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ウルファス物語  作者: ろーき
第2章 放浪編
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ボター卿の手で騎士に叙されたこと

オウガを倒した俺はボターに大いに褒められた。


「だが…全てのオウガをお前が倒したとは思えんな…」

「それはそうですね。多分逃げたのもいるでしょう」

「う~んそう云う事じゃないんだけどな…」

「どういう意味ですか?」

「まぁ気にするな、報奨金は弾んでやる」

「ありがたき幸せです。ボター=ガル・ザン卿」


ボターから受け取った小さな袋には銀貨が3枚入っていた。正直言って安い。俺はオウガの魂を金に換えて全て献上したのに…総額は金貨10枚にもなっていた。少しちょろまかしておけばよかったかな。

まぁこの領地は実りが少ないので、真面目に領地を運営するボターには色々出費があるという事も帳簿を見て知っている。ボターは村人の冠婚葬祭を気前善く執り行うので人望に篤い男だ。財布は薄いが。

世間では裏帳簿をつける騎士もいるというが、ボターにそんな様子はない。

今日は特に屋敷の中でする仕事の予定もないし、再度の魔物の襲撃に備えるために自宅待機をするためにいつもの小屋に帰る。何故か小屋の中には美少女が居る。


「何で此処にいるんだハレ?」

「カニさんに教えてもらいました。ウル様に大変感謝していましたよ」

「いや、何でここに居るのか聞いたんだが」

「奉公先の行商人さんが亡くなったので、行く所が無いのでここに住みます。下人として雇ってください」

「いや…俺は下人を持てる身分ではないんだが」

「大丈夫です。今はレベル1ですがすぐに立派な騎士になれますから。ウル様なら大丈夫です」

「レベル…見えるのか?」

「普通に聞こえますよ?」

「聞こえ…?どうやって聞くんだ」


きょとんとした顔のハレは、なんとなく聞こえるのですと教えてくれた。なるほどなんとなく聞こえるのか、それで書物や指南書にレベルの事が大して載ってなかったのか。

俺の見た書物でレベルについて言及があったのは『アナウアとカーデェスの恋物語』位だ。その本にはカーデェスがライバル騎士とのあまりのレベルの差に怖気づく…という微妙な描写しかなかったのだ。読んだ時はてっきり相手との力量を一目見て理解した描写だと思っていた。

指南書や魔道大全にもレベルの解説が無かった事を考えると、あまりにも当たり前の事なので態々説明しないんだろう。だが上げる必要はある。見えなくても上がるんだろうか?


「ハレ、俺の言う事に従えるか?」

「勿論です。一生お傍でお仕えしますから、当然ウル様の言うことは何でも従います」

「そうか、聞いても笑うなよ」

「笑いません」

「俺はレベルが聞こえないしレベルの上げ方も分からない」


ハレはうんうんと頷き、神妙な顔で返答した。


「それでもあんなにお強いのですから、御立派です」

「ありがと、で?どうやって上げるんだ?別に見えなくてもいいから上げておきたい」

「ふふっ、早速お役に立てますね」


ハレは満面の笑みで俺にレベルの仕組みを教えてくれた。

この世界におけるレベルとは、目で聞くものだそうだ…よく分からないがそんな感覚で判るらしい。目で聞くと相手のレベルが分かり、相手の職業──天或いは神から授かるらしい──の業種も同様に判るそうだ。俺は魔術を操れるレベル1の騎士として見えると言われた。

だが細かい職業名は余程の魔力を持った人間でなくては判らないらしい。自由に転職──別に天に与えられた職業と一致しない生業をしても良いので態々転職する人は少ない──する事が出来る人間も極めて稀だそうだ。

思い起こせば書物や指南書には風の騎士とか湖の騎士が一杯出てきたが、渾名じゃなかったのかもしれない。


「で、どうやって上げるんだ?」

「こう…ですね、わーって感じです」


ハレは跳び上がって両手を天に向かって掲げる。胸がプルンブルンバユン…スゴイ。

さて、俺にはゆれる胸は無いが、一応真似をしてみる………上がったかな?


「どうだ?」

「すごいです…一気に80まで上がりました」


本当かよ…励まされているだけかもしれない。何せ俺には見えないのだ。


「そうか、世話になったな。ありがとう」

「良いんです…ウル様のお役に立ててとても嬉しいです」


ハレは涙を浮かべて喜んでいる。俺はそこまでイイ男なんだろうか?俺の実父は少なくとも30人以上の美女と交渉を持ったらしいが…俺もそのくらい魅力が在るんだろうか?

