エピローグ
「この物語は実話を元にした建国神話である…か」
手元にある一冊の本を閉じる。俺の少年期の話はそこそこ面白かった。邪神教団との戦いの終わりが俺の少年期の締めになっている。
「別に苦労はしなかったと思っていたが、こうして読むと結構苦戦していたんだな」
本をアイテムボックスにしまって椅子から立ち上がる。実際この本を読むまでは邪神教団のことなど忘れていた。だがこの本を読むと俺の幼年期の不幸原因はほぼ邪神教団にあったようだ。
「青年期は…ザコクナンの蛮族やらニラガの軍勢の相手か、んー邪神教団より苦労しなかったと思うが、案外本で読むと違っているかもしれないな。続きは何時出るんだシアン?」
山小屋の入り口にいるシアンに問いかける。シアンはバージョンアップを繰り返したので、すっかり人型に成っている。まぁ全身真っ黒の硬質な金属で出来た人間などこの世には居ないのだが。
「それの続編は来年だそうです」
「そうか、それじゃあ生きてはいないな。何せ俺ももう百五十歳だ。来年の桜は見れんよ」
山小屋の前の小さな広場で日光浴をしながらシアンの買って来た本を読むというのがここ三十年ほどの日課だった。それもこの本で最後だろう。
「その作者の本で無くてもマスターの生涯を綴った書物はいくらでも在りますが?」
「まぁな…だがこの本は不思議と俺に馴染む…俺の生涯をこれほどなぞったのは初めてだ」
この本を読んでいると昔の自分を思い出した。ハーレムメンバーがまだ一桁だったころのエロガキ時代…多くの女を抱いたが、思えば最初の妻達以上の女は中々居なかった。
「…ハレ、エレノア=ボガート・ハラン、ソアラリエレン=ヴィラン・ソラヴェイン、ユスティア=アイ・アイラ。そして妹であるアン=ガシャラム…皆良い女だった…」
「懐かしい名前ですね」
「そうだな…みんな俺とお前を残して死んじまった…」
青空を眺める。俺の顔にまだ皺が少なかったころに妻は皆旅立った。皆多くの子供を産んでくれたし俺をとても愛してくれた。
「それに子供…俺の子供も俺より先に死んじまった。ふん…曾孫の葬儀を執り行うとは思わなかったよ」
ちなみに俺は知り合いが居なくなる前に生前葬を済ませた。初代皇帝…王に成ってから十年で皇帝になった。とにかく初代皇帝がずっと生きていては政治に乱れが起きる。と、七代皇帝に言われたのだ。彼が皇帝に成った頃にはチオもアガトもカニクリも死んでしまっていた。だから良い区切りだと思って自分の葬儀を済ませた。その日にはウル帝国中から人間が集まり、年老いたハレが喪主をしてくれた。喪主と言っても既にハレは寝たきりだったので名前だけの喪主だった。そして葬儀を済ませた三日後にはハレも息を引き取った。俺の妻では彼女が一番長生きした。最後の妻も死んだので俺は幼い頃修業した山で隠棲する事にした。
現在でも生前葬の日は国民の休日になっているようだ。
「お、飛空船だ。珍しいなこんな所にまで」
空の上には飛空船が飛んでいた。幼少期を過ごした山脈の麓の山小屋の辺りは現在では過疎化が進んでおり、近くの村も消滅したので滅多なことでは人は来ない。
「観光かねぇ…凄い時代になったもんだ」
「マスターの御力によるものです」
「ふん…俺のしたことなど大したもんでもない。力で国を押さえただけだ。それも個人の武勇でな。食い物にしても魔術で独りよがりな方法で造っただけだ」
実際俺は少年期にて行っていた牧畜や農業は間違いだらけだった。ゴウクラトプスや超麦の栽培は農家のやり方──例えば角竜は発情期があり、その時期に相性の良い雌雄を小屋に入れる。そうしないと生殖行為をしない──を取り入れるほどに伸びていき、右肩上がりに収穫量が増えたのだ。やはり俺の知識など大した物ではなかった。
「マスター以外に出来る人は居ませんでした。そしてマスターが行動したからこそ現在があるのです」
「そうかもな…静間宗太郎ことウルファス=ガシャラムが産まれた意味は…この現在を創るためだったのかもな」
俺がこの世に転生したのはそう云う意味があったのかもしれない。最近は死期が近い所為か前世の記憶が蘇ることが多い。死ぬほど不幸だったと思っていた前世の日々は他愛無い光景として今の俺の目に映る。もしも今の俺…いや前世と同じ年の俺だったのなら前世のような過酷な状況でも耐えて幸福に成れただろう。いや…俺が幸福になれたのは支えてくれた女達が居てくれたからだ。二人の母と俺の旅を支えてくれた女達…そして国の発展を支える頭の良い子を産んでくれた女達…みんな美しくそれぞれ違う魅力を持っていた。俺は女に支えられて立っていたのだ。
