

森の中で騎士の一団に出会った日

結局ハレには手を出せなかった。足の痛みでそんな事をする余裕は無かったのだ。

朝になったので天幕を片付けていて思うのだが、これは本当に大変だ。貧しい騎士の給料が殆ど従者の給金で消えるというのも納得だ。

俺はアイテムボックスが使えるから1人で事足りるが、鎧一式と武器一式に加えて折畳み式の柱と天幕の大きな布を持ち歩くには、従者が最低2人と騎士用の動物に加えて荷運びの動物が1頭いる。当然それに加えて食料と水もいる。

冒険の間は無給だから、貯金を吐き出さなくてはならないのに冒険は下手をすると10年に及ぶ事もあるという話だ。しかも冒険を成し遂げても給料が上がるとは限らないのが更に酷い。


「ウル様?背が伸びてませんか?」

「ん?本当か?」


確かに視界がやや高い気がする。昨日はハレの背が高く見えたが、今日は同じ位の目線だ。1日でこんなに伸びるとは、成長期恐るべしである。ハレの胸に頭を埋めるのは屈んでやらなくてはならなくなったが別に問題ない。

天幕を片付け終わったので、朝食を済ませてから山羊のブラシ掛けと餌やりをしてやる。

さて、早ければ今日にも冒険の目標である熊を退治できる。まぁ男爵の町で挨拶が早く終わればの話だ。男爵の町に着くのは昼頃になる。

もしも泊まってくれと言われたら断れないし、宴会を開くかもしれない。騎士とはそういう生活だ。1に挨拶2に宴会34が無くて5に戦争だ。平時はそんなものだ。戦時中のエクターは1に戦争で2に宴会の筈だ。


「ウル様?なんで鎧着てるんですか?」

「これが正式な騎士の装いだからだ」

「でも森の中ですよ?別に着なくてもいいんじゃないですか」

「冒険も仕事なのだ。仕事中はフォーマルな格好をするものだ」


ハレは成る程そういうものかと頷いている。正直言って俺もこんな重いの装備して森の中歩くのは非効率だと思うが、鎧姿はサラリーマンの背広と一緒である。仕事中に変な格好をするわけにもいかないのだ。

既に鉄靴と脛当てと腿当て・膝当ては装備したので、鎖腰巻と鎖肩巻きを装備する。尻は騎乗する関係で無防備だが、あまり攻撃される場所ではないので問題ない。

胸当てと背中当てを装備する。養母アンリエットが用意してくれた鎧は大きめだったので、少し位背が伸びてもちゃんと着れるようだ。まだ少しぶかぶかだが、成長如何ではいずれ新調しなくてはならないだろう。まだまだ伸びて欲しいものだ。なにせ俺の敵は3mはあった。せめて170はないとやつ等の足元にも及ばない。

肩当てと篭手・肘当ても装備したので、最後に面頬の紐をきちんと結んで取り付けてから兜を被る。勿論肌の上に直接鎧や鎖帷子を着ると肉や皮膚を挟んだりするので鎧の下には事前に帽子や服を着ている。

我ながらよく一人で装備できるものだ。森を進むのに盾も剣も持つ必要は無いが、身分の証として持たなくてはならない。盾を左腕に構えて、鞘に入った剣を佩く。

鎧兜はネクタイみたいなものだ。何時も同じ物ではなく、たまには色や形の違う物も使わなくては装いの趣味を疑われるらしい。

アイテムボックスには色々入っているが、今の俺に合う装備はこれしかないし新たに誂えて無駄な浪費をするわけにもいかないので、上手い事やるしかない。まぁ別に趣味の悪い男と思われてもいいだろうさ、大事な事は他にもある。要は身を守る役に立てば良いのだ。

第一まだ12歳だからこれから背が伸びそうだし、今の体に合わせた鎧なんて造ってもすぐに着られなくなる。

山羊にハレを乗せようとするが、何故かハレは乗ろうとしない。よく見ると立つのも辛そうだ。


「どうした?筋肉痛か?」

「ごめんなさい…足手まといですね…」

「構わんさ鞍も鐙も無い裸の山羊だから疲れたろ。それにハレは裸の山羊に乗るのは昨日が初めてだから仕方無い。歩けるか?」

「なんとか…」


無理そうなので、五兵形態となって彼女を触手で捕らえる。触手+美少女=大興奮である。まぁ背中に背中を合わせて背負うので見えないし胸の感触も楽しめないのだが、触手の感じる触感は俺も感じるので問題ない。趣味と実益を兼ねた便利形態だ。


