水道と下水道に驚く王女
「罪な人…嫁入り前の女を…こんな風に扱うなんて…」
「すまんな、お前があんまり綺麗なんで抑えられなかった」
そう言って抱えた半裸の美女の頬に口付けをする。
「言い訳になってません…でも許します…結婚前に嬉しい思いを…これが恋なのですね…こんなにドキドキしたのは初めて…♪」
美女は俺に惚れたらしい。嘘かもしれないが少なくともそう言ってくれた。男が言ったら信じないが美女が言ったら信じるのが俺の生き方だ。例えストックホルム症候群でも吊り橋効果でも惚れさせたもの勝ちである。
「俺と結婚しないか?」
髪の匂いを嗅ぎながらそんなことを聞いたら彼女は頬を緩めたが、すぐに悲しそうな顔になってしまった。
「嬉しいです…妾も貴方のような強く…美しく…雄雄しい方と一緒になりたいですが…」
「既に婚約者でも居るのか?誰が決めたのか知らんが、そんな約束俺が覆す」
彼女の名前さえ知らないし、最後までした訳でも無いが、彼女は俺の物にしたい。腕の中の彼女は大分震えている。
「無理です…妾の名を知ったら貴方も…萎縮してしまいます」
「俺はさっき名乗ったんだから教えてくれよ」
「駄目です…名前を言ったら益々離れたくなくなっちゃう…!」
彼女はそう言いながらも俺の胸板に自らの背をこすりつける。俺の胸板の厚さを気に入ったとさっき言ってくれた。
「では…俺の家族の名ももう少し教えてやろう。産みの母はサシャンセル=エクター・ロデイで、育ての母親はアンリエット=ベイ・リンだ」
「では…貴方は平原皇帝…もしかしたらと思いましたが…妾の結婚するべき人♪」
彼女は振り向いて俺の唇に柔らかい唇を重ねた。触れただけで離したので、すぐにもう一度唇を重ねて舌を入れて彼女の口内を楽しむ。
入念に楽しんだので唇を離す。彼女は蕩けた顔をしている。
「察するに…君は俺と結婚することでソラヴェインの戦災によって放浪する民を庇護してほしいのか?」
そういう民衆がいるというのは知っているが、食糧を配りにソラヴェインまで行ったことは無いので面識は無い。俺は正しく偽善者である。自分の罪悪感を晴らす為に活動するだけの小さい人間だ。
「はい…この地を治める王に私自身を売ることで…民の庇護をしてもらう心算でした…流石は陛下ですね…良くお分かりです」
「ふむ…俺に恨みは無いのか?」
俺の生家がソラヴェインを滅ぼしたことに変わりは無いのだ。ベッドの上で殺されるなんてごめんである。
「陛下が十二年前のあの日に王宮に来てくれたら良かったのに♪そうしたら…もっと早く妾は陛下の妻に成れたのに♪」
「俺はその頃まだ今の半分の背も無かったぞ。とても結婚は無理だ」
「…?陛下はお幾つなんですか?」
「四月に十五になったばかりだ」
「あらあら…私の半分より少し多い位ですね…うふふ…なのにご立派な国を造りましたね♪良い子良い子…♪」
彼女は俺の頭を撫でてくれた。実に良い感じだ。そう言えば頭を撫でてくれた女は久しぶりな気がする。
「ところで…名は何というんだ?教えておくれ愛しい人よ」
「ソアラリエレン=ヴィラン・ソラヴェインです、愛しいウルファス陛下♪これから一生可愛がってくださいね♪」
「ふむ…その前に言うことが有る。非常識に思われるだろうが…俺には既に恋人が二人居る」
「陛下なら当然のことかと存じます」
浮気もOKしてくれるのだろうか?さて、あとは王族にとっては信じられないあのことであるが…もしもそれを教えて拒否されたらどうしようか?
