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ウルファス物語  作者: ろーき
第4章 建国編
36/50

王の選定は正午の前に行われた

俺ことウルファスは15才になった。前世と足せば幾つになるのだろうか?多分60は超えるような超えないような…どうなんだろうか?もう前世の記憶は殆ど忘れてしまったので、もう分からない。

空の上から俺の開墾した地を見下ろす。眼下には三十万haの農地が広がっている。実に雄大な景色である。農素は現在千号まで稼動しており、開墾に始まり地ごしらえ、籾蒔き、畦ごしらえに畝起こしに雑草取りから水路の手入れ、収穫は勿論、収穫物を入れる袋の製造・収穫物の運搬に至るまで、農事の全てをやってくれる。

農素はコンバイン・トラクター・田植機・軽トラック他多数の機能を持った万能ロボットである。そこまで出来るなら家くらい建てられそうな物だが、農事以外の行動をさせようとするとフリーズするのだ。まぁ頭脳に相当する魔術式に農事の情報しかないのだから当たり前と言えば当たり前である。機械は成長しないし自分にできることしかできないのだ。その為農事以外の行動は汎用型のロボット『アトビ』にやらせている。しかしアトビは農素ほど便利ではない。汎用型なので人間に出来ることは何でも出来る子供ほどの大きさのロボットだが、労働能力は見た目相応に子供程度の能力だ。0,5人力と言ったところか。例えば一軒の家を建てるには俺は十日で出来るが、アトビは昼も夜も働いて二十日以上かかるのだ。現在稼動しているアトビは五百体だが、人間に直すと中小企業と同じ位の労働力だろう。自発性は無いが指示を出せばなんでもやってくれる便利なやつらだ。

三年前と比べて随分大きくなったリュウの首を叩いて地上に下りる様に指示を出す。川のほとりの街にはレンガ作りの町並みが見える。レンガ造りの巨大な倉庫の前に下りて、リュウから降りて、農素達が倉庫を掃除しているのを見守りつつ中に入る。倉庫の中には五穀を始め、紙や蝋、油や炭といった物資が山となって積んである。100万の人間が一年暮らせる物資を貯えたと見積もっている。


「しかし国民は未だ俺を含めても三人…腐らないと良いのだが」

「きっとすぐに来ますよ。ウル様の努力に皆さん報いてくれますよ」


後ろを振り向くとハレが来ていた。ハレは18歳になり背は伸びていないが以前よりも豊満な肉体になりアンリエットのブラと下着では色々と収まらなくなったので、何とか裁縫して下着を作った。針を持っている最中に下着に収まる乳を想像した所為で興奮して指を刺したりしたが、無事十着ほど作れた。無論エレノアの分も作ったが、彼女の方は大きくはなっていない。揉んだら大きくなるというのは俗説だったらしい。まぁ筋肉は以前よりも増強しているのでガタイはよくはなっている。豊満体型と筋肉スレンダー体型の両手に花は俺の情動に良く応えてくれていると思う。


「来てくれるかな?俺としてはどちらでも良いのだが」


ハレの前に行き、彼女を見下ろして視る。何度も見ているが、すごいな。胸で彼女のおなかが見えない。背が190近くなったので、以前のように彼女の胸に縋り付くのは膝をつくという一手間がいるのだが、地女神の双子山を味わう幸福を考えれば手間などどうでも良いのだ。


「拗ねないで下さい。ウル様のお力を以ってしても畑作りも最初から上手くは行かなかったではないですか、そんなすぐに結果は出ませんよ。お魚のことを思い出してください」

「ふむ…確かに順風満帆の3年という訳でも無かったな」

「そうですよ。ですがこんなに大きな町を造られました。ウル様の頑張りは必ず報われますから」


確かにハレの言う通りかもしれない。ノン大河の魔物を片付けて生態系が崩れた所為か、魚が大量発生して大河を埋め尽くすという気色悪い光景は俺の失敗の一つだ。放っておけば大河の治水にさえ悪影響が出たかもしれない。魚は獲って干して肥料にしたが、何せ毎年夏になると大量発生する。果たして俺の行動は正しいのだろうか?かといって魚を獲る以外解決策が思いつかない。まさかブラックバスみたいな捕食者を大河に放つわけにも行かない。これ以上生態系を乱すのは危険な気がする。生物を一種か二種絶滅させた男として名を残したくはないものだ。既に絶滅したのがいるかもしれないが言わなきゃばれない筈だ。

