ブカドハムラの策略は的を射た
ウルの国境に魔物の群れが襲来したのは七月の頭の昼前であった。エクター王都にチオ他多数の騎士を割いたので防衛力は低下していたのが原因であった。国境線は魔物の群れに侵されたのだ。
「まぁボラートで鬼の群れなんて皆殺しだけどな」
俺はリュウに乗って空の上から戦況を見渡していた。ボラートはトロルやオーガの混合の群れをその6本の腕で薙ぎ払っている。ボラートの腕が振られる度に魔物は赤い霧となる。大人と子供というよりは戦車と子犬と言った戦力差である。
「ガォウン」
「あぁ分かってるよ。これは恐らく邪神教団の仕掛けだ。油断はしない」
まだブカドハムラも葬雷も出現したという情報はない。しかし捜索はやっておく。ここらで因縁を絶っておきたい。
「シアン、お前自身と使い魔…総動員して探せ。今日は他の仕事をする必要は無い」
「リョウカイシマシタマスター・マスターニタテツクマモノニンゲンヲサガシテコロシマス」
「あぁ、今日こそ邪神教団を始末する。奴らを殺して初めて俺の復讐も終わる」
シアンの使い魔は俺の肩から飛び立った。下を眺めるとボラートが鬼の群れを殺し終わったのが見えた。国境線に配置した一体のボラートは三百頭を超える鬼を十分で殺した。恐らく他の国境警備のボラートも同様の戦果だろう。
鬼が単調なリズムでボラートに向って行ったのもあるが、ボラートが強力だから簡単に勝てたのだ。鬼は一頭残らずボラートの経験値になったようだ。まぁロボットはレベルアップはしないのだが。
「さてリュウ、あそこにある魂をロボットにするか。汎用型を半分と人間を殺す用のを半分造るか。人間を殺す用途のロボットも必要だからな」
「ガオゥン!!」
「ん?太陽の向こう…ほぅ」
太陽の方向を見ると蜥蜴の頭と鷲の体を持った怪物が居た。ライノコンドルの群れである。数は…五百以上だろうか?俺の視界に映る青い空が一割ほど気色悪い魔物で占められている。さっさと一掃するとしよう。周囲の魔力資源をスフアソラに集める。
「さて…あれを殺せば残りはどの位かな?まぁ邪神教団が出てくるまで殺し続ければいいだけだ。リュウ、翼を畳め」
「ガォウン」
リュウは翼を畳んだ。その為リュウはゆっくりと自然落下する。スフアソラを両手で構え、事前に取り出していた十枚の金貨を魔力に変換して大量の魔力をスフアソラに集める。スフアソラは膨大な魔力資源で光り輝いている。
「それでいい。この技を使うとお前といえども飛んではいられないからな『嵐は吹き荒れる時も場所も選ばない』」
スフアソラを魔物の群れに振るうと、普通の人間にも見えるほどの魔力資源の奔流が生み出された。昼の青空に魔力資源で作り出された異常なる光が太陽の光を食う程に表れた。光は大気をかき回し青空に場違いな嵐が吹き荒れた。そして光の波が収まり嵐も収まった頃には雲も魔物の群れも消えていた。
「さてリュウ、掃除も終わった。魔物の魂を浄化しに行くとしよう」
「ガオゥンン!」
リュウは再び羽ばたいた。ライノコンドルどもの魂の浄化は時間がかかった。何せ総計六百十頭も居たのだ。それが終わったので地上に降りてボラートの殺した魔物の群れの魂を浄化する事にした。ボラートは全身血まみれであった。まぁボラートは何時も魔物を殺しているので、血がこびり付いている。偶には洗浄してやるとしよう。何せ俺の代わりに国境を守っているのだ。
「ごくろうだなボラート四号、その血まみれの姿こそお前の勲だな」
「……………」
「ふむ、そうだ。今度全身を洗ってやろう。嬉しいか?」
「…………」
「バージョンアップの方が良いか?飛べる様にしてやろうか?」
「………」
