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ウルファス物語  作者: ろーき
第4章 建国編
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陳情は退屈と刺激に満ちていた

王の務めは大変だ。特に聞く価値の無い長話を眠気を我慢して聞くのは退屈を通り越して苦痛である。


「…と、言うわけですから陛下、我らグッパンの氏族は本来悪路での騎乗戦闘能力を評価していただかなくては困るのです。つまりコロシアムでのトーナメントで量れる実力は限定的な…」


聞かない振りをする訳にも行かず、時折うんうんと頷いて返してやる。トーナメントから三日経ってもグッパンの氏族には仕事を与えていない。というか役職を与えたのは二人だけだ。デキンには市中視回り役を与えてリバウにはチオの訓練と同時に漁師の護衛をさせている。経験の豊富な男で昔大河で漁師のまねごともしていたらしい。船には慣れているらしく護衛をさせている。漁師になった人間は奴隷出身の人間が多い。やはり元買主と接触するかもしれない農夫はやりたくないらしい。この国には皆平原で暮らしていたので船の扱いはまだまだだが、金を稼げば土地を得られるという目標に向かって頑張っている様だ。上手い事頑張って俺の国を豊かにしてくれると都合がいい。

 どうやらそうした俺の方針が彼らにも伝わったらしい。弱い者ややる気の無い者には仕事を与えるわけにはいかない…そんな本音を言いたくなったが我慢する。


「…つまりです陛下本来騎士の務めとは国を守る事であり、普段は一見ただ人生を謳歌しているように見えますが…」


今日も今日とて倉庫の一室で仕事をしている。城はそれなりに立派になったが、倉庫は地理的に国の入り口の辺りにあり揉め事の発生件数も一番多いので、ここに机と椅子を持ちこんで仕事をしている。広さは二〇畳以上あるので会議にも使えるのだ。文官達も一緒に仕事をしている。なお午前中なのでチオはコロシアムで兵隊を訓練中である。大事な案件は午後にやるのでそれから合流するのだ。


「…一見酒色に耽っている様ですが、それもいざという時に後悔の無いようにするためであり陛下と同様にきわめて合理的な…」


 新しく入国してくるソラヴェインの難民を審査するという名目で可愛い子を探すのが主な仕事…というわけでも無いが入国審査は朝から九十七件行った。もうすぐ百件というところにグッパンの氏族が一同やってきて長話を聞かせてくる。一応騎士身分であり、国民のなかにはグッパンの氏族の元領民も居るので話しを聞かない訳にはいかない。人望を得るにはこういう積み重ねが大事なのだ。

 彼らの話によると結果を残せなかったのでこのままでは騎士として禄を食めないと感じたらしい。給料の無い騎士など浪人と同義である。もう少し真面目ならば俺も仕事を与えたが、トーナメント前に彼らがしていた事と言えば酒盛りだけだ。流石に仕事を与えられない連中だと判断したがこうして頼みに来るくらいにはやる気があるらしい。


「話は分かった、その実力はいずれ故郷奪還の際に見せてくれ。卿ら得意の実戦で実力を見せてくれれば文句は無い」

「おぉ…陛下、エクターを奪還なさるのですか?」

「まだ時期は決めていないがな、精々その時まで修練を…」


言い終わる前に窓──分厚い上に透明度の低いガラスを使っていて開け閉めもできる──の外から飛んできたシアンの使い魔が肩に留まった。どうやら事件が起こったらしい。部屋の外からグッパンの長にも伝達が来たようだ。俺に伝えるより早く国の大事をグッパンの氏族に伝えるあたりに俺の人望の低さが感じられる。


「む!?…陛下!エクターに通じる道を監視する櫓から狼煙が上がりました。では行って来ます!」

「ん?あぁ、行って来い。念のため言っておくが戦闘になっても無理はするな、敵の正体を見極めるのを優先しろ」


グッパンの氏族は目の色を変えて倉庫を出た。まぁあいつら弱いから大丈夫だろう。強ければ無理をして命を失うが、弱ければすぐ逃げ出すだろう。

それはともかく気になることが出来た。


「どう見るカニクリ?」


椅子に座って帳簿を書いているカニクリに問いかける。


「どう…とは?」

「タイミングが良すぎるだろう、俺に謁見している時に襲撃が有るなんておかしいし、グッパンの氏族が一同に会していてすぐに出動するなんて不自然だ。やってきたのが盗賊か騎士か知らんが内通してるんじゃないか?」

「ウルファス=ガシャラム陛下、疑り深いのも程々になさって下さい」


隣に座ったソラに注意された。ソラはソラヴェインの難民を受け入れることの証明として隣に座ってもらっている。難民は俺に殺意を向けてくる者も居るが、ソラがそのことを注意するとしおらしくなる。なお正式な婚姻はまだである。