そう云えば干した魚を肥料にして分かったことだが、開墾や草取りで得た草を肥料に使った畑とは作物の生育が違っていた。肥料で干し鰯を使うという前世知識はあったが、肥料によって生育が変わるというのは始めて知った。ハレによると当たり前のことらしいが、我ながら無学なことだ。五穀を育てるにももっと効率的な肥料ややり方があったかもしれない。

去年の秋にこの地の魔力資源が豊かなことを察したドラゴンが襲来して一部の畑で勝手に焼き畑農業をしやがった事もあった。焼き畑農業にはいいイメージが無かったので現在焼かれた畑は休耕地にしてある。土地の栄養は減るのだから毎年同じ土地で作物を育てると拙いだろう。とはいえどの位休めれば良いのかも知識が無いので判断はつかない。とりあえず一年交替で様子見をしているが生育が悪くなれば、また耕作のやり方を変えるつもりだ。一~二年で結果は分かるものでは無いが慎重に我慢強くやらなければ飢饉の元だ。

治水はマーリンの力を使って護岸工事をしたぐらいである。今は崩れる様子も無いが、その内崩れたりするかもしれない。エクター平原は一年中温暖で大雨も雪も降らないが、天災は忘れたころにやってくるのだ。備えだけはしておきたいが、自分で思いついたことはもうやってしまった。俺に思いつかないことを誰かに教えてほしいものだ。


「やはり…何事を成すにも人がいるな。ま、気長に待つとしよう」

「そうですよ。一緒にお待ちしますから辛抱なさってください」

「そうか、では俺は角牧場に行ってくる。何かあったら使い魔を放て」


ハレのおでこに口付けをしてその場を去る。ハレはおでこにキスをしただけで真っ赤になるので面白い。何年経っても初心な女である。リュウに打ち込んだ取っ手を掴んでから飛ぶよう指示を出し、角牧場を目指す。角牧場は俺達の住む町から南に十kmほどの地点にある。一kmごとに地点を示す棒を立てているので実に分かりやすい。

五分もしない内に牧場の上空に着いた。角牧場には万能家畜と称されるゴウクラトプスが群れを成していた。雌の方が全長約八mで雄がそれより頭一つ分小さいトリケラトプスに似た黒い角竜だ。卵を安定的に産み、車を牽き、肉は美味で糞は最上の肥料になるという生物だ。俺は平原に散り散りになった家畜を集めてここに持ってきたのだ。そして万能家畜を柵で囲って増やす事にした。


「とはいえ去年産まれた子供はたった四頭…ストレスの所為か知らんが本当に多産なんだろうか?」


去年は千頭居たのにそれしか産まれなかった。或いは何かコツがあるのだろうか?ハレはゴウクラトプスを育てた経験が無いらしく分かることは無いらしい。山の向こうにはあまり竜が住まないそうだ。気候の所為かもしれない、向こうは雪が降るそうだ。俺は春から夏にかけてしか住まなかったので雪はこの世に生まれてからは見ていない。

とにかく卵は産まない万能家畜だが、去年彼らのウンコを撒いた畑は超麦の収穫が一番良かった。ウンコに関しては結構万能だと確認できた。ちなみにウンコに関わる作業は汎用ロボット、アトビにやらせている。ウンコなんて触りたくないし女達にも触らせたくないのだ。今年も麦には彼らのフンを使う心算だ。とはいえ発酵をどの程度行うかも知識が無いので、十kgづつ発酵期間を変えたフンを用意して実験しているが、効果を確かめるには十年以上かかる。さっさと農民が来れば余計な手間も無いというのに。


「いや、傲慢な考えだな。俺の罪滅ぼしが済んで無いから人が来ないんだ」


アイテムボックスからゴウクラトプスの食事である牧草を取り出して、空の上から餌場に置いて、エレノアを探す。大体彼女は今の時間帯は角牧場を見回りしているが見当たらない。すると頭上から羽音が聞こえた。


「どうされました殿下?」


上をみると飛竜に跨ったエレノアが居た。リュウに相対速度と高度を合わせるように指示を出して二人で向かい合う。エレノアの乗った飛竜は野生化した竜を捕獲して飛竜に変化させエレノアに宛がったのだ。大きさは三年前のリュウと同じ位のサイズでソンショウと名付けた雌竜である。しかしリュウは子作りをしようとしない。主君を立てて俺が子作りするまで待つ気らしい。