ボラートは喋れない。というか意思は無い…筈だ。シアン以外は意志を持たせない様に造ったが、勝手に意志が目覚めても困るので偶にこうして確認する。どうやら意志は目覚めていないらしい。これからも時折チェックしよう。
魂の変換を行っていると上からばっさバッサという音が聞こえてきた。
「エレノアか」
「ご無事ですか陛下?」
エレノアが自身の飛竜に乗って応援に来たらしい。
「実は股間を…」
「陛下、先程の光の波は陛下の仕業ですか?」
普通に無視された。だが兜から覗く顔がちょっと顔が赤い。俺がガニ股で股間を指差しているからかもしれない。
「あれか、あれは俺の技だ」
「魔物は何体退治なされましたか」
「俺自身の手で殺したのは六百十体だ」
「念のためレベルアップをなさって下さい」
レベルアップ…ステータスが上がるわけでも無いのにやる必要も無さそうだが。とはいえ可愛い騎士の頼みなので久々のレベルアップポーズを取る。腕の紋章は画数が増えすぎて数え辛い。面倒なのでエレノアに聞くとしよう。
「幾つになった」
「…多すぎて分かりません。上げるのは何時以来ですか?」
「さて…最後に上げたのは…チオが国に来る前だから三~四ヶ月前だな」
俺がレベルアップを行うのは、だいたいエレノアに急かされてからなので、そのくらい振りなのだ。なにせこの数ヶ月は互いの仕事が忙しかったころもあり世間話もしなかった。
「ふぅ…陛下は怠け者ですね。ちゃんとレベルアップはしておいて下さい。いざという時困りますよ?」
「お前が尻を叩いてくれれば俺も上げる気になるのだ。それに上げてもステが上がらんだろうに」
「また意味の分からないことを…それと陛下が何時も叩く側です。私が叩いたことなどありません」
そう言えばそうだった。俺は叩かれたことはない。今度叩いてもらおうかな?案外気持ち良いかもしれない。
「ところでエレノア、何しにきたんだ?」
「応援です」
「そうか、邪神教団を探しているが…居ないかな?」
「今の所は」
「なら…別々に探すとしよう。見回りも兼ねてな。俺はここから時計回りにウルの国を飛ぶからお前は反時計回りに回れ」
「時計…日時計のことですね。了解しました。私は魂の浄化が出来ないので一旦ハレと合流します。その後でここに戻ってから飛ぶことにします。連絡は使い魔で行いますか?」
「そうだな、俺は一時間でポイントを一つ回るから連絡がある時はそれを念頭に入れて連絡をしろ」
一時間で六十kmを飛ぶことに今決めた。これでおおよその位置は分かるだろう。分からないかもしれない。
「御意、では陛下。余り深入りしないで下さい。陛下に死なれたら死なねばならないものは多いのです」
「俺が死んだら…いや、俺は死なない。まだ満足していないのだからな」
「陛下…もしやまだハーレムに入る者を増やす気ですか?」
「そうだ」
「はぁ…私は兎も角、ハレとソアラリエレン様は良く思いませんよ」
ユスティアはどうなんだろうか?やはり一段低く見られているのかもしれない。早く子供を産んでもら
って正式な妻になってもらおう。口実というのは必要だ。俺が望んだからと言ってすぐには妻には出来ないのだ。
「とはいえ…今更陛下の好色は直らないでしょうが、せめてこれだけは約束してください」
「内容に由るな」
「約束を守らなければ刺されますよ。というか私が斬ります」
「分かった。守るよ」
刺されるのも斬られるのもごめんである。
「一つ、一人一人に割く時間をこれまでと変えないこと」
「ふむ…いままでと同じ時間…二人同時とか三人同時とか四人同時とかの時もあったがそれはどう換算す…」
「二つ、私達が醜くなったとしても捨てないこと」
醜く…?つまり妊娠のことを言っているのだろうか?それ以外にも色んな要因が考えられる。怪我とか病気、老化だろう。とはいえ俺の魔術を使えば不老長寿は思いのままなので問題無いと頷く。心が醜くなるということは勘定には入れない。俺の妻達は少し余計な気を回す傾向にあるが、とても良い子達だ。皆俺より年上なのも関係しているのかもしれない。