「そうか、それと俺は自分の子を王にはしない心算だ。能力と経験を持った臣下から次の王を決める心算だ。王を決めるのが何時になるかは分からんが…ソラの子は王には成れん。それでも俺と結婚するか?」
「もちろんっ♪」
ソラは俺をギュッと抱きしめた。俺も嬉しくて彼女を抱きしめた。
「ガオンッ!」
「ふむ…分かった。今度から気を付ける」
リュウはこう言ったのだ。『おめっとさん。何でもいいけど俺の上で盛るなよ。後でちゃんと掃除しろよ』後で拭いてやるとしよう。辺りを見るとけっこう鱗が濡れている。
「さて、では王国を案内するが…象と騎士はどうする?」
「どうしましょう…その…お好きになさって下さいウルファス陛下。嫁入り道具ですから貴方に捧げます」
仕方ないので、リュウに象とババクを掴ませた。象もババクも麻酔代わりに強い酒を飲ませたので動かない筈だ。騎士はリュウに乗せたかったが、騎士は弱いから乗せたくないらしく、尻尾で巻いて持ってくれるらしい。乗り心地は最悪だろうな。ソラは俺の背中を抱きしめているので俺は最高の気分である。
ちなみに酒は超麦を発酵させたビールだが、アルコール度数が異様に高いので飲んだらすぐ寝るのだ。なお何回か女達に飲ませたが余り面白くなかった。普通に寝てしまったので、寝たままするのも趣味ではなかった。
「では王国を案内しよう」
「それにしてもこの飛竜はすごいですね。象よりも大きいなんて、一体どんな餌を与えたのですか?」
「魔物の肉だな、ドラゴンとかドレイクとかそんなのだ」
「強い騎士団がいらっしゃるのですね」
騎士団なんてまだ居ないが、言う必要も無い。しかし案内すると言ったがそうするとあの恥ずかしい城を見せなくてはなら無いのだろうか?それは勘弁願いたい。
『シアン…シアンよ、城に人はいるか?』
魔力資源を使って文字を書き、シアンの使い魔に意思を伝えると誰も居ないと伝えてきた。それはそれで無用心だな。
『使用可能なアトビを総動員して、城の地下に備蓄しているアッカル樹脂で城を整えろ』
「リョウカイマスター・ツカイマモドウインシテ1ジカンデヤリマス」
「な、何ですか!?」
声に出しやがった。やはり判断能力は低いらしい。使い魔はすぐに飛び立ってしまった。
「ウルファス…あれは何ですか?」
「使い魔だ。と言っても俺の造ったロボット…ゴーレムの使い魔だから安心しろ」
「…視られてたんですか?」
そう言えばさっきからずっと使い魔は肩に留まっていた。視られたな。
「すまん、配慮するべきだった」
「気にしないで下さい。どんな陵辱も受け入れる心算でこの国に来ましたから」
「どんなのもって…何されると思ったんだ?」
「この国の王は…大男でとても乱暴だと聞いていたので、柱に括り付けられて大勢に嬲りものにされるかと…でもウルファス陛下になら…されてもいいかも♪」
どうやらソラはすこしそういう気が有るらしい。虐められると喜ぶ褐色のお姫様か、実に素晴らしい。
「そう言えばソラの家族は…どうなったんだ?」
「皆は最期まで誇り高い王家の者として生きました。私の誇りです」
「お前の誇りは俺の誇りでもある。頑張ったなソアラリエレン」
そう言って後ろを振り向いて彼女を抱きしめる。彼女も俺を抱きしめるので、胸が一杯になる。実に好い感触である。
何時までもこうしていたいが、午後のトーナメントももうすぐ終わる筈だ。しかし冷静に考えると午後の部を俺は視ていないので有望な奴が来ても分からないが…まぁハレも視ているからハレの推薦する騎士を…いや、ハレは甘めに人を評価するから当てにならないかもしれない。
とりあえずリュウに街を目指すよう指示を出す。流石に重いのを持ってるので飛ぶのも遅い。まぁソラは初めての空中飛行なのでこの位の速度の方がいいだろう。
「ウルファス陛下、ウルファス陛下」
「ウルファスだけで好いぞ二人きりの時はな」
「はいウルファス、私の事もお姉ちゃんって呼んでくださいね♪」
それはどうだろう、正確な年は聞いていないが干支一つ分離れてそうな女を姉…まぁありかな、褐色だしな。
「ところでソラ、何か聞きたいことが有るんじゃないのか?」
「奴隷に変わった格好をさせて農作業をさせるのはどうかと思います」
ソラはかなり真面目な顔をしている。国を治める者らしい顔である。美女にこんな顔で怒られたいな。なんで表情が分かるかと云うと向かい合っているからだ。背中で胸を感じるのも好いが、向かい合ってフライング…ツーリングの飛ぶバージョンってなんて言うんだろ。とにかく向かい合って飛ぶのは悪くない。
「というか奴隷?田畑を耕す農素五十号のことか?」
「奴隷をそういう名前で呼ぶのは感心しません。いくらウルファス陛下でもそういう政はいけません」
ちょっと怒っている。勘違いしやすい女が俺の周りには集まるらしい。
「あれはゴーレムだ。魔術で造った農業用だから人間じゃない。お前も魔術師ならゴーレムは分かるだろう?」
