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ウルファス物語  作者: ろーき
第4章 建国編
46/50

王都奪還は昼前に終わった

空から眺めたエクター王都は瓦礫の山であった。この三年間で野放図に生えた雑草も瓦礫の町の廃墟感を高めている。


「産まれた町があの有様か…酷いもんだ」

「ガァオン!」

「ふむ、お前の故郷でもあったんだったなリュウ。何…復興自体はやるつもりだ。何時になるかは分からんがな」


王都の近くの平原には俺の軍である百人隊とオルガ公爵の軍勢が相対していた。公爵の軍勢は俺の軍勢を囲んで配置していて総勢は一万といったところだ。なお事前に降伏する様に使者は出したが使者は首だけになって帰ってきた。

オルガの敵兵の数はこちらの百倍だが、公爵の軍勢は周辺の村や町から逃げた人間が殆どで、装備も木の棒や素手だ。そして戦場の趨勢を決める騎士の数をオルガは四人しか持って居ない。何れも俺の顔見知りである。公爵その人とボター卿とその娘アサイラ、そしてガウラードである。他の騎士はラスナ男爵との戦いで死んだり逃げたりしたようだ。俺の国にも逃げてきた奴がいたがこの間葬雷に殺された。葬雷を探す為に空の上から戦場を眺めているが出てくる気配は無い。監視の目は何時の間にやら振り切られたので、もうこの辺りにはいないのかもしれない。

オルガ兵の鎧も武器も酷く汚れている。ボター卿など折れた槍を持っている。恐らく魔物との戦いで折れてしまったのだろう。

それに対して俺の軍勢は武具を整えているし、後方には潤沢な補給部隊が控えている。囲まれたといっても簡単に突破できる話だ。補給部隊には護衛兼予備兵力としてエレノア、ハレに加えてデキンも居る。彼等一人一人の実力はオルガの最高の戦力であるボターと遜色無い。流石に百人隊はそこまでの実力は無いので今日の戦いは大丈夫だろうか?なるべく被害が出ないと良いのだが。


『ボォ~ぼぉ~』


間抜けな角笛の音が響くと、オルガの軍勢は俺の軍に向けて殺到した。


「さて…どっちが勝つと思うリュウ?」

「ガァオン!」

「ん?まぁ自分の所を勝つと思うのは当然だよ。だがお前から見てどう思うね?」

「ガァオン」

「数の多いオルガか…さて…オルガの騎士は自由に俺の四方形陣を攻めれるがな…」


百人隊は正方形の形で陣形を組んでいて、全員辺の外側を向いており、正方形の中心にはチオが指揮を執っている。


「見ろよ。ガウラードの立派な馬が死んだ。これで奴は徒歩で戦わなくちゃならない。戦力としては強い歩兵に変わったことになる」


百人隊の攻撃が馬に届いたのだ。俺は百人隊にある武器の戦法習熟に特化させろとチオに命じたが上手くいったようだ。


「騎士がやられて歩兵も続々と近寄るそばから死んでる。逃げてる奴も居るな」


正方形の陣形は少しも減ること無く、近寄ってくる兵士を殺していく。ボターの乗る山羊も死んだようだ。かつて俺が乗っていた山羊…俺にハレのおっぱいの感触を味わう楽しさを与えてくれた老いた山羊…とうとう死んでしまったか。ちなみにボターは兵士に肩を借りて逃げている。


「ガァオン」

「何…知り合い…というか知り山羊が死んだんで、ちょっとセンチにな…それにしても戦果は充分だな」


俺は百人隊にある戦術を授けた。それは正方形の陣形になり、彼らに授けたスフアソラと同様の形を持つ斧槍を使った戦術である。飛ぶ斬撃は威力にも拠るが騎士の鎧を切断はできない。では貫通は出来るのか?それも難しい。だが何度も何度も同じ攻撃を与えればいずれは穴が空く。


「騎士は地球では銃によって滅びたという話だ。俺は銃の知識など無いから作れないから斧槍を銃代わりにしたという訳だ」

「ガォウン」


斧槍の刺先から飛ぶ斬撃…飛ぶ貫通攻撃か?兎に角斧槍を一列で構えてチオの指示──鐘のジャーンジャーンという音──で一斉に放つ。すると近寄ってきた騎士の鎧にはダメージがあり、騎乗動物は穴だらけになる。当然鎧を着ない人間は穴だらけになる。騎乗動物に鎧を着せればある程度は防げるが、代わりに機動力は失われるし、騎乗動物は性質上、脚部にまで鎧を覆うと殆ど走れなくなるのだ。ましてこの戦術を使うのは今日が始めてだ。対応案があってもすぐには実行できない。


