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ウルファス物語  作者: ろーき
第2章 放浪編
8/50

天幕に大蛇が現れたこと

「ウル様…私の事変な子だと思ってますか?」


道の脇に眠るための天幕──見習いの天幕と違い10人ほど寝泊りできるスペース───を建てていると、不意にそんな事を聞かれた。騎士用の天幕は見習いの者と違い、柱を4本も使うので時間がかかる上に2人しか泊まらないので、徒労感が結構スゴイ。

だがこれも修業だ。上司の天幕を建てる時が何時かは来るはずだからその時に恥をかかない様に練習しなくてはならない。


「まぁ…正直言って何がハレの目的なのか良く分からないな」

「おかしな子だと思われてるかもしれないですが、わたしはウル様に一目惚れしました。生まれて初めて恋をしました。あなたと一緒に居たいだけです。下心なんてありません」

「つまり俺と一緒に居たいだけなのか?俺の素性にも関係ないのか?金や地位が目当てって訳でもないのか?」

「難しい事は考えてません。ただ…初めて見た時にずっと一緒に居たいと思ったんです」

「それでいきなりあんな事言ったのか?正直言ってあんまり突然だったから何か裏があると思ったぞ」

「わたしはバカなので嘘が付けません。ただ胸の裡を話しただけです」


ハレは正直者だ。俺はてっきり邪神教団が差し向けた手先だと疑っていたが違ったらしい。

ハレの話によると彼女の生まれはボター領と男爵領の中間にある名も無き村であり、両親を早いうちに亡くしたので、親の知り合いだった行商の下で幼い頃から下働きをしていたらしい。

行商と云っても殆ど農民と変わらず、1年の大部分は農作業をしていたらしい。偶々近所の村に行商に来て類を見ない魔物軍団の襲撃にあって殺されるとは不幸な行商だ。

ハレは数えで15歳…つまり俺の基準に合わせると14歳である。農民の階層者は基本的に1年の初めに年を取り、1歳から人生が始まるそうだ。

これは初めて知った。書物には農民の暮らしなど書いてなかったのだ。地球における所謂中世や古代の農民とは随分違うものだとも分かった。まず移動の自由や開墾の自由に職業選択の自由があるので、それほど差別されているわけではないようだ。

尤もそうした自由は実際は無いも同然だそうだ。この世界には魔物が居るので、実質的には一生を生まれた村や町で過ごし、先祖代々の畑を耕すものらしい。

それに税を納めるのがきつい場合でも、それについて意見を言う権利も無いそうだ。結局殆ど地球の昔の農民と変わらないのかもしれない。俺の知識はやはり中途半端だ。歴史学者でもなかったらしい。

天幕が張り終わったので、鎧一式を脱いでアイテムボックスに入れてから、周囲に結界魔術を張っておく。この辺りは村も無いので完全に魔物の領域だ。警戒するに越した事はない。結界を仕掛けておけば弱い魔物は進入できないし、強いのが入ってきても結界が破れた音で起きだせる。


「そうか、でもハレは俺自身に惚れたのか?物語の中の騎士と俺を重ねているだけじゃないのか」

「ウル様の事が一番大好きです。どんな魅力的な騎士様が現れてもそれは変わりません」


あんまり正面から言われたので、こっちが照れる。照れ隠しに背伸びして彼女の柔らかい唇に接吻をする。

ハレは俺に惚れているのは確かだが、初心なので真っ赤になる。実に可愛い。


「ウル様…駄目ですよ…まだ文字覚えてないんですから、こういう事をするのは…」

「お前から求めるのが駄目なだけで、俺から行くのはいいのだ」

「ウル様は意外にわがままですね…」

「嫌いになったか?」

「いいえ好きです…これからもずーっと好きです」


ハレは蕩けた表情だ。純粋で一度惚れたら一直線なのだろう。出会ってまだ一週間も経っていないが、彼女は俺に夢中らしい。そういえば母が俺は女を自由に出来るとか言っていたが、もしや俺にはそう云う能力があるのだろうか?