「今日は歩いて進むぞ。道中文字を勉強しておけ」

「はい…ひゃっ!」


触手が変なところを触ったらしい。まぁそういう事もあるさ、なにせ身長が変わったので魔術の命令が食い違うのだ。触手達も以前ほど自由自在には使えないので適宜修正しなくてはならない。


「ひゃうっ!あんっ!そ、そこは…」


だから背中の上にいるハレで実験するのは当然の事である。何時も修正する時は魔物や木の枝で実験するが、五兵形態を実験するには人間が一番だ。銀水は肌にカブれない安心素材だから大事なハレに傷は付かない、彼女が少しばかり暴れる以外は何の問題も無い。

一応許可は取るかな、親しき仲にも礼儀ありだ。主従関係でもお互いへの敬意は大切だ。


「ハレ、俺の役に立ちたいだろう?こうした魔術は俺自身の身長や体調が変化すると同じ呪文でも細かい命令の違いで完全に操れんのだ。お前で実験したい。何…以前は5時間くらいで呪文の修正が終わったが今度はもっと早く終わるはずだ。我慢できるか?」

「は…ひゃっい!わかりましたぁ…ウル様のぉ、ひゃ!お心のままにぃ…」

「ありがとう。お前ならそう言ってくれると思ったぞ。何ちょっと気持ち好くなるだけだから問題無いし体にも害は無い。むしろマッサージだから疲労が回復する」


後ろの嬌声を楽しみながら、山羊の首に括りつけた紐を牽いて森の中を進む。山羊も老いぼれているので、とても全身に鎧を着た状態で乗れるような体調ではない。老いぼれているだけあり、連日乗れる様な強さは無い。ボターに借りたものだから乗り潰すわけにもいかない。

体力強化の呪文は山羊に使えないので、俺自身に唱える。女を一人背負って銀色の腕をいくつも生やしているので、鎧以外の重量でも100kg位あるかもしれない。だがそれほど重さを感じないのは長年の修業の賜物だ。力だけではなく魔力資源を有効活用している事も理由だ。

歩く速度は昨日の山羊の進む速度より早い。山羊も誰も乗せていない所為か、軽快に歩いている。背中のハレと他愛の無い話をしながら森の中を進む。1時間もしないうちに調整は終わったので、背中のハレはグリーン車並の快適さの筈だ。偶に寝そうになっているくらいだから本当に快適なんだろう。


「ところで男爵はどんな奴なんだ?ハレは男爵の町に行った事あるんじゃないか?」

「すみません…よく知りません。行商の手伝いでもボター様の村にしか行ったことがなかったので」

「そうか、俺も噂さえ知らんから気にするな」


女好きの業突く張りだと困るから、ハレに姿を変える呪文でも使っておくかな?いや、あの呪文は不細工にするだけだから女の趣味によってはもっと困るか?

呪文を唱えようか迷っていると、前方から3人の騎士がやってきた。一応ハレを降ろしておく。変な誤解をされても困るのだ。兜と面頬は脱いでおく。それが礼儀である。

騎士の一団の長と思われる男は立派な白馬に乗っている。この世の馬は地球の馬と殆ど変わらない馬だ。この世界の騎士の起源は帝国の騎馬戦士達だ。彼等は立派な馬に乗っていたので、現在でも高い地位にある騎士はこういう馬に乗る伝統がある。それにしても高そうな馬だ。立派な毛並みだし、馬用の鎧も高そうな彫刻が彫ってある。

白馬に乗った騎士は馬とは反対に体型にあった真っ黒い鎧と盾だ。盾と鎧には美しい彫刻が彫ってあるので高級なオーダーメイドの装備だと分かる。盾に描いてある紋章はラスナ男爵を表す薬草を額から生やした馬だ。男爵本人ではないかもしれないが、血縁の近い人間でなくてはあの紋章を入れた盾を持つ事は出来ないはずだ。