「それもそうだな、気を付ける。さてカニクリ、入国希望の人間を連れてこい」

「御意」


 カニクリが小姓に指示を出し、倉庫の一室に次々と入国希望の人間が入ってきた。中にはオルガの人間も居た。何でもオルガから大道を通って三年間帰れないので公爵に愛想が尽きたらしい。やはり故郷に帰れないせいで人望を失うと云うのはこの世も同じだ。地球の古い英雄・英傑もそうした悩みと常に戦っていたそうだ。さて、俺は彼らに故郷を作ってやれるのだろうか?まぁまずは平原を平定しなくてはならない。ザカリオンも今はオルガ公爵が奪ったりラスナ男爵や野良騎士が奪ったりしているそうだ。

 そんな事を考えながら仕事をしていると、ハレとエレノア、リバウにデキン、最後にチオが倉庫の一室に入ってきた。狼煙を見て緊急時の対応をする為だろう。大体戦闘能力の順に入ってきたな。とりあえずグッパンの氏族に様子を見させているので待機していろと命令したら何故か部屋の中で待機した。文官は実に仕事をしにくそうだ。


「皆さ~ん。お茶が入りましたよ~」


 ハレは茶──ザコクナン樹海に生えていた野生の茶葉を栽培している──を淹れて皆の雰囲気を和まそうとしているが上手くはいかない様だ。丁度良く熱いお茶なので俺と俺の女達は旨そうに飲んでいるが、男衆は緊張して茶を飲んでいない。たかが襲撃仕掛けられたくらいで神経の細い連中だ。


「陛下におかれましては今日もお元気で大変嬉しゅうございます。我ら国民一同…皇帝陛下のご健康を日夜お祈りしております」


 こうしたおべっかを毎日聞いていると嫌でも調子に乗ってしまう。


「余は皇帝など名乗っていない。大体臣下に王が居ないんだから皇帝な訳が無い。言葉は選べよデルムス」


 俺の前の椅子に座った男は俺が名を呼ぶとハッとした。


「陛下…なぜ私の名を…」

「国民の名はすべて覚えている。流石に全員のあだ名までは知らんがな、それで何の用だ縄巻きのデルムス?」


 デルムスはますますハッとなった。縄巻きとは縄をなうのがうまいという意味のあだ名らしい。以前街でそんなあだ名を小耳にはさんだのだ。我ながら記憶力良すぎである。この体は…才能がありすぎるが、俺は大して活かせていない。やはり才能はそれを使うにふさわしいものが授かるべきだ。俺の様な転生した人間が授かるべきではない。


「陛下…私感激いたしました…」

「いいからさっさと要件を言え、聞き洩らさずに聞いてやるから何でも言え」


 俺は多くの人間に会わなくてはならない。一人当たり三分で案件を処理したいぐらい忙しい上に書類にも目を通したい。あぁ…時間を操る力が欲しい…高望みすぎるか。


「では…陛下にお目通りを許していただきたい女が居ります」

「そういうのは執務中にはしないと決めた。配慮は嬉しい。悪いが連れて帰れ」


 周りの男衆は俺の事を尊敬するような目で見ているが、女達は怪訝な目で俺を見ている。


「そうは言っても…」


 デルムスが云い終わる前に部屋の中に半裸の女が入ってきた。そしてデルムスの横の床に座った。


「ウルファス=ガシャラム陛下、貴きエクター王家の血を引き、新たなる王国を建国された王の中の王」


 半裸の女は水色の長い髪をした若く美しい女だ。見かけと同様に声も良く通っていて耳に心地よい。下着同然の格好をしているが、昼間からそういう職業の女を呼ぶのはまずい。まして仕事中で周りには家臣も妻達も居るのだ。


「デルムス、何のつもりだ?」

「あ、いえ…その…」

「偉大なる国王陛下、デルムス氏は紹介して戴いただけです」


 しどろもどろになったデルムスの代わりに女が答えた。


「紹介?余は紹介など無くても誰にでも会うぞ」

「まぁ…噂通り大変なお方…わたくし感服しました」


 女はその場で土下座した。体がかなり柔らかいようだ。臍が倉庫の床にくっついているだろう。抱いたら気持ちよさそうだ…隣に座ったソラと倉庫の中で直立したエレノア、忙しく部屋の中で茶を淹れているハレは俺を冷たい目で見ている。それはそれでそそるのだが、女達に嫌われたくは無い。


