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ウルファス物語  作者: ろーき
第4章 建国編
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故郷奪還の狼煙

ユスティアの投擲した剣を掴んだので籠手に少し刃が食いこんでいた。謁見を鎧姿でしているのは正解だった。とはいえ剣が直撃していたら貫通していたかもしれない。そう思うほどユスティアの投擲した剣の勢いは凄まじいものだった。


「くっ!」


 ユスティアは部屋の外に逃げだそうとしたので、椅子から跳び上がって天井を蹴ってユスティアの目の前に降りる。実に驚いた顔だ。天井を見ると装甲靴のへこみ跡がついてしまったようだ。後で直しておこう。左官屋は…まだ国民に居ない。国王である俺がやるしかないのか…本当に人材に乏しい国である。


「なっ!?」


 ユスティアは驚き顔をすぐに切り替えて口を大きく開いた。歯並びも良く白い歯で舌も綺麗な色だ。舌を噛んで美しい口内を血で濡らそうとしているのは分かったので口に左手を突っ込む。


「もがっ!?」


 口に手を突っ込んだというのにユスティアは俺に組み技を仕掛けてきた。元気のいい事だが、今はちょっと時間があれなので、組み技には付き合えない。アイテムボックスから縄を取り出して縛って床に転がす。片手でこんな事が出来る辺り才能に満ちている。縄師の才能が在って国政の役に立つのかは知らないが。

 椅子に戻って腰掛ける。家臣は驚くばかりである。流石にエレノア、ハレ、ソラはうろたえていない。流石に俺の妻達である。


「さて…諸君、緊急の会議が必要だ」

「陛下!?お、御怪我は!?」

「大丈夫だチオ卿、それよりもグッパンの氏族が敗れた。恐らく櫓に居るザットも生きてはいないと思う。ハレ、アガトを呼んでこい」

「畏まりました」


 ハレは部屋の外に出ていった。家臣は落ち着いていないので会議を進める訳にはいかない。ハレはすぐにアガトを連れてきた。アガトは入って早々に縛られたユスティアに驚いている。アガトは俺の前に平伏した。


「陛下、昼間から何をなさってるんですか?こういうことは離宮でやってくださいよ」

「暗殺者を縛っただけだから邪推するな。アガト、死体回収の準備はできているか?」

「準備は万全です。清めの水に清潔な布、死体を焼く燃料に埋める為の陛下考案のスコップなどを健康なゴウクラトプスの牽いた車に乗せています」


 少し用意が良すぎる気もする。もしや負けると分かっていたのだろうか?


「準備が良いな、グッパンは負けると思っていたか」

「常に準備しているだけです」


 こいつは裏切りとか内通をしている訳ではないらしい。少なくとも俺にそれを思わせたくないらしいのは分かる。


「そうか、では護衛を連れてエクター王都に向かう道の櫓に行け」

「護衛は誰を?」

「好きなのを選べ、此処にいるのでもいいぞ」

「では陛下に御頼みします」

「分かった。すぐリュウに乗って行くと…」

「「「陛下っ!」」」


 家臣達に止められた。まぁ当然と云えば当然か。


「ふむ、では代わりに誰を選ぶアガトよ」

「そうですね…エレノア=ボガート・ハラン様とリバウ様をお願いします」


エレノアとリバウの顔を見ると二人とも自信満々の顔である。


「では気を付けていけ、エレノア、いざという時はお前の飛竜で人を乗せて逃げろ。命は大事にしろ。これ以上俺の家臣を減らしたくない。リバウ、お前はエレノアよりも年上だがエレノアに従え」

「「御意」っす」


 エレノアは素早く出ていってリバウもそれに続いた。アガトは残って俺に問いかける。


「では陛下、櫓の見張りの代わりも用意しますか?」

「とりあえず代わりの人間は連れて行け。ザットが生きていたら連れて来い」

「御意、では報告を御待ち下さい。良い報告では無いのは間違いないですが、御心を安らかに落ち着けてお待ちください」

「リラックスして待つとしよう。では行け、今から行けば夕方には現地に着くか…報告は明日でも良いからな、正確なものを頼む」


 再び御意と言ってアガトは部屋を出た。シアンによってすでに確認はしているが、人間の視た情報というのも重要なものだ。というかシアンの情報は分かり難いから第三者に確認しなくてはならない。