小屋の戸を叩く音がした。


「はい、どちら様ですか?」

「ウルファス殿、ゲンですじゃ、お館様がお呼びです」

「そうか、すぐに行く」


見習い騎士らしい具足を整えていると、何故かハレが横でニコニコしている。


「言っておくが、レベルのことを教えてもらって世話になったからと云って雇うわけにはいかないんだ」

「何でですか?」

「騎士見習いは人を雇えないんだ。金の問題じゃなくてそう云う規則なんだ」

「では…そうですね、ただ一緒に住んでお世話するというのは?」

「それは問題無いが…いいのか?」

「いいんです」


構わないらしいので、俺の言う事はない。乙女には優しくせよという母の遺言だから、彼女の意思を尊重しよう。

何時もの様に屋敷に向かう。赤鬼による村の被害は殆ど無く、村人に死人も居なかった。久々に仕事をやり遂げた充実感がある。それに道路も壊されていないから修繕しなくて良いのは幸運なことだ。

ガルの氏族を表す青い烏の紋章の扉を開け、避難民の声の聞こえる屋敷の中に入る。普段入る事のない場所だからか長居する人が多いらしい。

母屋と門の間の通路にはボター=ガル・ザンの娘のアサイラが居た。相変わらずキリリとした男装だ。


「ご機嫌麗しゅうアサイラさん。相変わらず凛とした美しさですね」

「ウルファス…ふんっ!報奨をねだりにそんな小細工までして、騎士を志す者として恥ずかしくないの?」

「小細工というと…なんでしょうか?それに赤鬼達を倒した報奨ならもう貰いましたが」


彼女は何も答えずに去っていく。大方山羊に乗って村の外に行くのだろう。

まだ魔物がうろついているかもしれないから、気を付けてくださいと言っておくが聞いていない。俺は彼女に嫌われているのだ。

もっとも父親の方も俺にはあまり期待している感じではない。この親子とは相性が悪いのかもしれない。その父親が屋敷の母屋から出てきた。赤鬼の襲撃はとりあえず終わったが、警戒するために全身に鎧を装備して盾も剣も持っている。


「おやウルファス早いな…うん?まぁいいか」

「お召しにより参上いたしましたボター=ガル・ザン卿」

「うむ…実はさっきお主を騎士にするというのを伝え忘れてな」


そんな大事な事を伝え忘れるとは…こいつ本当に第一の槍なのか?そういえば第一の槍がこんな辺境にいる理由は一体なぜだ?険しい山の向こうのエクターを警戒する必要は無いはずだが…いやこの男は確かに強いのだ。疑うのはよくない。

俺はレベルは見えないが、体に纏った魔力でボターはラグに匹敵する騎士だと分かる。俺が会った事のある騎士は2人しか居ないので魔力資源の量が強さに結びついているのかは分からないが、村人よりは遥かに多い。たぶん魔力資源の多寡=レベルだと思う。

俺の目には魔力資源が見えるので、他の人間にもある程度は見えるのではないだろうか?俺がレベルを数字として捉えられないのは恐らく…何らかの欠陥かもしれない。

まぁ丈夫に産んで貰った上に才能に溢れているので母を恨む気持ちなど一切無い。

平伏して騎士らしい言葉を返す。親しき仲にも礼儀ありだ。ボターは雇用主にして俺よりも地位の高い人間だ。昇進の話の時は騎士らしい話し方をしなくてはならない。


「私の耳は狼の如く優れるのですが、時たま主人を喜ばせようとおかしな聞き間違いをするのです。どうぞもう一度お願いします」

「うむ、略式ではあるが正式なる叙勲を今ここに執り行おうと思う」

「御意…では装束を着替えてからまた参上いたします」

「必要無い。魔物どもを倒して村を守ったその装束は、見習いの装束といえど騎士の勲しに相応しい」


ボターが俺の肩に剣を添え、口上を唱える。どうやら本当に騎士にしてくれるらしい。普通、騎士見習いというのは16~8位までは騎士には成れないものだ。

異例な出世…というほどでもない、王子なら元服すればすぐに騎士の位は貰えるものだ。しかも王子なら領地付きである。俺は騎士になれるといっても領地がないので収入源はないのだ。


「オルガ公国第一の槍を賜ったボター=ガル・ザン境督騎士がオルガ公爵ザノビアに代わってウルファス=ベイ・リンを正式なる騎士と叙す」

「…」

「ウルファス=ベイ・リンよ汝は五賢に恥じぬ騎士となるか?」

「…」

「よろしい、抜き身の刃を前にしても身を震わさない態度からも貴公が騎士の素養を持つとこのボター=ガル・ザンは認めた」

「…」

「また一時の喜びにも惑わされぬ騎士の素養も認めた」

「…」

「よろしい、その沈黙こそ騎士の在り方だ」

「…」

「汝に騎士の証としてこの剣を捧げる」

「ありがたき幸せです、ボター卿」

「更に上の身分の立派な騎士を目指すが良いウルファス卿」


恭しく剣を両手で受け取る。これで正式な騎士か…別に強さは変わっていないが、少しは目標に向かって前進しているのだろうか?