白馬の騎士は鎧の上からでも分かるくらい太っている。頭頂部だけを覆う兜なのではたっぷりと脂肪を蓄えた顔がよく見える。不細工な肥満体だが裕福な人なんだろうな。この時代に太れるという事はそういう事だ。

残りの2人は白馬の騎士に比べれば貧相な馬と鎧だ。2人とも男爵の部下である事を示す青い紐を剣の柄につけている。顔を完全に隠す兜を被った騎士の盾に描いてある紋章はエクター王国の出身だと示している。たぶんこっちで仕官したんだろう。

残るもう一人は兜を被っていない以外は騎士として相応しい装備だ。盾の紋章が男爵の図案とやや近いので、男爵の血縁者なんだろう。

領地を持っていると示す物は身に付けていないが、持っている斧は中々立派だし、鎧についた傷も自分は歴戦の勇士だと物語っている。

白馬の騎士が甲高い声で俺に問いかけてきた。


「そこの騎士よ、どこに向かう?」

「私の名はウルファス=ベイ・リンと申します。この先のラスナ男爵領の町を目指しています」

「なぜ私の街に行くのだ?」

「私の先達であるボター=ガル・ザン卿に冒険を申し付けられたので、その途上でラスナ男爵閣下に御挨拶するためです」


白馬の騎士はあまり礼儀を知らないようだ。馬からも降りないし兜も脱がない上に名前も名乗らない。まぁ騎士なんてそんなもんだ。基本的に無骨で礼儀知らずの人間をどうにかまともにしようとするのが騎士道の基本だ。騎士道の基本原則1つ『人間は悪として産まれるものであるから善い人間を目指せ』


「そうか…俺が男爵だ。ところでいい女を連れているな、俺に寄越せ」

「そうですか通りで立派な馬に乗っていらっしゃるのですね。男爵ほどのお方なら乙女の方から寄ってくるでしょうに、何も私の乙女を所望しなくてもよいでしょう」

「それでも欲しいのだ」

「お断りいたします。彼女は私の大事な乙女ですからどうぞ他の乙女をお探しください。男爵ならもっと美しい乙女が見つかるはずです」

「なんだとチビっ!逆らうのかっ!」


背はパッと見あんたの方が低そうだがな。しかし沸点の低い男爵だ。部下の2人もうんざりした雰囲気だから何時もの事なんだろう。年は30以上に見えるが、こどもっぽい男だ。


「チビ騎士!ボターの後輩といったな?真の決闘を受ける気はあるか?」

「もしやその決闘は命を掛けたものですか?」

「当然だ!」


まったく命の軽い世界だ。この世界は女のために命なんて捨てて当たり前の世界といえどやり過ぎだ。

隣のハレが何だか驚いた表情だ。小声で彼女に問いかける。


「怖いかハレ?」

「ウル様なら勝てます。男爵様はレベル100ですが大丈夫でしょう」


100だ…と…計測器の故障だっ間違いだっ!まぁ多分本当に間違いだ。男爵の魔力は配下の騎士より少なく見える。

あと男爵自体が敬称だから様は要らないと思う。敬意を持って呼ぶならラスナ男爵閣下と呼ぶんだろうが、その必要は無さそうだ。

それにしても100か、レベルと強さは本当に関係あるのだろうか?この男を倒せれば俺も100を超えるレベルの強さだと実感できるのかな?見た目と強さは一致しないものだと思うが、あんまり強そうには見えない。

100…100か…すごいな、カンストしてるのかな?最大レベルが幾つなのかさっぱりだが、なんとなく日本のRPG経験から100が最高な気がする。上限でなくても他に類を見ないほど高いのは確かだ。

しかし妙な世界だ、レベルと魔法があるとは日本人的にはなんとも作りものめいている様に感じる。

だが俺は幼い頃から魔術を使っていたので常識は無いもののこの世に馴染んでいる。魔物や魔術は俺にとっては身近なものだ。

レベル100のこいつを倒せれば…エクターに帰るのもいいかもしれない。勿論冒険をやり遂げる事も忘れてはならないが。

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