故郷の鎮魂は七日七晩行われた
「大きくなったなぁ~最初に見た時はこ~んなに小さかったのに」
「う、うるさいっ!はなせっ!」
エリトの娘は右足を摑まれたまま興奮して暴れている。
「そうか、そこまで言うなら離すとしよう」
「きゃっ!」
手を離すとエリトの娘は転んでしまった。
「すまんな、大丈夫か?」
手を差し伸べたが払われてしまった。
「そういえばまだ自己紹介もしていなかったな。俺は君のお母さんに育てられたウルファスという者だ」
「…知ってる。お父さんを殺そうとした忌み子でしょ?」
「忌み子ね…まぁ大体あっている。ところでエリトはどうなった?」
娘は沈んだ顔をしている。どうやら死んだらしい。俺の産まれる前に死んでおけばアンリエットも苦労せずに生きられただろうに…その場合俺はどんな人生を歩んでいたのだろうか。
「そうか…今度エクター王国民を弔うことになるが、お前の両親もその時弔うとしよう」
「…あんた優しいの?それとも怖いの?どっちなの?」
「妻達には両方言われるな、さて君の名前は何て言うんだ?兄妹の誼で教えてくれよ」
「アンよ、ただのアン」
アンは立ち上がって仁王立ちで自信満々で答えた。
「そうか、良い名前だな。エリトが付けたのか?」
「そうよっ!」
「アン、どうしてオルガの旗印になってたんだ?」
「ふんっ!私が王家の血を引く高貴な女だからに決まってるでしょう!」
アンは無い胸を張っている。どうも事態が飲み込めていないようだ。まぁまだ12歳くらいの筈だからその位の状況判断能力なんだろう。
「アン、お前はエクター王家の血を引いていない。何を聞かされたか知らないがアンリエットは俺の父親に手篭めにされただけで後宮に入ったわけではないから王族ではない」
「知ってるわよ。それでも私の存在で平原の人間が集まってくれるってオジサンが教えてくれた!今の平原には王様が必要なの!」
「オジサン?誰だ?」
「オルガ公爵のオジサン」
あの美形男もアンからすればおじさんか。まぁ一回り以上年が違うからオジサンなのは確かである。どうもよからぬことを吹き込まれたらしい。
「アン、お前の志は立派だ。だが王族の義務は知っているのか?」
「ふん!戦に負けたらどうなるか位知ってるわよ。私を殺す気なんでしょう?」
「家臣どもがそう決めればな。俺にそんな気は無い。とはいえ…お前の状況は不利だ」
握った右手をアンに示して人差し指を立てる。
「第一にお前はエクター王族でもないのに王である俺の血縁を名乗った。これは旧エクター王国の法に照らし合わせれば死罪である」
続いて中指を立てる。
「第二にお前はオルガの軍勢と通じて無辜の民を戦場に送り込んだ。これも法に照らし合わせれば死罪だ」
最後に薬指を立てる。
「最後に…お前は旗印にも関わらず戦場にも出ずに負けた。これは何をされても仕方ない。もう一度聞こう、お前はどうするんだ?」
「…どうなるの?」
怯えた顔をしている。現状を説明されてようやく事態を把握できたらしい。昔…アンリエットもこんな顔をしていた。俺が山の中腹で修業に向うことになり別れた日だ。この世の終わりのような顔をしている。
「一族郎党処刑だ。本来ならばな、ところで…俺と血縁にあるとは誰に吹き込まれた?」
「お…お父さんが…言ってた。私のお兄ちゃんは…王様に成ったって…」
はて、俺が王に成ったのはつい三ヶ月前である。
「エリトは何時死んだんだ?俺が王に成ったのはつい最近だぞ」
「王都に帰ってきた時に…お腹壊して死んじゃった…うわーーーん!」
泣き出してしまった。天幕の外に居た護衛の兵士が入ってきた。
「陛下…どうぞご安心ください。中で何があろうと決して他言はいたしません」
兵士はそう言って天幕の外に出た。なんか勘違いしている。泣き続けるアンを何とかなだめて話を聞くことに成功した。彼女はエリトと共に平原を長年放浪していたが、王家の血を引く人間ということを利用して各地の領地で豪農や騎士などから旨い汁を吸っていたらしい。エクター王家の名声は地に落ちていたと思っていたが信奉者も居たらしい。
そして何時の日か豪農や騎士を集めて決起をしようとしていたが、俺がウル太平国を建国したので焦ってオルガと結びついたそうだ。だがエリトはオルガ公爵との宴会でキノコを食って食中りで死んだそうだ。毒殺かもしれないが調査する気は無い。
「それにしても…俺は三年間平原を飛んで王国民を捜しまわっていたのだぞ、なのにお前達どこに居たんだ?」
「ぐすっ…お兄ちゃんが…飛んできた時は…いっつも隠れてたの…お父さんが…お兄ちゃんを怖がって…ぐっすん」