「最後に…ハーレムの人間全員を均しく愛してください。最近は…ソアラリエレン様に御執心みたいですが、そういうことは止めて下さい」
「分かった。ウルファス=ガシャラムの名、そして母サシャンセル=エクター・ロデイの名、養母アンリエット=ベイ・リンの名に誓おう。お前の三つの願いは守る」
「ではハレ、ソアラリエレン様、ユスティア、そして最近お尻が気に入っているらしい女官のポゥラ。最後にアン様にも陛下が今の三つの願いを守ると伝えておきます」
エレノアは俺がポゥラの尻を眺めたり揉んだりしているのを知っていたらしい。しかし最後に言った名前は…ハーレムには関係ないだろうに。
「アンは関係無いだろう?」
「アン様は陛下に抱かれたがっています。私以外にハレもソアラリエレン様もユスティアも…更に言えばアン様の世話をする女官達も気付いていますよ」
「いや…それは拙いだろ兄妹だぞ」
「血縁ではないのですから大丈夫でしょう。それに陛下がお助けした命ですから、陛下の御自由になされても大丈夫です」
そんなもんだろうか?確かにアンはアンリエットに似ているので時折劣情が抑えられなくなる瞬間が訪れる事もある。これ以上アンリエットに似ると我慢できなくなるかもしれない。父親と俺は女の好みが似ているのだろうか?それで我慢できないのか。
エレノアは俺の心を波立たせることを言ったらすぐに竜を飛び立たせた。
「アンが…ねぇ…やっぱり兄弟だし…拙いだろう」
「いいやお前にはお似合いだぜ偽王」
遠くから声が聞こえた。六時の方向を振り向くと八百mほど遠くにケンタウロスが居た。あんな遠くなのによく声が聞こえたな。下半身が馬で上半身は鎧を着た人間である。いや、全身を覆う鎧なので人肌が見えない。鎧の下は人間のモノではないかもしれない。
「お似合いって何がだー?」
聞こえるように大声で叫ぶ。
「お前みたいな偽王族には近親相姦がお似合いってことさ。その神聖武器はおまえには似合わないんだよ!」
ケンタウロスは俺に向って一気に駆けた。全身に紫の雷を纏っている。成る程葬雷の名は伊達では無いらしい。雷で葬るのは意味が今一意味が分からないが、葬火が焼死させていたからこいつは感電死させるとかそんなノリなんだろう。
「お前には恨みはないが…俺の家族を殺し、俺を不幸にする原因を作ったのはお前の組織だ。今は幸せだが恨みは消えていないからな」
「ほざけっ!」
ケンタウロスは恐ろしい速度で迫ってきた。目の前に来た瞬間にスフアソラで薙ぎ払う。ケンタウロスはその瞬間大きくジャンプして俺の上を跨いだ。流石に馬並だけあって跳躍力が在る。
「見たか!お前みたいなのろまなやつに斬られる俺じゃない!そうだ…俺の方がずっと…ずっと優秀なんだ!」
「…この台詞を言う日が来るとは思わなかった。お前は既に…いや言わなくても良いか。とにかくお前はもう斬った」
「何を…ギャッ!」
ケンタウロスの馬の部分と人間の部分を切り離してやった。
「のろまねぇ…お前の速度は俺から見れば止まって見える。空挺ドレイクの方がずっと早いくらいだ。これもリュウに乗り続けた成果かな?」
「ガォアウン!」
上空に滞空するリュウは喜びの声を上げた。実際俺はリュウに乗り続けて高速戦闘を経験していた事もあり、ケンタウロスは止まって見えた。そしてすれ違い様で攻撃を浴びせるのにも慣れていたので容易にケンタウロスを攻撃できた。ケンタウロスはかわした積りだったのだろうが、ぎりぎりだったので避けられなかったのだ。
「さて…では喋ってもらうぞ。ブカドハムラはどこだ?奴を殺せば俺の復讐も終わる」