「何、見回りだ。道路チェックも兼ねてな」

「道路と云えばソラヴェインに通ずる道路が少し損壊していました。魔物がやったのでしょうか?」


エレノアは兜を脱いで言葉を返した。三年前はまだ短い髪だったが、今は後ろで纏めたポニーテールである。金と緑の混じった様な色の髪は地球ではフィクションでしかありえない美しさである。出来ればもっと長くして欲しかったが、騎士として活動するにはこの長さが限界だから我慢してくださいと言われた。


「道の守りはボラートにやらせているが…恐らく人間だな。ボルートには人間に手を出すなと指示をしているからな」


ボラートは戦闘用のロボットである。六本の自在に武器に変化する腕を持ち千里を駆ける四本の太い足を持つ象を凌駕する大きさをもつロボットである。十体でドラゴンを狩れる戦闘力を持つ性能を持つ高級量産機である。

農素やアトビはゴブリンなどの低いランクの魔物の魂を素体にしているが、ボラートはトロルやデミ・ドラゴンの魂を使っている。ドラゴンの魂は主に金貨に変換している。ドラゴンをロボットに加工するには天然貨幣である金・銀・銅貨も莫大な量になるのである。それに今は金の方が役に立つかもしれない。


「ソラヴェインの盗賊でしょうか?」

「さて…この三年で田畑を襲撃したのは魔物だけだったが、そろそろ人間も襲ってくる頃合かもな」

「そろそろ壁を築きますか?」


エレノアの言う壁とは俺達の住む町に建てる予定の城壁である。三十万haの田畑を守る城壁ではない。やはりエレノアは騎士である。田畑は守るべきという発想は無い。


「今の所は必要ない。新築は人が住んでからだ」


マーリンを使えば一日で泥の長城が出来るが、街の公共事業として行いたいのだ。やはり公共事業は大事である。国民に仕事を与えるのと同時に建築技術の向上をやっておきたいのだ。ロボットの製造技術が継承できるかまだ分からないので、人間の能力で出来る余地を残しておきたい。

とはいえ今の所は正しく取らぬ狸の皮算用という奴である。


「しかし倉庫が焼かれては困ります。私達も一日中倉庫を見守ってはいられません」

「そこまでやるかな?」

「盗賊は堕ちた騎士がなる物です。ソラヴェイン王国はエクターが滅ぼしたわけですから、恨みも深いでしょう」


だからって食糧や畑を焼かれても困る。ボラートに人間を狩らせるようにするのは簡単だが、奴らは人間を区別できる知能は無いので無差別に虐殺をする危険がある。

やはりロボットは一長一短だな。そんなことを考えてているとシアンの使い魔がやってきた。俺と違い使い魔を百は同時に操れる上に情報収集力が段違いである。なのでシアンには防衛の類を任せている。


「何か用かシアン?」

「ポイント5にニンゲンガセッキンチュウ」


しかも使い魔なのに会話まで出来るのだ。意識の構造の違いからか俺にはこういう芸当が出来ない。


「あぁ…チオ卿が来てくれたのかな」

「チオヲセントウニ1000ニンイジョウノシュウダンヲカクニン」


どうやら難民を連れてきたらしい。食糧の支援を続けてはいたが、この国に入国する意思を持った人間は少ない。チオは説得を続けていたがようやく成功したらしい。

エレノアとシアンの使い魔と共にポイント5にある櫓を目指す。旗の立った櫓の向こうには人の群れが居たが、5000人くらい居そうに見える。先頭の鎧姿の男の前に降りるようにリュウに指示を出す。そう言えば俺の格好は粗末では無いが、騎士の鎧でもない。強いて言うなら貴族っぽい仕立ての格好だ。鎧を着るべきだったかもしれない。まぁそう無礼な格好でもないから良いかな。


「殿下…いえウルファス陛下」


地上に降りるとチオは竜から降りて平伏した。


「まだ王ではないぞチオ卿」

「これほどの農地を拓き、恐るべき強さを持った陛下を王と呼ばずして…」

「おいチオ!そいつがこの辺りの主か?」


人の群れの中から竜に乗った鎧騎士が進み出た。声から言って男だろう。手の紋章からレベル三十の青騎士と読み取れる。チオは立ち上がって何か言おうとしたが片手で制した。この男が何を言うのかを知っておきたかったのだ。