「ふぅー終わった終わった。完璧だったぞ、よく作法を勉強してるな」

「ありがとうございます。騎士になったから給料上がりますか?」

「帳簿見てるんだから分かるだろう?悪いがウチにはそんな余裕ないんだ」

「…」


まぁ分かっちゃいたがね。剣をアイテムボックスに入れて立ち上がる。


「それと冒険も授ける。すぐにこの村を出る事になるな、世話になったものに挨拶はしておけ」


冒険とは騎士に課される修業であり仕事だ。魔物を退治したり騎士道を外れた騎士と決闘したりする事が多いらしい。


「冒険はありがたいんですが、村の仕事はいいんですか?魔物があんな風に襲ってくるなんて…嫌な予感がするんですが」

「構わんさ、既に使者を出したから主都からお前の代わりの応援も明日には来る」

「そうですか、なら安心です。明日の夜には出立します」

「別に今日の出発でもいいんだが」

「引継ぎはやっておきたいんです。騎士になったばかりで生意気を言うようですが、そうした方がいいかと思います」

「分かった。ウルファス卿の判断を尊重しよう。俺とお前は実質同格だからな、ワッハハ!」


そういってボターは豪快に笑う。確かにこんな領地では実質領地無しの騎士と変わらないかもしれない。何せ騎士はボターしか居ない。普通の領地は何人か騎士が召抱えられているものだが。

ボターに冒険の内容を聞いたが、まぁありふれた魔物退治である。遠くの森に住む巨獣を倒せというものだ。

騎士になったので色々と必要な準備があるので小屋に帰る。小屋の中からは何やらいい臭いがする。そういえばそろそろ昼飯の時間だと、天頂に輝く真紅の恒星が教えている。

靴の土を払って小屋の中に入る。基本的に靴を脱がないのがこの辺りの習慣だ。扉を開けるとすぐに木製の床なので、日本人の知識がある俺としては靴を脱ぎたい衝動に駆られる。


「ただいま帰ったぞ、いい匂いだな」

「お帰りなさいませウル様…今日はジモラのスープを作りました」


狭い部屋の中でハレが三つ指をついて出迎えてくれた。小屋の中にはテーブルも椅子も無いので、床に座って木製の皿に入ったスープを飲む。

ジモラは野鳥の一種で滋味溢れる出汁の素になるのだが、俺が作った料理よりも遥かに美味い。スープの中にはパン切れが浮いているのがありがたい。俺がやるとネコまんまになるが、このスープはなんとなくちゃんとしたスープ料理に思える。


「ジモラなんて小屋に置いてあったかな?」

「猟師の人から買ってきました」

「ヒャサさんか、幾らだった」

「銅貨5枚でした」

「あとで金を渡しておくからこれからも旨い物を作ってくれ、うむ…旨いな。ハレは料理が上手いんだな」

「子供の頃から下働きの毎日でしたから。ふふ、ウル様に喜んでいただけてよかった」

「さっき騎士になった。お前の予言が当たったな」

「むしろ遅いくらいだと思います」

「俺はまだ元服したての若造だ。一体幾つに見えるんだ?」

「…大人びた雰囲気だからてっきり年上かと…私より3つ下なんですか、それなのにすごく立派です…」


ハレは頬を緩ませている。15才だったのか、それにしてはいやらしい体だ。まだ成長するのか…つばを飲み込む。


「それと冒険も課された。明日の夜には出立するが…ハレはどうする?」

「そうですか、では準備しますね」

「いや、そうじゃなくてだな…俺について来ると死ぬかもしれないんだぞ?」

「もう家族もいませんから心配をかける人もいません。それにウル様のお傍はこの世で一番安全な場所ですから」


そうなのか?むしろ俺は他人を不幸にしてばかりの気がする。彼女の意思は分かったが…何故俺に仕えてくれるんだろうか?

彼女は腹の中が分からないタイプの人間ではなく、正直者に見える。まったくもって典型的な田舎娘に見える。それにしては美しいが、いや田舎娘が美人ではいけないという理由も無いか。


「そうか…一応言っておくが俺は性欲が強く好色なのでハーレムを造るぞ」

「ウル様なら当然の権利だと思います」

「お前を邪険にするかもしれないし、一生貧乏暮らしかもしれないぞ。俺は領地が無いから冒険の最中は無給だ」

「ハーレムの片隅でも旅の空の下でも好いんです。ずっと貴方のお傍に…居させて下さい」


そう言って彼女は平伏して頭を下げた。どうも本気らしい。裏があるようには見えないが、まだ完全に信用は出来ない。俺の出生の秘密を知っているとも限らない。彼女は近在の村の生まれらしいが、確かめる術は今のところない。なにせ電話もインターネットも無いのだから近在の村に確認に行くにも1日作業だ。

それにしても美味いスープだ。明日からの冒険に備えるには調度良い栄養がある。彼女は料理が上手いんだな、それだけでハーレムメンバー第一号としては合格だ。

勿論俺の好みの胸だという事も合格の理由…やはり俺は王の血をひいているらしい。会った事も無いが全くお互いドスケベだ。

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