二つにしたケンタウロスの人間の身体の方に向ってゆっくりと油断無く歩く。
「けっ!知るかよ!あいつとは三年会ってないんだよ」
「元気だな。それならこれでどうかな?」
ケンタウロスの右腕をスフアソラで切り裂く。
「ぎゃっ!」
「何だ痛覚はあるのか、嘘は言っていないな?」
「てめぇ…俺を誰だと思ってるんだ!本当の王だぞっ!お前なんかとは違うんだぁっ!お前が弓矢で追われて無様に平原を回った三年間だって知ってるんだぞ!本当なら俺が王に…あいつらは約束したんだ!俺がお前を殺したら昔みたいに俺を褒めてくれるって…なのにお前が国を造ったらそっちに行きやがった!」
「お前の話なんて知るか」
ケンタウロスの首を刎ねる。どうやらボゥギと違い再生しないようだ…転げ落ちた頭から兜が外れた。見覚えが…誰かに似ている。アンに…いやアンリエットに似ている…アンかアンリエットが男ならこんな顔だろう。途端に胸に痛みが走った。
「ぐぁっ!!」
『ギャガッキンッ!』
胸に痛みが走った瞬間スフアソラも砕け散った。一体何が…胸の痛みはあまりにも激しいものだったのでその場に倒れこむ。
「ガァオウン!?」
上空のリュウも心配しているらしい。下りてきたので手を伸ばしたが、俺の手は蛇の腕で払われた。
「困るのですよ。今助けられてはね」
「ブカド…ハムラ。何故ここに…」
「ふむ…貴方が弱る時を見計らって隠匿の魔術で隠れていただけです。葬雷のナスナチクトは最後の切り札ですからね」
「ナスナ…チクト?」
「そうですね…では種明かしを…」
「ガォウン!」
リュウはブカドハムラに襲い掛かった。
「よせ!お前では勝てん!」
「その通りです。少し大きいようですが、結局は騎乗動物である飛竜。私には決して勝てません」
ブカドハムラはローブを脱ぎ捨てた。ブカドハムラの身体は一言で言うと奇妙であった。二本脚は人間と変わらない構造だが、上半身が異常である。腰から上にかけて十本以上の長い蛇が蠢いている…そしてそれらが全体のシルエットとして人型を形成している。
蛇の内一本が躍動し、象ほどの大きさのリュウを吹き飛ばす。戦力の差は俺の思っていたよりも大きかったようだ。恐らくリュウの肋骨は五本は折れてしまっただろう。リュウは平原に響き渡るような大きな声で鳴いた。そしてドスンという大きな音が遠くで聞こえた。リュウは小さな声で鳴いているので生きているようだ。
「ではゆっくり話すとしましょう」
「可愛いペットを痛い目見せた奴と…話が出来るかよ」
「どの道動けないでしょうに、まぁ我が勝手に話すだけです。黙って聞くなり相槌打つなりご自由に願います」
確かにブカドハムラの言うとおり俺は全く動けない。何故だろうか?兄弟を殺してしまった胸の痛みとは思えない。俺は何人も直接・間接問わず殺している。今更兄弟だからといって動け無くなるほどの心の激痛に襲われるのはおかしい。
「その胸の痛みはね。お前が家族…というよりはスフアソラを持つ資格者を殺したことが原因です」
「魔術…セーフティーか?」
「えぇ、聖なる武器…いえ神聖武器ですか。兎に角もはや壊れてしまったスフアソラですが、あれはね、魔王を倒す為の武器だったのですよ。もしもそれを使うものが簡単に人を殺す精神性を持っていては拙い。とはいえちょっとした手違いで人を殺すことは有るかもしれない。それで資格者を殺した際にのみ発動する呪いを掛けてあったのです」
「魔王…?」
そんな者が居るのかこの世界には。なんともRPG的である。
「真魔道大全を読み解き、マの最期の地を訪れたのなら魔物の正体はある程度ご存知でしょう?奴らは元は人間に奉仕する為に生み出された存在です。そしてその管理者こそが魔の王です」
「ふん…要点を言え」