「俺がこの土地を開墾したウルファスだ」

「へっそうかい。ならば、そこの女と金と食い物…全部いただきだレベル0野郎っ!」


男は槍を構えて突撃して来た。迫ってきた槍を右手で掴む。篭手をつけなくても特に問題は無い。


「うぉっ!?」


槍は大きくたわんで騎士は竜から落ちた。騎士は槍を離したので、俺も遠くに槍を投げた。


「まだやるか?」

「当たり前だろうがっ!そんなレベルの奴に負けるかよっ!」

「愚かなことだ。レベルなど強さの参考にはならん」


男は聞こえなかったらしく剣を取り出して振るってきた。俺も剣を取り出し、横薙ぎに払う。騎士の剣は先端から二cmほど切れてしまった。


「けっ!少しはできるんだなっ」


男は何度も剣を振るってきた。男が剣を降るたびに同様のことをしたので、その都度剣は短くなり、剣が小剣ほどのサイズになった頃には男は震えて尻餅をついた。


「何をしているっ!」「そうだ。こけおどしにビビるなっ!」「否!奴を全員で殺すべきだ!」「そうだっ」「食い者と女を奪えっ!」


大勢の騎士が襲ってきたので、チオをエレノアの下に下がらせてから、突撃して来た騎士の槍を掴む。今度の騎士は竜から落ちたものの、槍を手放さなかった。仕方ないのでそのまま振り回して騎士の集団を蹂躙した。三人の騎士を倒した時に槍を離したのでそれからは普通に槍を振るったが、折れ曲がってしまったので、残りの三人ほどには剣を使って勝った。

最初の騎士に尻餅を突かせてから三分ほどの出来事であった。倒した相手に回復呪文をかけてやり、それぞれ敷き布に寝かせた。

何時の間にやらチオの連れて来た人々は俺の前に平伏していた。先頭に居た年嵩の男が俺に向かって話しをしてきた。


「へ…陛下はそんなにお強かったのですか…我ら一同この三年間貴方様を軽んじて本当に申し訳ございません…」


見覚えのある男だ。確か俺に石を投げてきたことの有る男である。


「気にするな、顔を上げてくれ。それよりお前達何人で来た?」

「そ、それは…その…」

「全員合わせて5210であります、陛下」


一人の少年が立ち上がって俺に教えてくれた。他に人間は少年を座らせようとしているが、別に俺は気にしないのにな。


「そうか、では屋根のある街に案内するから皆でついて来い。これからは餓えも迫害も魔物も気にしなくて良い。俺が守ってやるから安心しろ」

「了解しました陛下」


答えたのは少年だけであった。俺は振り向いて町に向かって歩き出した。リュウには先に飛んで帰らせた。エレノアには空から脱落者が居ないかを見守らせた。シアンにはアトビをつれてこさせて騎士達を担いで連れてこさせるように指示を出した。

俺の横にはチオと先程の少年が、後ろからはゾロゾロと民がついてきた。やはり道を整備しておいて良かった、この道路は魔術によって再生するアスファルトと化したので、歩くにも輸送するにも便利である。これほどの魔術を使ったカリグスさえ崩壊するのだからこの世もまた諸行無常である。俺も精一杯今を生きるとしよう。


「陛下、ついにこの時が来ましたね。(それがし)感無量です」


チオは兜の隙間から嬉しそうな表情を覗かせながら言った。


「陛下…ね。まだ王ではないと思うのだが」

「王に成ってもらわなくては僕らも困るんですが」


少年は生意気な調子でそういった。


「何故だ?」

「王無くば国纏まらず民なくて国治まらず。と云うではないですか」

「何故俺が王なんだ?」


人がある程度集まったら選挙で決める気だったが、もうそんな空気ではない。


「強い者こそが王です。責任を果たしてください陛下」

「いかにも、陛下こそ武・義・忠・礼・智全てを兼ね備えた理想の王です」


チオは誇らしい調子で俺を褒めた。五賢が俺にも備わっているとみたらしい。理想ね…結構なおべっかだが民は随分怯えている様子だが、果たして俺はいい王だろうか?とはいえもう王は決まったのかもしれない。今更引き返せるんだろうか?地主で暮らすほう方が楽そうでは有るのだが、今は乱世である。平穏無事に生きるには自分で治めるしかないのかもしれない。

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