天から与えられた力というのはまだ良く分からないが、そう云うことができる人間が居るのか?天から与えられた職業について書かれた本は俺のアイテムボックスには無いのでどこかで入手しておきたいものだ。

魔道大全には他人の心を操る方法は載っていなかった。自分の心を操るのは簡単に出来ると書いてはいたが、魔術で他人の心を操るのも知るのも無理らしい。

老いぼれ山羊に餌をやりブラシ掛けをしてから、呪文を唱えて燃え移らない炎を天幕の中に出現させてから天幕の中に二人で入る。

さて彼女の豊かな体をケダモノのように味わいたいところだが…その前に色々聞く事がある。2人で同じ敷き布の上に座って会話を再開する。当然俺が上座だ。まぁ2人しかいない天幕の中でそんなの意味が無いも同然だが。


「そういえばハレ、あの山賊のレベルは幾つだった?」

「51でした。ボターさんより1つ高いですね」

「普通は…幾つなんだ?」

「他に騎士様を知りませんので…農夫…つまり植える者や育てる者の中で、私が見た一番高い人は30でした」

「魔物にレベルってあるのか?」

「さぁ…魔物を見たのはこの間が初めてでしたから…そういえばレベルなんて無かったかも…」


そんなものか、さて俺の倒すべき邪神教団は幾つなのやら?そもそもあいつら何者なんだ?人間には見えなかったが魔物にも見えなかった。喋る魔物は物語の中には出てきたが、俺は見た事がない。そして奴らは同種にも見えなかった。同じ種族でもない魔物が徒党を組むのだろうか?知性があるとそういうことができるのだろうか。


「そもそもレベルが高い方が強いのか?」

「そういう風に聞いてますが…ウル様は1でも強かったので関係ないかもです」


どうなんだろうか?俺にはレベルの差が良く分からない。元服するまで過ごした山小屋の周辺の魔物は魔力資源の量が多いほうが強くしぶとかった。魔物図鑑における魔物の強さランクに照らし合わせて見たが、パッと見魔力が多い魔物は強さランクも上だった。

だが俺が見ている物はレベルではないかもしれない。何せレベルは目で聞くのだ、俺は普通に目で見ているから違う物だと思う。

不意にハレに抱きつくと、真っ赤になった。本当に初心だ。


「まぁいっか。ハレ?お前だけは俺の傍にいてくれるか?」

「何度でも言います。一生一緒です」

「俺の傍から離れるなよ。俺はレベルが見えないから…代わりに教えてくれ」


腕の中のハレは緊張しながらもお安い御用ですと答えた。ハレの顔を見ると何か期待している表情だ。自分から求めるにはまだ資格が無いので俺から襲って欲しいらしい。期待に応えるために服を脱が…

突如結界に反応があったので、ハレから離れて立ち上がりアイテムボックスから簡易的な武装を取り出して装備する。

すぐに着れるチェインメイルを着てから、小さな円形の盾とボターから貰った長い剣を構えて、天幕の外に出る。


{cd/cαll/wαtεr:5_ζtructurε/Fαmliαr/}


周囲の状況を探るために、五体の使い魔を飛ばす。意識を移してはいないので、正確な状況を測れる訳では無いが、使い魔達は充分な結果をくれた。


「ふん…ミツリーボアか」


大きな蛇が天幕の近くまで来ていた。結界に触れているのは10mはある巨大な蛇だ。ミツリーボアは草食だが、大木しか食べない偏食だ。だが、人間に襲い掛かってくる事もある魔物だ。

特別凶暴ではないが、臆病でもない蛇だ。使い魔を蛇の鼻先に向かわせて天幕とは別方向に誘導してやる。無益な殺生はいけないのだ。侵入者は俺の方だしな。だがツリーボアは使い魔に構わずに、ずるずるという音を森に響かせながら天幕の方に向かってきた。

蛇と俺の目があった。魔物といえど蛇に言葉は通じないはずだが、一応問いかける。


「気付かれたか…おい蛇よ、お前が自分のものだと思う縄張りに入ったのは悪かったが…ここは天下の往来だ。お互い配慮しようではないか」

「シャッ!」


やれやれ、どうやら聞く耳持たないか…蛇って耳あるんだよな?やはり俺の前世の知識は中途半端だ。まぁツリーボアのあちこちの鱗には羊のような毛が生えているので地球の蛇とは随分違うはずだ。


「ここは男爵領とボター領地をつなぐ道だ。お前の物でも俺の物でもない」

「シャシャッ!」

「それでもかかってくるか?では死ね」


襲い掛かってきた大蛇との間合いを一瞬で詰めて、首をはねる。流石にいい切れ味だ。剣の拵えも立派だし名剣という奴だ。こんな逸品をくれるとはボターはいい人だ。給料は安いが、この剣は最低でも見習い騎士の年収10年分はするだろう。