「静間…宗太郎…前世は不幸だったが…俺の生涯は幸福に満ちていた。あぁ…二回分の生涯だが間違い無く七生を生きても手に入らないほどの幸福だった!」
俺はそう叫んだ。最期の叫びという奴だ。景色が暗くなってきた。どうやらもう死ぬらしい。まぁ大往生だ。視界が完全に闇に包まれた時、辺りに光が産まれた。光の中には俺の妻達が一番美しかった頃の姿で浮かんでいる。
「お久しぶりですねウル様」
「待たせたなハレ」
「本当に待ちましたよ陛下、百三十年振りです」
「エレノア…あの日俺を庇ってくれて感謝している」
エレノアの胸には大きな傷痕がある。俺をニラガの魔術から庇ってついたものだ。傷があってもエレノアは変わらず美しい。
「臣下の務めですから」
「ウルファス…やっぱり妾の子供が皇帝に成りましたね♪」
「俺とお前の孫だソラ。子供じゃない。まぁ確かに優秀だったがな」
ソラと俺の孫は実力で四代目皇帝の推薦を受け、俺の子孫では始めて皇帝になった。大変優秀で、俺は時の流れで評価が変わり暴虐の帝と呼ばれたこともあったが、彼は生涯を通して治帝と呼ばれ国民に愛され、死後も評価は変わらずに慕われていた。
「御主人様~ずぅっとお待ちしてましたのよ?」
「遅れて済まんなユスティア。ところでお前は后の一人だったんだから御主人様と呼ばなくてもいいんだぞ」
「うふふ…今更遅いんですよ御主人様」
ユスティアは俺の頬にキスをした。久々の接吻である。最後にしたのは…俺の権力を利用しようと近づいた馬鹿女が最後だからもう四十年も前だ。だがユスティアのキスはそれと比べ物にならないくらい心地良い。
「お疲れ様でしたお兄ちゃん」
「アン…久しぶりだな」
アンは出会った時と同じ位幼い姿であった。この姿のアンも抱いたが大人になったアンも良い抱き心地であった。
「お兄ちゃんが私のお母さんに浚われたから、お兄ちゃんの物語が始まったんだよね」
「ふむ…そうとも言えるな」
「愛しいウルファス…私を覚えていますか」
「ふふ…後ろを見てお兄ちゃん♪」
後ろを振り向く。裸のアンリエットが居た。両手で胸を隠している。だがむしろ俺を興奮させた。
「勿論です母上、百三十八年振りですね」
「これほどに綺麗な人に囲まれて…私のからだ…変じゃないですか?」
どこも変なところなど無いので凝視する。そういえば最近老境著しいので筋力が衰えていたことを思い出した。俺の身体こそ皺だらけで皮も伸びて恥ずかしくないだろうか。と、思ったら俺の体は昔の姿であった。一晩で百人の女を相手にした頃の姿である。腹も割れているし逸物も立派だ。
「ウルファス?何を考えているのですか?」
頭上から新たな声がしたので上を見上げる。俺の産みの親が堂々とした姿で腰に手を当てて大股を開いている。胸は小さいが本当に美しい母親である。
「母上様…本当にお久しぶりです」
「答えなさい。どうせよからぬことを考えているのでしょう」
「まぁ…裸なのでまる分かりですね」
裸の美女に囲まれているので裸の俺はちょっと目立つ感じになっている。まぁ仕方ない。
「そんなことよりもここからどこに行けば良いんですかね」
「「「「「「誤魔化すな」」」」」」
美しい合唱だ…耳が幸せだし俺に詰めよって来る美女の群れに目も幸せになる。
「ウル様、ここで話すのもなんですから昇りましょう」
「昇る?」
「陛下ならすぐに分かります。昇る最中私の死んでいた頃のお話もお願いします」
「エレノア様、妾も孫のお話を一杯したいんですが」
「ソラちゃん、わたくしも御主人様とわたくしの子供の話をしたいんですがよろしくて?」
妻達は口々に喋っている。妹と二人の母は遠巻きに眺めている。ちょっと俺を見下した目だ。仲良くなっているのは嬉しいことだ。アンとアンリエット、そしてサシャンセルが一緒に居たことなど俺の生涯では無かったのである。
「そうだな…まぁゆっくり喋るとしよう。何せ百五十年も生きたんだ。喋ることは腐るほどある」
空に昇る途中次男坊の結婚式で飲んだくれた男の話をしながらあることを思い出す。シアンも何時かここに来るのだろうか?とにかく俺は幸福なまま天に昇った。高度が上がるたびに新たな女達がやってくる。俺のハーレムの女たちである。彼女達も想像を絶するほどに美しい。国中から集まった美女達である。身分の差も個性も様々で中には異種族…エルフやヴァンパイアも居る。皆タイプの違う愉しみを俺に提供してくれた者だ。
再び転生することがあったとしても…その世界がどんなに辛い世界でもこの思い出があれば幸福に生きていけるだろう。
完結しました。読んでくれてありがとうございました。