アンの頭を撫でてやる。少しは落ち着いてきた様子だが、かなり怯えてしまっている。
「大丈夫だ。お前は殺させない。アンリエット母さんの分まで生きていて貰う」
そう言ってアンを抱きしめてやる。
「痛いよ、お兄ちゃん…でもすっごく安心する」
鎧を脱ぐべきだったかな。まぁ今更遅い。アンリエットは不幸なまま死んだ。そして俺の立派な姿を見ないで死んだ。アンリエットに似た少女には長生きしてもらいたい。どの道俺の後継者は俺が決めるのだから後継者争いに彼女は無関係だから殺す理由も無い。
泣き止んで寝てしまったアンをアイテムボックスから取り出したベッドに寝かせてから天幕に帰って会議を続けた。恩賞をチオを含む百人隊全員と補給部隊の長であるエレノアに与えることに決定した。会議も既に大詰めである。
「では陛下、戦場の処理も終わりましたし、弔いの儀式の日取りを決める前に処刑の審議を行いますか」
チオは厳しい顔でそう言った。
「チオ、処刑するべき人間は誰だと考える?」
「無論指導者であるオルガ公爵とその一党、そしてエクター王家の血を引いていないにも関わらず陛下の血縁を称し兵を動かしたアンでございます」
「アンは俺の妹だ。出来れば助けてやりたい」
天幕の中の家臣達はどよめいた。そんなに非道な王だと思われていたんだろうか?
「まぁ…処刑するのは公爵だけもでよいでしょうから。陛下の妹君は幽閉刑くらいで良いでしょう」
「いけません国王、戦で死んだ者達の為にも処刑するべきです。たとえ国王の妹君といえど罪は罪ですじゃ」
カニクリの言い分にも一理ある。公正な為政者ならば処刑するべきなのだろう。とはいえ俺は妹を殺したくは無い。良い考えが浮かばなかったので臣下に意見を求める事にした。
「ピアーズ君はどう思う?」
以前公爵の助命を願ったピアーズならば、何かの役に立つかもしれない。
「そうですね…今回の侵攻は我がウル太平国の完全なる勝利で終わりました。チオ将軍の見事な采配のお陰です」
「全ては陛下の采配のお陰だピアーズ。私のしたことなど鐘を叩いただけだ」
チオは照れた表情である。満更でもないのだろう。
「また今回の王都鎮圧の目的はエクター王国の乱の鎮魂と平原の平定が目的です」
「ピアーズ、そんなことは皆分かってることじゃ。さっさと結論を言え」
カニクリは声を荒げてはいるが怒っている様子ではない。
「つまりです。今回の戦で千人ほど死にました。これは非常に少ない数です。この数を増やすのはウルファス国王の威光を削ぐことになると思うのです」
「しかしじゃ、罪を裁かないのはどうか?」
カニクリは確かめるようにピアーズに語りかける。
「罪は確かに裁かねばなりません。しかし今平原には人が足りません。殺す裁定を一貫して行わないことで、陛下の威光を高めましょうぞ」
家臣達は割と納得した雰囲気だ。ここで俺が締めの言葉を言えば家臣の意見も一致するだろう。椅子から立ち上がって家臣の顔を一人一人確かめるように眺めてからゆっくりと厳かに喋る。
「皆、余はオルガに一時期世話になっていたし彼らに死の裁定を与えれば恩知らずと言われるだろう。更に言えば妹を殺せば余もまたエクター先王と同じ非道なる王と誹られるだろう。ここはピアーズの意見を踏まえて裁きを行うべきだと思うが如何か?」
家臣は全員平伏して賛同の意を示した。ホッとしたが態度に出すわけにもいかないのである。
「余は良い家臣に恵まれて幸いである。ではオルガ公爵とその一党は平原から放逐、そしてアンはウル王都に移送して余の信頼する者に見張らせる…という所か?」
家臣一同無言である。意見はないらしい。
その後鎮魂の儀式の日取りを決めた。念のためシアンの使い魔にピアーズを探らせるように命令しておく。思えば奴は少しオルガ公爵を熱心に生かそうとしすぎている。情報は集めておきたい。
その後オルガ公爵は俺の陣を去ったがピアーズは接触しなかったようだ。手紙の類を出した様子も無い。どうやら真剣に国のことを思っていたらしい。ウル王都のピアーズの家屋敷にも金銭の類が増えた様子も無い。俺は家臣や有力者の資産をシアンの使い魔を通じてチェックしているのだ。このお陰で賄賂の動きが分かるのだ。正直自分でもどうかと思うが、これも国の運営に必要なことである。
ちなみにボターからは手紙が来たが、内容はたわいない感謝であった。まぁあまり親しくするとそれはそれで問題になると思ったのかもしれない。正直ボター位の腕ならば俺の国で召抱えたかったが、オルガが負けたばかりで取り立てるというのも心証が良くないかもしれない。