蛇の体は首を失ってものた打ち回る。流石に生命力の強い生き物だ。暴れまわって他の魔物に騒音を聞かせたくないので、銀水のヒドラを使って動きを止める。

何の問題もなく静かに事態は過ぎ去った。使い魔達に周囲を探らせるが、音を聞きつけた魔物もいない様子だ。

蛇の牙を抜き、肉は切り身にしてアイテムボックスに放り込む。全身を解体するのは五兵形態でも1時間掛かった。まぁ10mある蛇の解体にしては充分早いと思っておく。

蛇の魂は金貨2枚になった…俺の給料2年分である。

装備をアイテムボックスに戻してから天幕に帰るとハレが鍋を煮込んでいた。天幕に置いておいた食材で何か作っているらしい。今度裸エプロンを着てみてほしくなる後ろ姿だ。そういや下着付けてないのかな、野良着の上からだが下着の線は見えない。


「お帰りなさいませウル様、ご飯はすぐ食べれますよ」

「ありがとう助かるよ。文字を覚える本もそうだが…色々渡しておくから役に立てろ」

「ありがとうございます。頑張って字を覚えます!」


アイテムボックスから母の下着や服とそれらを入れるための袋を取り出して渡す。母の服や下着は高級品なので持ち出しておいたのが幸いした。

下着は日本の物と比べると古風なブラジャーと同じく古風なパンティだが、サイズは合うだろうか?同じ位のサイズに見えるが意外と形とかが違うかもしれない。色はどちらも赤だが気に入るだろうか?俺は気に入っている。というか何でもいいからハレの着替えが見たい。

まぁ性欲の前は食欲を満たさなくてはならないので、敷き布に座って食事の準備をする。

アイテムボックスから2人分の食器とパンを取り出す。食糧の備蓄は元服する前から続けているが、パンは1週間分しかないのでこの先の男爵領の町で補給しなくてはならない。

鍋からスプーンでスープを底の深い皿に取る。スープは山菜と干し肉が調度いい感じに煮込まれており、少し味見したが良い塩梅だ。とても同じ材料で同じ味は出せないだろう。俺の前世は料理人でもなかったらしい。


「旨いな、さて一緒に食うぞ」

「いいんですか?その、騎士の規則とかあるんじゃないですか?下人と一緒に食べていいんですか」

「別にいいさ、お前は俺の女だからな。一緒に食ったほうが旨い」

「はい…いただきます。スプーン?の持ち方はこれで良いんですか?」

「あぁそうだ、食器の持ち方ももう覚えたんだな…えらいぞハレ」


ハレは俺の作法を真似るので、俺も真面目に食事を取らなくてはならない。腐っても王家の血をひく騎士なのだから、恥ずかしくない作法で生きなくてはならないと今更ながら感じた。

ボターの村で暮らした3ヶ月は一人で暮らした所為かてきとうに暮らしていたが、今思えば我ながら怠惰なことだ。何時かはエクターに帰還しなければならないというのに、剣や槍の修業も時間を言い訳にして疎かにしてしまっていた。

まぁ現実に自由に出来る時間は殆どなかったが、それでも暇な日はあったのにサボっていた。我ながら恥ずかしい。

食事をたっぷり取ったので、鍋と食器を洗ってからアイテムボックスに仕舞う。そしてブラシを取り出し歯を磨く、幸い虫歯になる事無く殆どの歯が生え変わったが、手入れは大事だ。ハレも虫歯や歯抜けは無いがブラシでの歯磨きは初体験らしい。今まで何で磨いていたのかを聞くと葉っぱの類だったそうだ。

水は貴重なので本来なら旅で洗い物は出来ないが、俺は魔術で水も火も作れるのでサバイバルでもオール電化並の生活が出来る…そうだ、あとで風呂を作ろう。魔術マジ便利。

食事の後にする事が一通り終わったら、ハレが先ほど渡したブラを手でもてあそんでいるのに気付いた。


「付け方が分からんか?」

「つける…?これ何なんですか?」

「下着だ」

「下着…?女は下着を着ませんが?」

「お前は着ていいんだ」

「はぁ…でもどうやって着るんですか?」


俺もブラジャーの付け方なんて正確には知らないが、まぁ何とかなるだろう。


「とりあえず…脱げ」

「はい…」


電気の光と同等に明るい魔術の炎は昼間と変わらない程明るいので、恥ずかしがる彼女の裸体が良く見える。手で胸と股間を隠す姿は前世の知識にあるどこぞの女神の絵を連想させる。

彼女の後ろに回り、ハレの手をどかしてからブラジャーを着させる。サイズは調度いいようだ。美少女を着替えさせるというのは妙な興奮がある。

さて…ハレは着方を覚えたようだから…今度こそ脱がせ…


「ぐぅっ!!」

「ど、どうしたんですか!?」


成長痛である。まるで誰かにお前にはまだ早いと言われたようなタイミングの良さだ。

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