「綺麗なもんだ。緑の光の筋が一斉に飛んで行く…そして緑の光が過ぎた後には赤い血の海が出来る」


百人隊が使う唯一の魔力を使った武器術は『チャ-ジバレット』という技である。槍の先端に魔力を集めて放つという単純な技だが、一列二十五人の一斉射撃ともなればドラゴンにもダメージがあるだろう。百人隊は一日に千発撃てる様に訓練したが、今日はまだ百発も撃っていないだろう。

対騎士用に考案した戦術だが上手くいったらしい。俺は百人隊にたった一つの技に専念させることで短期間の訓練で一端の兵士になれるようにした。見込みの有る人間を選んで訓練したとは言え成果は上々であった。自然と頬が緩む。


「ガァオン!」

「確かに、まだ勝ったわけではないからな、油断は禁物だ。だが見ろ、もう百人隊に向かって行く奴は居ない」


いや、ただ一人ガウラードが居た。彼は徒歩で向かって行き、飛ぶ斬撃を何度か放ったが、当たらない。まぁ当たっても百人隊の鎧には通らない筈だ。鎧は俺のお手製であり、標準的な騎士の鎧と遜色ない防御性能である。生半可な飛ぶ斬撃では騎士の鎧は通らないのだ。

ましてガウラードは遠目の射程で放ったので飛ぶ斬撃は効果が薄い。鐘の音と共に徐々に正方形の陣形は形を変えずにガウラードに接近し、五百mほどの距離になると一斉に貫通攻撃が殺到し、ガウラードは穴だらけになり、地面にも多くの細い穴が空いた。


「終わったな…残る騎士は三人…それも戦えるほどの実力者は皆無。ほぅ…公爵閣下が補給部隊に向って行った」


騎士同士の戦いでそうした行動はNGである。まぁ俺が同じ立場ならば先んじて補給部隊を叩くが。とはいえあそこから補給部隊の所に行くまで三時間は掛かるので、戦闘をさっさと終わらせようと思う。


「さてリュウ、挨拶をしに行こうじゃないか」

「ガォウン」


リュウは一瞬で公爵の前に舞い降りた。近くで見る公爵は薄汚れてはいたが相変わらず美形であった。戦場なのになんで兜被っていないんだろう。隣にはボターの娘アサイラも居た。アサイラも兜を被っていない。三年前に比べて疲れた顔で老けて見える。あまりそそらない顔だ。

二人とも馬に乗っているが馬も疲れて怯えている。俺のリュウに怯えているのかもしれない。何せリュウは空飛ぶ象と言って良いサイズだ。怯えるなというほうは無茶だ。


「お久しぶりですな公爵閣下、そしてアサイラ嬢」

「君は…誰だったかな?」


覚えていない…というより俺は公爵と正式に会ったわけではないので向こうは俺の顔を知らないらしい。


「ウル太平国国王ウルファス=ガシャラムです。三年前はウルファス=ベイ・リンと名乗っていました」

「記憶に無いな」

「ウルファス卿…いえ陛下、立派になったのですね…見違えましたよ」


アサイラは俺のことを覚えていたらしい。良かった良かった。


「まぁ昔話は兎も角として降伏してくれるとありがたいのだが?」

「降伏する為に走ったのだが」


早とちりだったか、てっきり最後っ屁をするつもりだと思ったのだが。相変わらず情けない奴だ。


「では…降伏文書は用意してあるのでこれに署名して下さい」


アイテムボックスから一枚の紙を取り出して渡す。恐ろしいことに公爵は読まずにサインしやがった。書類を公爵から受け取って確認する。確かに正式なサインである。まぁ約定を違えればこの書類には何の意味も無いのだが。


「では…あなた方を保護しよう。この戦は余の国の勝ちで終わった」


リュウを上昇させる。アイテムボックスから角笛・耳栓を取り出す。耳栓を嵌めてから勝利の合図を吹く。


『ボッボッボボボ~ン』


間抜けな音が戦場に響くと百人隊は勝ち鬨を上げた。戦で死んだ人間は千を下らないだろう。死体は平原にゴロゴロと転がっている。その死体を片付ける為に補給部隊が進んでいるのがわかる。補給部隊と言っても鎧を着た兵士だ。ゴウクラトプスの曳く巨大な車と共に戦場に向っている。補給部隊は戦場からちょっと距離があるので死体の処理は恐らく昼頃には終わるだろう。なお補給部隊は志願した国民である。最近になって金の価値が分かってきた国民は日当銅貨三枚の仕事に殺到した。ちなみに男女の雇用機会は均等にしている。お陰で女性からの支持率が高くなった。代わりに男の支持率が落ちたが…戦争に勝ったから上がるだろうとは思う。