「ありがとうお兄ちゃんっ!きっと…きっと恩返しするからね!」
「期待せずに待っているよ。アンを頼むぞ愛しいエレノア」
「御意」
アンは公爵を放逐した日の午後に送り出すことになった。アンはゴウクラトプスの曳く車に乗って俺に手を振っている。エレノアに護衛をさせたのは、不心得者から守る為である。まぁエレノアは空になった車の送迎の護衛と応援の文官と交代要員の護衛も兼ねているので特別アンの護衛だけが任務というわけではない。というか…エレノアに任せた仕事の分量はかなり多い。やはり俺の軍勢にはまだまだ人材が足りない。あとでたっぷり褒めてやろう。
「さて…鎮魂の儀式は明日の正午かチオ?」
「はい。陛下、ついにやりましたね。これで平原は事実上陛下のものになりました。これからはさらに多くの民が陛下の下に集まるでしょう」
隣に立つチオは俺のことを神様でも見るような眼で見ている。
「さて…ブリハウスとザカリオン…その他のエクター王国の旧領地を取るまでは民は安心できんよ。それに大道も塞いでおかなくてはな」
一番の懸案事項である邪神教団もそうだがやることはまだあるのだ。ウルも長く空けていると反乱が起こるかもしれない。
「陛下ならばラスナ男爵の軍勢など簡単に滅ぼせるでしょうに」
「実は三年前にラスナ男爵…前のと今の両方と決闘をしてな。仕組みのある決闘だったが借りがあるんだ」
「どんな借りですか?」
「前の男爵と決闘して勝った。そして新しい方が先の男爵を決闘の場から逃げた罪で殺した。そして今の男爵は余と勝ち負けの決まった槍試合をして勝った。要するに形の上では余は今の男爵に命を助けられた形なのだ」
「なるほど…それでは建前上こちらから大道を崩す訳にも攻めるわけにもいきませんね。大道は今ラスナ男爵の管理下ですからな」
「そうだな、だが結局平原の町ををラスナ男爵は一つも攻略できなかった。その点に付いてはオルガ公爵に感謝しなくてはな」
公爵と男爵はザカリオンや大道の出入口を取って取られてを繰り返していた。そしてお互いに疲弊してしまった。オルガ公爵は王都の近くで陣を張り、ラスナ男爵は大道から出てこなくなった。恐らく山の向こうで兵力を蓄えているのだろう。
「かつてのエクター領の奪還は何時になることやら」
「鎮魂の儀式が終わったならば陛下はウルに帰還して頂いて結構ですよ。平定自体は我らで充分ですので」
「ふむ…邪神教団以外は俺が出なくても大丈夫だろうからな。デキンとリバウを上手く使えよ」
「御意」
それにしても邪神教団は何処に言ったのやら。まぁ…向こうには俺と戦う理由は無いのかもしれない。俺は殺したいが向こうは殺されたくないだろうしな。とはいえ絶対殺すがな。
オルガとの戦から一週間後に鎮魂祭は行われた。俺は高さ三十mある特設の祭壇の上から七日七晩祝詞を読むというアホらしくも体力の要る仕事を成し遂げた。祭壇の上からは平原のあちこちからやってきた元エクター国民やウルからやってきた人間で溢れかえっているのが見えた。俺が祝詞を読み終わる頃には総勢十万人の人間が集まっていた。これでもコミケに集まる人数より少ない。やはりコミケの人の集まりは以上だな。これの数倍する人間が共通の目的で集まるのだから。
「諸君!今ここにエクターの残虐なる行いで散っていった魂の救済が成されたことを宣言する」
群集は俺の言葉に沸き立っている。俺の言葉・腕の振りで民衆が俺の思ったように蠢くのは実に興奮する。
「彼らの魂は星の世界から我らを見守るであろう。諸君!平原はこのウルファス=ガシャラムの手によって平定された!もはや諸君を虐げる者は無い!ここに千年の平安を約束しよう!」
俺の口からでまかせを信じたらしい国民は随分沸き立っている。まぁ祭りでは酒や食い物を配っているのでその効果も有るのかもしれない。とにかく俺の支持率は急上昇しているのが分かる。さ~て群衆の中には新しい嫁候補は居るかなぁ~?何せ一週間祭壇で祈りを捧げていたので色々溜まっている。いまならそこら辺のオバサンでもいけそうである。いや、やっぱりおばさんは簡便だな。俺に向って乳を放り出してアピールしている四十位のおばさんを見ると性欲は流石に沸かなかった。テンションあがってんなー男も女も服を脱いだりして半裸で踊り狂っている。俺が彼らをそうさせたのだ。俺が行動を起こさなければ彼等はここに集まることは無かったし踊って食べて飲む事も無かった。
俺は全能感に酔ってしまった。これは…また味わいたいモノだ。