「さて…麗しの暗殺者はどうするかな?」

「ウルファス陛下、デルムス氏を呼び出してみては?」


 ソラはこう言っているのだ。王を殺そうと共謀した者は殺すべきだと。しかしユスティアはもがいている。まるでデルムスは無関係だと訴えている様だ。


「まぁ話は聞かなくてはならんな、誰か連れてこい。それとチオ卿、剣を返しておく。これからは迂闊に渡すな。この場で武器を持っていいのは俺と俺の家臣だけだ」

「ぎょ、御意。今度からは気をつけます」


 椅子の所に立て掛けていた剣をチオに渡す。その後呼び出したデルムスによるとユスティアとは今日出会ったばかりらしく本当に申し訳ないらしい様子をしていた。罰する気は無いので安心しろと言って許してやって部屋の外に出した。


「さて、デルムスの件はこれで終わりだ。口外無用だからその心算でいろ。悪いのはユスティアお嬢さんだ」

「ウルファス国王陛下、どうぞ私に首を刎ねさせてください」


 デキンは真面目な顔でそう言った。同期のリバウが仕事を任されたのに自分は任されなかったから不甲斐なく思っているらしい。


「落ち着け、話を聞いてからだ。デキン卿、口に噛ませた縄を解いてやれ」

「御意」


 デキンはユスティアの口の縄を解くのに手間取っていたが、最終的には解けたようだ。褒めようかとも思ったが、馬鹿にされたと感じるかもしれないから止めた。


「ふん!会議を聞かせたからにはどうせ命は無いのでしょう!さっさと殺しなさい」


 そんな心算は無かったがユスティアはそう受け取ったらしい。これからは気を付けよう。


「無礼者がぁ!ウルファス国王陛下、やはり首を刎ねます。この無礼者は生かしておけません」

「落ち着けデキン卿、殺すにしても俺が殺す。何、この後は仕事の予定も無いしどうせ今日は仕事にならん。そうだ、カニクリよ。今日は謁見を終わったと外に伝えたか?」

「先ほど外に出た時に伝えておきました」


 ハレが答えた。カニクリはちょっと震えている。トイレかな?


「そういえばそろそろ昼飯の時間だな。トイレにも行きたい奴は行け。ユスティア嬢の裁判は後でも良いからな」


 家臣は特に外に出ようとする者はいない。実は俺が行きたくなっていたのだが、家臣が行かないと俺も行きにくい。仕方ないので我慢してさっさと裁判を終わらせてしまおう。


「それで、貴方は何者かな?本名もユスティアと言うのか?」

「貴様…っ!我が名を聞いて察するところは無いのか!?」


 残念ながらまるで心当たりが無い。有名な踊り子なんだろうか?しかし食糧を配っていた三年間の中で彼女の噂さえ聞いたことが無い。売り出し中の踊り子なんだろうか?


「ウルファス陛下、ウルファス陛下…」

「なんだソラ?」

「アイラ伯国の伯爵の娘さんに確か…ユスティアという方が居ました」


アイラ伯国とはエクターの北に位置していたがやっぱりエクターに滅ぼされた国だ。


「成程、その恨みを俺に向けたのか?」

「その通りだっ!八年前に貴様の国が信義を破って我が国に攻め入った。知らぬとは言わせんぞっ!」


 知らないと云ったら嘘になる。修業時代に使い魔で集めた情報で知っていた。とはいえ俺は何もしなかったしできなかった。恨みは仕方ないが出来る事は無い。彼女の国は戻せないし死人も戻らない。


「話は分かった。だが殺させる訳には行かんのだが、どうしたらいいかな?」

「…どうしようもない。エクターの罪は千年後にも許されないだろう」

「だろうな、だからと言って今は死ぬ訳にはいかないのでね。まぁ情状酌量というところで無罪だ。汝の罪は問わない」


 家臣はどよめいている。色々と言いたい事があるらしい。


「陛下、それはどうかと…やはり罪は罪です」

「国王、処分が軽い…というか無いのですから軽重はありませんか、とにかく無罪はやりすぎです」

「そこまで言うなら妙案があるのかチオ卿にカニクリ大臣」

「彼女は戦利品として引き取るべきでございます」


チオは妙な事を言った。なのに部屋の面々は疑問を持った者が居ない。女も含めてである。


「…なんだと?」

「当然の権利です陛下、彼女の命は陛下の所有物です」

「いや…しかし…」

「ウルファス陛下…当然のことは当たり前に行わなくては国が乱れます。優しいウルファス陛下も好きですが…こう云う事も王者には必要です。判断はお任せしますが…妾の意見も頭に入れてください」