ソラの右手の紋章は真っ赤な四十二画である。おそらく魔術師の42レベルのはずだ。細かい職種までは判別できないが、顔・身体と同じく高レベルである。真っ当に上げたなら大した話だが、真っ当に上げてそうな女ではある。というか美女は過大評価する位でちょうど好い。
「ゴーレム…あれほど人間らしい動きのできるゴーレムをどうやって…あ、腕が変形した。本当にゴーレムだったのですか。ごめんなさいウルファス…おしおきですか?妾は悪い子ですか?」
ソラは上目遣いに俺を見ている。子…?俺より大分上なのに。
「何、気にするな。勘違いとはいえ俺を諌めようとしたのだから頼もしいぞ。これからも気兼ね無く何でも言ってくれると嬉しい」
地上の農素五十号は今は腕が鎌になっているが、雑草刈りを丁寧に行えるレベルの動作が出来るゴーレムを人間と見間違えても無理はない。怒る理由はない。
「ゴーレムもうそうですが、王を指名するという考えも…もしやカリグスの遺産をお持ちなのでしょうか?」
「そうだな、真魔道大全を持っている。かなり役に立っているな。この景色はその書物の賜物というわけだ」
カリグス帝国崩壊の理由は諸説あるが、俺はゴーレムを活用できなかったことだと思う。ゴーレムに仕事を奪われた人間が物言わぬゴーレムを全て打ち壊してしまったらしい。その所為で発展が止まり、後に大道が塞がって帝国の力は衰えたのだろう。ロボットを増産して軍事力を高めれば産業革命も訪れただろうに…そうすれば今頃インターネットも普及してたかもしれない。
とはいえ全ての労働をロボットに肩代わりさせるほど俺の国は成長していない。まだ第一次産業が主な時代なのだから、働ける人間には働いて貰うのだ。ちなみに農民の日当は銅貨一枚である。そして農民のやる気を出させる為に金を払えば農地を自分の物にできるという法を施行したいのだが、値段の設定で難航して未だ決定に至っていない。なお奴隷は国の予算で買い上げることにして身分の上下を無くさせ次々と奴隷が夢を求めてこの国に集結すると思ったが、集まりは悪い。やはり奴隷はそう簡単に辞められないのだろうか。
「すると…城壁が無いのはゴーレムに守らせているのですか?」
「城壁が無いのはその所為だ。それともう一つ、貿易を活発にしたくてな」
効果が有るかは兎も角、壁があると入り辛い空気になるかもしれない。しかし今の所来たのは使者が一人…一人?そういえばなんで一人で使者が来るんだろうか、普通護衛位居ても良いだろうに。もしかして本当に騙りなのかもしれない。まぁ火を付けようとしたらしいから裁判の場で聞いてみるとしよう。
「農業用水も…ゴーレムが?」
「いや、パイプでノン大河から引いている。水はエプシモンというロボットに浄化させてるが綺麗だぞ。ちなみに街にも上下水道があるから水は無料だ」
大河から流れた水は人造の溜め池に集まり、そこで十体のエプシモンがザコクナン樹海に生えるウィティという薬草の生える薬木を使った櫂で掻き混ぜることで浄化する。俺も飲んでいるが今の所病気はしない。俺が特別頑丈なだけでこれから病人が増えるかもしれないが、それは病気が蔓延してから考えることにしている。
下水の終着点にはモンシモンというロボットを配置して色々実験している。塩素を単独で生み出す技術が無いのでてきとうに浄化しているが、人数の増えた今汚水は恐ろしく増えたので何とかしないと拙いのだが解決策は今のところ思いつかない。何時かこれが原因で政権が傾くかもしれない。
「上下水道があるのですか…凄いですね。ウルファスが考えたのですか?」
「パイプで引いているだけだし書物をなぞっただけだ。失敗も随分したし、今も間違ってるかもしれないからパイプは10年持たないかもな」
国造りなど百年後を見据えてやるものだが、俺は目先のことくらいしか考えていない。案外俺が死んだら国はすぐ滅びるかもしれない。初代の王が強かったのに次代で滅んだ国は数多い。
「うふふ…ウルファスの国は長生きします…妾が保証します」
「何故そう思う?何故今日会ったばかりの俺を信じれるんだ?」
ソラは俺を温かい眼で見ている。疑いの気持ちを持った俺が馬鹿みたいに卑小な気分になる。
「分かるのですよ。貴方はこの世界を救う為に産まれた男…天から遣わされた王になるために産まれた王♪妾の愛しい御方…」
王に成るため、か。俺は何のためにこの世に産まれたのかさっぱりだ。そういえば俺は転生したんだったな。もはや地球の記憶は全く残っていない。だが知識はある。その知識は役に立たない物が多いが、余計な知識はそこそこある。目の前の美女にはどんな格好をさせようか…ブルマ・チャイナドレス・セーラー服に和装…どんな格好も似合いそうだ。
裁縫をもっと頑張ろう。この世に生を受けたのはこの世にエロイ格好を普及させるためかもしれない。そう思いながら寸法を確かめる為にソラを抱きしめた。