「要するにです。神聖武器は古代文明で言うワクチンなのです。異常行動に走った魔物を正常なる人間の奉仕道具に戻すのです。神聖武器は一撃で魔物を殺せる力なのですよ。魔物を無垢なる魂に初期化し、人間の道具に戻す力です。魔王さえ一撃で殺す…正常化することの出来る武装です」
「それを壊すのが…お前の目的?」
「その通り。そして魔王は魔物が野放図に生まれ続ければやがて生まれます。エクターに人間狩り及び魔術師狩りをさせていたのは人間から魔物を狩る力を奪う為だったのですよ」
何のためにそんなことをするのだろうか?そもそもこいつの目的が分からない。
「お前…何者なんだ?」
「それはこちらの台詞…ですがこちらから告げるとしましょう。我はカリグスの産まれです。長い時を生きる魔術師ブカドハムラです。この名は私の師であるマが名付けました。何でも古代文明の高名な人間の名を組み合わせたものだとか」
「長生きだなお爺ちゃん。それで?この世をなんで暗闇だが混沌だかにしたいんだ?」
そんな行動に意味があるとは思えない。
「そうですね…その前に、貴方はこの世界をどう思いますか?古代文明の時代からやってきた時の来訪者よ」
「俺の前世は…この星の人間じゃない。古代文明の時代とは関係無い」
「魂は千里を越える。それだけのことです。古代文明はそれを利用して星の海を渡ったとか。貴方の魂もそうしてこの世界・時代に転生したのでしょう。それよりも質問に答えていただきたい」
千里を越える…意味が分からない。いや意味を言うならこの世界の意味も分からない。便利な魔法があるのに大して発展していないし、人間は俺の前世の時代に比べればボロ布を着て粗末な食事を摂っている。戦争は未だに鎧を着てやっている。俺なら魔術師を教育して砲台や爆撃機代わりに使うのにそんな部隊がある国は古今東西無いそうだ。
「質問か…この世界は…発展途上だな」
「もう少し正直に願います。野蛮でしょう?滑稽な程文化が無いでしょう?人権意識も低いでしょう?すぐに人を殺せと言うでしょう?貴方も王ならばそんな意見を毎日の様に聞いているはずです」
「確かにお前の言うようにこの世界…いや時代は…」
「時代…違いますね。この世界はずぅっ…とこうなのですよ。古代文明がこの地を旅立ち、この星に残された劣等連中はずぅっと古代から中世を繰り返している。マの調べと我が各地を廻って調べた確かな情報です。」
「繰り返す…?」
「その通り。偉大なる我が師マはカリグス帝国に古代文明の技術を提供した。十年で産業の自動化が行われるほどの力、貴方の使うロボットです。だがそれほどの力を使っても成長しない。近世程度の文明・文化にさえならない。自分達だけでは電気や自動車を発明することさえ出来やしない。だからこそこの身体となり悠久の命を得たのです。第一段階は影から国を操り国の興亡を操作する!第二段階は遍く国に技術を渡す。そして競争によって世界を古代文明にも劣らぬ真の文明社会にするのです!」
こいつはかなり古代文明…果たして地球と関係しているのだろうか?兎に角古代文明を信奉しているらしい。確かに良い面だけを見れば古代文明も良いところがあるのだろう。こいつはその良い面を熱烈に信奉していて、今の人間を不甲斐なく思っているのだろう。
「だが…古代文明にはハレもエレノアも居ない…今生きている俺も地球には居なかったんだよな…悪いがお前の同士に成る気は無い」
アイテムボックスから剣を取り出して杖代わりにして立つ。
「来い!ボラート四号!」
大声で叫ぶと巡回していたボラートはすぐに俺の元に来た。流石に四本も足があるので早い。
「そいつを殺せ四号!」
「無駄ですよ、ウルファス=ガシャラム。そのロボットの元になる術式を組んだのはわが師です。当然弱点も知っています」
確かに四号は襲い掛かる様子が無い。ロボットの弱点…あれだろうか?