 ソラは言い聞かせるように耳打ちした。結局ユスティアは離宮に滞在させることになった。戦利品として扱うと云うのがどういう事なのかは大体分かってはいるが…気は進まな…いや、彼女にはそそるので正直言えば彼女をめちゃくちゃにしたいという気持ちは有る。

 しかし俺の理性は辞めろと言っている。まぁ今夜考えるとしよう。いや…俺は夜になって裸同然の美女を目にすれば冷静にはならない。とりあえず彼女は口に再び縄を噛ませて部屋の外に出した。誰か悪戯しそうなものだが、大丈夫だろうか?


「さて…では会議を行うとしよう。議題はエクターに通じる道に攻めてきた連中の事だ」


 会議は判断材料も少ないので、何も決まらずに時間だけが経過した。倉庫の中の一室でやらなくても良かったが、成り行きで会議してしまった。

 すっかり夕方になったが何も決まらなかった。会議は踊ると云う奴だ。部屋の外からエレノアと片腕の男、そしてグッパンの氏族の騎士が入ってきた。


「大丈夫か勇気あるノワン=グッパン・タラオン卿に親愛なる国民ザットよ」


 俺は椅子から立ち上がって彼らの下に駆け寄る。人気取りのついでとずっと座ったままだったので足を伸ばしたかったからである。


「陛下…わたしのようなものを…うぅ…感激です」


 ザットという片腕の男は涙を流している。この男は長年の漂流生活で腕を魔物に食われたらしく、エクター難民のお荷物だったが、俺が櫓を見張る公務員に任命した。どうやらかなり恩を感じてくれたようだ。


「国王陛下、申し訳のしようもございません。我らグッパンの氏族は…氏族は…」

「済まない。グッパン全滅は俺の責任だ。君の気にする事ではない」


 泣き崩れたノワンの肩に手を置くと余計泣いた。鬱陶しい事だ。


「二人には俺から恩給を与える。本当に御苦労だった。君達こそ国民の模範であり家臣の誉れだ」

「ありがたい事です…わたしの様なものに」

「ぐすっ…ひっく…陛下、必ず一族の仇を討ちます」

「頑張れよ。それにしても良く無事だったな。本当にうれしいぞ。今日はゆっくり休め」


 そう言って二人を下がらせた。俺も椅子に腰かけてエレノアからの報告を聞くことにした。


「さてエレノア。何か分かったか?」

「報告いたします。田畑の被害は軽微です」

「ふむ、あの辺りは今休耕地だからな。盗む物も無いしな」

「いえ、そう云う訳でもなく、作物が目当てでは無かったようです。戦いの余波で田畑が少し荒れたというだけです」


 エレノアは美しい眉を顰めている。


「なんだエレノア、言いにくい事ならば俺だけに聞かせろ」

「では…皆さんには申し訳ないのですが…」


 エレノアは俺に近寄ってきて耳打ちした。


「邪神教団です…」

「ブカドハムラか?」

「いえ…それが…ザットの情報によると…下半身が馬だったそうです」


 ケンタウロス…邪神教団の新顔か、魔物と融合した人間…新顔だろうと俺の家族を殺して無かろうと邪神教団は全部殺すがな。


「どんな奴だったとか聞いたか?」

「雷を身に纏っていたそうです。その男…いえ魔人は葬雷と名乗り、陛下を殺してやると言っていたそうです」

「他には?」

「陛下は…偽りの王だとかなんとか、どうも無知らしいですね」


 偽りねぇ…新顔は教団の事をあまり知らないのだろうか?ナスナチクトを王子として担いでいた連中を支援していた癖に俺の事を偽物呼ばわりするとは。まぁそんなことは気にせずに殺すつもりだ。

 肩に留まったシアンの使い魔に指示を出す。


『葬雷の位置を教えてくれ』

『エクターオウトニショザイヲカクニン』


 どうやら故郷を攻める事になったようだ。今度は三年で帰ることになったか、まぁここからはリュウに乗れば一時間も掛からない。さて…ブカドハムラも葬雷も同時に殺しておきたい所だ。後顧の憂いはさっさと絶っておきたいものだ。

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