「さてリュウ、頑張って連中を労いに行くか」

「ガァオウン?」

「何?何故自分で戦わないのかだと?確かに俺が…そう『嵐』辺りを使えばあの程度の軍勢は皆殺しに出来る」

「ガオウン」

「ははっ、確かにお前だけでも倒せるな。まぁ兎に角俺が動かなかったのは…邪神教団の対応というのもあるが、軍団を作りたかったからな。王が強くても滅ぶ国というのは例が山ほどあるからな」


リュウは今一納得していない様子だ。まぁ主な理由は俺のストレスである。地上には血の海が出来ている。あれを自分一人でやるという精神の疲労を考えれば他人にやらせるのが一番である。

俺を非道と言う人間も居るのだろうが、俺は国民に働く場を提供しているのだ。それに俺は自分の手を汚さない人間と言う訳でもない。

 先ほど公爵の署名した降伏文書にはこう書いてある。


『無辜の民を殺した責任はオルガ公爵に在るのでどんな刑も受け入れるものとする』


 処刑は俺の手で行うつもりである。その位は自分でやらなくてはならない。

 リュウはチオと百人隊の下に降り立つ。皆喜んでいるし、死体からの略奪もしていない。


「皆御苦労であった。旧エクター王都の平定はエクター平原の安定にもつながる。その褒美として俺から勝利の美酒を諸君に振る舞おう」


 アイテムボックスから樽と柄杓を取り出す。百人隊は並んで俺の酒を杯代わりの兜に受ける。臭そうな杯だな。まぁいいか、俺が飲む訳じゃない。死体の転がる平原で飲む酒は旨いらしく皆笑顔である。

 補給部隊が到着し、死体を片付けるのを百人隊にも手伝わせた。俺は戦場から離れた王都の近くに建てられた天幕の中で文官達と戦後処理の会議をする事になった。


「国王、公爵とその部下は如何しますか?現在は貴人に相応しい天幕で歓待していますが」

「俺が殺す。それで良いかカニクリ」

「それが宜しいかと存じ上げます。処刑の日取りは何時に…」

「あいや、お待ち下さい」


 文官の一人が手を挙げた。たしかピアーズと言う男だ。痩せた40手前の男でこれといった特徴は無い。


「なにかなピアーズ君」

「ウルファス国王陛下、公爵は陛下が以前お世話になった方であり、さらに言えばこの三年間王都を治めていた方です。処刑するのは信義に反する事です」


 治めるといっても王都の外で天幕を建てて暮らしていただけだ。それを治めると言うのだろうか?


「ピアーズよ、確かに国王はほんの一時期オルガの世話になっていた。しかし国王は邪神教団の魔人を倒したことで三年前彼らの命を救った。これにより恩は返したのじゃ」


 カニクリがピアーズを説き伏せる様な調子で話す。


「さらにいえば彼らは王都を治めてはいない。単に王都のごみを漁って暮らしていただけだ。そして陛下の兄弟とやらを口実に王国を再建する大義を得ようとした。そして旧エクター王国の国民を集めて勝ち目の無い戦に挑ませ、国王の民を殺した。これは逃れようの無い罪である」


 カニクリの言葉にピアーズ以外の家臣は納得した様子である。


「まぁ裁判はまた後日やるから刑はその時に決める心算だ。そう言えばカニクリ、俺の兄弟とやらはどこだ?戦場では見なかったんだが?」

「あぁ…隣の天幕に捕らえてありますじゃ」

「会いに行きたいな」

「そうですね…国王には後で書類の山を処理して戴きますが宜しいですか?」

「無論だ。それと王都の掃除は俺のロボットにやらせるがそれは構わんか?」

「そうですね…人間にやらせては時間がかかりすぎますから…整地だけならば宜しいかと」

「分かった。では俺は中座する。皆根を詰めない様にな」

「「「「「有り難きお言葉」」」」」」


 俺は天幕を出て隣の天幕に向かった。隣の天幕の前には警備の兵士が待機している。敬礼を受けて天幕の中に入る。天幕の中には椅子に座った少女が居た。顔は見えないが似ている…三人目の母アンリエットによく似た赤い髪だ。服装は…アンリエットが昔着ていた様な仕立ての良い真っ赤なドレスである。


「親類…まさか…エリトの娘か?」


 俺が声を出すと少女は振り向いた。生意気そうなツインテールの少女は立ち上がって俺に飛び蹴りを放ってきた。当然足を掴む。格闘技は得意そうだが俺に敵うはずもない。


「ちょっちょっと!離しなさいよっ!」


 片足を掴んでいるので色々とよく見える。穿いてないな、実にはしたない。

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