「それで?何か用なのかお嬢さん」

「この国には陛下という強い御方が居て、平原の何処にも無い大量の食物があります。しかし足りない物があります」


 足りないものだらけだと思うがな、インターネットに電気に全自動洗濯機に冷蔵庫に電動炊飯器…高望みだな。


「足りない物とはなんだ?」

「娯楽にございます」


 女はそう言うと土下座のまま両足を天に伸ばして踊り始めた。中々すごい踊りだ。ダイナミックでいてどこか繊細である。俺には芸術的才能が皆無なのですごいとしか分からない。だが武人としても通用しそうなほどに見事な踊りだ。実際体力は凄いだろうな、今美女は片手で倒立してから跳び上がって空中で縦に回転した。胸も尻も見事に揺れていると優れた動体視力で分かった。ハレとソラには及ばないが、エレノアよりは大きい。


「陛下、昼間から何をなさっているのですか?我らには他に案件がございます」


 エレノアは俺の横に立って耳打ちをしてきた。ちょっと怒っている。


「確かにな、さて名も知らぬ美女よ。踊りの途中で悪いが、踊りを売り込みに来たのかね?」


 踊り子は踊りをやめて再び土下座をした。キッレキレの動きだな。美しささえ感じる。部屋の中で魅了されなかったのはリバウだけらしい。他の男は文官・騎士を問わず鼻の下を伸ばしている。俺も伸びているのだろうか?


「国王陛下、わたくしの舞は気に入っていただけましたか?」

「見事なものだ。相当の修業をされたのだろう。ただ今は執務中だ。察するに…踊りを見せる小屋とかの建設の許可を求めに来たのか?」

「いいえ、それは違います」


 違ったか。踊り子はこの国の国民として登録した記憶は無い。今日初めて会った。国民になるのが目的なんだろうか?


「ならば…国民として登録を願うのか?」

「それも違います」


 違ったか、後は…なんだろうか?武芸の腕も有りそうな女だからそっちの方だろうか。


「ならば仕官の口を求めに来たのか?君の腕ならば騎士にも成れるぞ」

「…わたくしの様な得体の知れない女を騎士に据えるのですか」

「必要ならばな、さて騎士も違ったか。何が目的なのかそろそろ教えてくれ」


 踊り子は立ちあがった。そういえばまだ名前を聞いていなかった事を思い出した。名乗るタイミングって一端逃すと面倒なんだよな。


「わたくしの業を視て戴きたかったのです。一流の国王陛下に評価されればそれは間違いなくわたくしが一流であることの証左ですから」

「うむ、君は間違い無いく一流だ。その一流の名前を教えて戴きたい」

「ユスティア…でございます。国王陛下、わたくしを一流と思うならば、わたくしの得意な業を見て戴きたいのですが?」

「時間はどうだカニクリ?」

「…」

「カニクリ?」

「え?あぁ御時間ならば大丈夫かと存じますじゃ」


 カニクリはユスティアに魅了されたらしい。というか部屋の男はリバウ以外みんなそうだ。俺も含めて。部屋の中に居る女もユスティアの業には魅了されているが、男のだらしない顔に呆れてもいる。


「ではユスティア嬢、なるべく短く終わらせてくれるならば見せてくれ」

「有り難き幸せ…ではそこの騎士様、剣を一本お貸しください」

「了解した。気を付けて扱って下さい」


 チオは腰に下げた剣を抜いてユスティアに渡した。おいおい…エレノアにふ抜けた男連中を守らせるために下がらせる。


『陛下…どうも怪しいです。どうぞ御気をつけください』

『そうするよ。お前は男連中を守れ、ハレは文官の方をそれとなく見張れ。投擲するかもしれんから目を離すな』

『『了解』』


 二人とは以心伝心である。


『マスター・ワタシハ?』

『…ふむ、シアンはソラを守れ。それとグッパンの氏族はは今どのあたりだ?』

『ゲンザイヤグラマデ一ジカンノトコロ』


 何時の間にかそんなに時間が経っていたか、櫓までは急いでも三時間はかかるというのに。グッパンの氏族の軟弱な騎竜ならば五時間は掛かる筈だがかなり気合を入れたらしい。


「では国王陛下…剣の舞をご覧下さい」


 美しい剣の舞が始まった。長い髪を振り乱して舞っているユスティアは恐ろしく美しい。剣がどこに飛んでいくかの緊張感も加えて中々楽しい。リバウだけ鼻をほじって鼻糞を取り出して隣のデキンに付けているのを見ると楽しさが失せた。しかしリバウは何故この踊りを見て平気な顔をして…もしやホモっ!?


「隙ありっ!」


 ユスティアは剣を投げてきた。スローモーションに見えるが、余計な事を考えていたのでちょっと反応が遅れた。だが簡単に掴め…


『マスターグッパンゼンメツシマシタ』


 シアンは割と驚きの報告をしてきた。掴むのが遅れ…割と…ヤバ…ザクっという音がした。量産型っぽい音だな。

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