「なるほどハッキングか?それでロボットのコントロールを奪ったのか」
「意味の知らない言葉ですね。実に興奮します。我は何もしていません。ゴーレムことロボットは魔物も生き物も殺せます。しかしどちらでもない物は殺せません」
「…?どういう意味だ?」
「ゴーレムは魔力で物を見分けます。我は人間の性質と魔物の性質両方を持っています。それはどういうことか?ゴーレムは我を死んでいるか生きているのか判別出来ないのですよ。この身体へと進化したのは長生きして文明を発展させる為でしたが、ゴーレム対策になったのは予期せぬ幸運でしたね。さて教えていただきたいのですが、ハッキングとはどういう意味ですか?教えていただければ身体を縛る呪いを解き、魔物の魂と貴方の魂を混ぜて同士にしてあげましょう」
「さ~てどう言う意味だったかな~くくっ」
「…?何故笑うのですか?」
どうやらこいつは余り頭が良くないらしい。
「そいつを砕け四号!原型の残らないほどにな!」
『グチャ!ドゥッゥン!』
「グユアヤグヤ!!」
ブカドハムラは凄い声を上げて潰れた。
「生き物じゃないなら…砕けと命令すればいいだけだ。油断し過ぎたな」
「ふ…ふふ…確かに油断し過ぎました。流石は…古代文明からやってきた来訪者…野蛮人と違い、発想力がある。貴方なら…この世界を黄金時代に…我の願いを…叶えるでしょう…やはり貴方は同志ですね」
ブカドハムラの蛇の頭の一つはまだ生きていたが、四号に下した命令は終わってはいなかったので、ボラートの太い腕は何度も何度も地面を叩きつけ、ついには血痕さえ無くなった。ブカドハムラの魂を変換すると金貨百枚になった。以外と少ない。
「黄金時代ね…俺は美しい嫁さんに囲まれて…既に充分幸せだ!」
高らかにそう宣言すると、全身の痛みから倒れこんでしまった。ばっさばっさという音が聞こえる。空の向こうからエレノアの乗った飛竜が飛んできたのが分かる。良くみるとハレもソラもユスティアも乗っている。
彼女達が俺の下に駆け寄って来た。
「大丈夫ですかウル様!」
「大丈夫だハレ、頼むから泣くな」
そう言って右手でハレの頭を撫でてやる。不思議とさっきよりも身体の自由が利く。
「陛下…ご無事ですか?すぐに帰還します!」
「ゆっくりでいいさ。俺の敵はもう居ない」
そう言ってエレノアの涙を左手の指で掬う。指先も問題無く動かせる。
「ウルファス…胸騒ぎがするから仕事を放り出して駆けつけました」
「ふむ…確かに胸が騒がしいな」
そう言って跳び上がって正面にいるソラの胸に飛び込む。柔らかく良い匂いに包まれ至福の時である。
「御主人様…満足そうなお顔…」
俺の顔は見えないだろうにユスティアが背中に抱き付いてきた。
もう身体は元気満々である。体中問題無く動かせる。呪いはキス無しでも解けたらしい。日頃沢山キスをしていたお陰か。
ソラの胸の中で復讐が終わったことを思い出した。懸念する事情が終わったので俺は…この世界が以前よりもずっと好きになれた気がする。これからも俺の前には困難が訪れるだろう。しかし俺の可愛い妻達がこうしてくれればすぐに元気になる。俺はこれから先も間違い無く幸福だ。




